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シリーズ「新型コロナ」その45:コロナ対策は「モグラ叩きゲーム」だ!

コロナ対策は「モグラ叩きゲーム」のようなものだ。
目の前に無数のモグラの穴が開いている。どの穴からどんな順番でモグラが顔を出すかわからない。待ち構えていて、出てきたら即座にハンマーで叩く。しかしすぐ別の穴から別のモグラが顔を出す。また叩く。その繰り返し。あちらを叩けば、こちらが出っ張る。延々と続くシーソーゲーム。
そこで、想像してみていただきたい。あなたに手が10本あって、それぞれの手にハンマーを握っている。その10本をモグラの穴にかざして、いっぺんに叩く・・・。
いや、それより何より、そもそもすべての穴を前もって塞いでおけたなら・・・。
これが理想的な対策で、それを実現したのが台湾やニュージーランドかもしれない。日本は遅きに失している感がある。ではどうするか?

■現状分析:今水面下で起きていること

新型コロナウイルスの性質は刻々と変化しているように見える。それに合わせて対策のフェーズも変わっていくようだ。
たとえば、クラスターが発生しやすい場所の傾向だけをとってみても、最初はライブハウスやスポーツジムだった。次に夜の接客業に移り、やがて飲食業全般になり、今は一般家庭や福祉施設に移りつつあるという。しかし、ウイルスが意志を持ち、出る穴を選んでいるわけではない。要するに、人間の警戒が手薄になっている場所が次にやられる、というだけの話だ。となると、次は公共交通機関あたりがクラスター化するかもしれない。そうなったら、事態は収拾がつかなくなる。特に都市の動きはフリーズし、ロックダウンどころの話ではなくなる。そのダメージは計り知れない。

ウイルスの性質も変化しているように見える。最初は高齢者や基礎疾患を持つ人が感染しやすく重症化しやすい、と思われていたため、高齢者や重症者に対策の力点が置かれていた。しかし、若年層も感染するし、むしろ若年層感染者が無症状や軽症であるからこそ感染源になりやすい、ということがわかってきた。軽症だと思って油断していると、急激に重症化し、肺炎以外の重篤な症状(血栓など)も危惧されるようになってきた。実際にウイルスは変異していて、毒性は弱まったとしても、感染力は強くなっていると報告されている。
ところが、これも当初からすべて予測(報告)されていたことなのだ。無症状者・軽症者が多い、ということも、急激に重症化するケースがある、ということも、そもそもウイルスというものは変異して当たり前、ということも。これもただ、警戒の手が弛んでいる部分が出っ張ってくる、というだけの話なのだ。

ついでに言うと、阪神淡路大震災や東日本大震災のときにも、私たちはすでに経験済みだが、大きな災害が起きたとき、医療やライフラインや生活必需品などの物理的な支援が一段落すると、とたんにPTSDなどの心の問題が大きくクローズアップされてくる、という経緯が必ずある。これも、ある日突然心の問題が発生するように私たちには見えるだけであって、実は私たちが物理的なことに気を取られている間に水面下で進行していて、臨界点を超えたときに、一挙に表面化する、というだけの話である。コロナにも、すでに感染者の自殺やDVなどの問題が浮上してきている。早急に手を打たない限り、この問題は今後ますます深刻化するだろう。

一方、肝心な対策立案の部分は、相変わらず偏った分野の専門家だけが集められて行われている。偏った分野の専門家だけが集まると、着眼点も偏るし、思考の死角も偏る。したがって、見逃しやミスの傾向も偏る。つまり、一本のハンマーをひとつのモグラの穴にかざしているような状態だ。別の穴からモグラが顔を出しても気づきにくい。あるいは軽視する。

■単眼的発想から複眼的発想へ

以上の事情を総合すると、こうなる。

「この災厄において、何が起きるのか、その兆しはすべて発生当初から出揃っていて、それを私たちも充分に予測できていた。ところが対策の着眼点があまりに偏っているため、警戒が手薄な部分に問題が発生しやすく、気づく前に深刻化する傾向にあるため、対策が後手後手に回ってしまう」

ならば、着眼点を増やすしかない。異なる分野の専門家をさっさと対策に導入して、偏りを是正するしかない。もうそろそろ、なるべくたくさんのハンマーを握って、この「モグラ叩きゲーム」に臨むべきなのだ。
しかし、異なる分野の専門家を集めて対策会議を開くと、それぞれの主張がぶつかり合って収集がつかなくなる傾向がある。妥協点を探っている間に、事態は刻々と変化していく。

