「私はこうして夢を学んだ」(その5)
人は誰しも、一生のうちに取り組むべき共通の成長課題と言えるものを持っています。
どの課題も、自分とは異質なものと出会い、その異質なものと自分との折り合いをつけていくことで、両者の間に統合が起き、一回り成長する、というプロセスだと思えば、まず間違いありません。
その典型的なものとして、「内なる異性」との出会いがあります。男性の中の女性性(これをアニマと言います)、女性の中の男性性(これをアニムスと言います)との出会いということです。「男性は男性らしく、女性は女性らしく」といった価値観が強い環境で育つと、自分の中の「内なる異性」が無意識の中に抑圧されやすくなります。これは、自己の一部を「あるのにないことにしておく」ということです。これでは人は成長しません。この抑圧によって、病理が発生する場合さえあるのです。
私は、まだ二十代の頃、アニマを強烈に実感するような夢をみました。いや、私自身がアニマそのものになっている夢と言った方がいいかもしれません。
その夢の中で私は、心は男性のまま、肉体が女性になっているのです。したがって、他人が外側から私を見たら、女性として認識する、ということです。これは、自分の中の女性性を見せられるというより、まさに自分自身がアニマ(いわば、「アニマ」という名の女性)そのものになってしまった、という状況です。この状況は、統合というより、心と体の逆転現象による分裂(ないし混乱)のように思えるかもしれません。
ところが、このとき私がどんな気分だったかというと、そばにいる人を、男性であろうが女性であろうが、手当たり次第に抱きしめてキスしたくなるような気分だったのです。夢でこのような至福感を味わったのは、後にも先にもこのときばかりでした。つまりそれは、自分が無意識に抑圧していたものの解放、あるいは分裂していたものの統合が起きたときの至福感ということでしょう。
自分の中の異性を強く意識し、それを抑圧せずにありのままに振る舞うことは、まさに異質なものを受け入れ、自己成長する絶好のケーススタディでしょう。
同じように、自分の中の子どもと大人、教師と生徒、金持ちと貧乏人、支配者と被支配者、仮面と影(タテマエとホンネ)、イヌとネコ、などなど、二つの異質なものの対立は、すべて統合すべき課題です。
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