この矛盾する状況を打開するには、どうしたらいいか。
このシリーズでもさんざん提案してきたが(シリーズ101517204344あたりを参照)、まず、まったく専門分野の異なる4人でチームを組む。これを「4象限チーム」と呼んでおこう。4象限の例は下表の通り。組み合わせは自由だが、必ず1象限から一人ずつ選ぶこと。

コロナ対策の4象限

この4象限チームをできる限りたくさん作っておく。
4象限であるメリットとは、自分たちが取り組んでいるタスクのフェーズが変わったとき、少なくとも「変わった」ということにいち早く気づける、ということだ。偏った分野の専門家だけでチームを組むと、それに気づけなかったり、気づいたとしても、相変わらず同じハンマーでそれに対処しようとしたりする。
一方、複数の4象限チームで複数のタスクを同時に遂行していれば、あるタスクのフェーズが変わり、それが自分たちのハンマーでは対処できないと気づいたら、すぐにチームを交替するか、あるいは二つのチームの合同プロジェクトとする。
つまり、この4象限チームは、一応取り組むタスクをひとつ決めておくものの、いつでも(関連しているが)違うタスクに取り組める準備をしておく、ということだ。異なる分野の専門家集団だからこそ、それができる。
また、たくさんのチームによる同時進行だからこそ、有機的にネットワークを組んで、タスクの変化に合わせた柔軟な対応と協力体制が可能となる。つまり、タスクの変化に合わせ、4人一組のチームが年中くっついたり離れたりできる、ということだ。
これを一言で言うと「ホロン型の組織構造」ということだ。
ホロンとは、ひとつひとつの部分に全体が反映されていて、全体は部分の総和以上の「何か」として機能している構造を言う。

■増殖するウイルスには増殖するタスクフォースで対応せよ

いわゆる「タスクフォース」というと、取り組むべきタスクがまずあって、それにふさわしい専門家が集められる、というのが通常の発想だ。だからこそ、そのタスクの達成目標と達成期限もあらかじめ決めておく、という発想になる。しかし、これでは刻々と変化する状況に対応できない。目標がクリアできないと、タスクそのものが失敗だったと決めつける傾向にもなってしまう。
この発想自体を換える必要がある。ウイルスとの戦いは終結しない戦いなのだ。
まず、どんなタスク(モグラの穴)が目の前に来ても対処できる(少なくとも変化に気づける)柔軟なチームを先に作ってしまう、という発想に換える。
モグラ叩きゲームをなるべく有利に進めるためには、なるべくたくさんのハンマーを用意しておき、あらかじめ関連する穴にかざしておき、どんなモグラがどんな穴から顔を出しても、なるべく同じハンマーで叩けるか、あるいは少なくともどんなハンマーが必要かをいち早く判断できるようにしておくことが肝要だ。これによって徐々に、危険そうな穴を察知してあらかじめ塞いでおく、ということも可能になっていく。
下の図は、それぞれのタスクフォースチームも、それを統括する対策本部も、同じ4象限チームによって構成され、すべてが有機的なネットワークでつながっている様子を示している。もちろん、タスクチームはいくらでも増やすことができる。タスクチームが増えれば増えるほど、モグラ叩きのハンマーも増える。

対策本部とタスクチームのネットワーク

対策本部は、各タスクチームがどのようなハンマーでどのようなモグラを叩いたか、報告を受け、その成果を全タスクチームで共有できるようにする。また、どのチームに人員が足りないか、どのチームのパワーに余力があるかなどを把握し、チームの増員や他のチームへの支援要請などを行う。
対策本部は常に「それぞれのチームのタスクがうまくいくために、対策本部ができることは何か」を考えるのである。対策本部の役割とは、ルールを作ることではなく、具体的な支援方法を考えることなのだ。対策本部ももちろん4つの異なる分野の専門家をまんべんなく集めた4象限チームに他ならない。
このようにして、対策本部に常に最新のノウハウが集結するようになるため、各タスクチームは「どのようなハンマーを用いて、目の前のモグラを叩いたらいいか」を対策本部に打診できるようになる。

千変万化の「忍者ウイルス」に対して、トップダウン式の硬直したヒエラルキー型組織では、とうてい対処できない。もっとも厳格なトップダウン型組織である軍隊でさえ、ゲリラ戦においては、現場の状況に合わせて瞬時に作戦を変更できるようなボトムアップ式の体制が採用されつつある。
ウイルスの動きは、ただでさえ後手後手の政治判断を待っていてくれるはずもない。
コロナ対策の現在のフェーズにおいて、一瞬の状況の変化に(いわば兆しの段階で)対応できる判断を下す(顔を出したモグラを躊躇なく叩く)ことができ、なおかつその判断がなるべく偏ったものにならないようにするにはどうしたらいいか、それが喫緊の課題であることに間違いはない。


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アンソニー  K
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