シリーズ「ヤル気を伸ばす」(その10):モチベーションの類型論
このシリーズを通して一貫して、親・教師・上司といった社会化の促進者たちから「統制」を受けるなら、社会的ルールや規範に対して「取り入れ」を起こしやすく、自律性の支援を受けるなら「内在化(統合)」が促される、という全体的な傾向を見てきました。
さらに、「取り入れ」を起こしているなら、それは「分離・分裂(アレルギー)」ないし「同一化(中毒)」といった病理的な反応に発展しかねない事情も見てきたわけです。
ここで、すでに社会的ルールや規範に対する態度として、内在化しているか、それとも単に取り入れているのか、取り入れているなら、それに対してアレルギーを起こしているか、それとも中毒しているか、という具合いに、いくつかに分類できることがわかります。
そこで今回は、人がどのような背景に動機づけされ、それによって生きる態度がどのように定着し、「気質」化しているか、いわばモチベーションの様々な類型を見ていくことにします。
■4つの基本的な類型
まず、基本的なことを踏まえておきましょう。
日本語でいう「ジリツ」には「自立」と「自律」の2種類がありますが、この2つはまったく意味の異なる言葉です。それぞれの反対語を考えてみれば、意味の違いがハッキリするでしょう。
「自立」の反対語は「依存」です。つまり他者に頼っている状態(英語で言えば「Dependence」)です。したがって「自立」という言葉は「独立」と同義になるでしょう。英語で言えば両方とも「Independence」になります。
一方「自律」とは、自分で自分をコントロールしている状態(英語で言えば「Autonomy」)を意味しますので、その反対語は「被統制」、つまり他人にコントロールされている状態(英語で言えば「Controlled」)です。
以上の4種類をまとめると、次のようになります。
○独立的(Independent)
他者からの物質的、情緒的支援に頼らず、独力で何かをする性向。
○依存的(Dependent)
独力で何かをするよりも、他者からの物質的、情緒的支援に頼る性向。
○自律的(Autonomous)
自由な意志と自己選択の感覚をもって、それを動機として行動する性向。
○被統制的(Controlled)
行動の動機が、他者からの強制によるものと感じている性向。
おそらく、誰しもが、この4つの異なる性向を少しずつ持っているのではないでしょうか。肝心なのはどの性向が突出している(強化されている)か、ということでしょう。
■「独立」「自律」「依存」「被統制」の組み合わせ
これで終わりではありません。
次にこれらの組み合わせを考えてみます。
まず、「独立的」と「依存的」は反対の概念、「自律的」と「被統制的」も反対の概念ですから、「独立的であり、なおかつ依存的」という性向はないし、「自律的であり、なおかつ被統制的」というのも成立しません。
ただし、次のような組み合わせは両立しえます。
A「独立的であり、なおかつ自律的」(自主的に他者に頼らない)
B「依存的であり、なおかつ自律的」(自主的に他者に頼っている)
C「独立的であり、なおかつ被統制的」(他者に頼らないよう統制されている)
D「依存的であり、なおかつ被統制的」(他者に頼るよう統制されている)
Aのタイプは、本人がもともと持っていた独立心が支援された結果と考えることができます。
Bのタイプは、本人がもともと持っていた依存心が支援された結果と考えることができます。
Cのタイプは、「他者を頼ってはいけない」という統制を受けた結果と考えることができます。
Dのタイプは、「他者を頼らなければならない」という統制を受けた結果と考えることができます。
Aの人は独立独歩の人であり、いわば「職人的」ないし「研究者的」な気質を自ら育ててきた人と言えます。
Bの人は他者とうまく協調してやっていくタイプで、いわば「商人的」な気質を自ら育ててきた人と言えます。
おそらく、AとBの人には、迷いも不安もないでしょう。
その一方、CとDの人は自分本来の気質を自由意思で育ててきたわけではないので、自己不信感や不安感がつきまとっているのではないでしょうか。
■モチベーションの6つの気質
さて、これでもまだ終わりではありません。
違う方向性へ統制されてきたCとDの人が、それぞれの統制に対して、アレルギー(拒否反応)を起こしている(統制に反抗している)か、それとも中毒を起こしている(統制に服従している)かによって、またさらに4種類に分けることができます。
この事情から、AとBのタイプと残り4種類のタイプとを合わせて6種類の気質を考えるなら、次のようになります。
◎IA(Independent and Autonomous)=独立的でなおかつ自律的(職人・研究者気質)
自分の自由意志で、他者からの支援を受けない性向。
◎DA(Dependent and Autonomous)=依存的でなおかつ自律的(商人気質)
自分の自由意志で、他者からの支援を受け入れる性向。
◎独立的でなおかつ被統制的
○YCI(Yes for Controlled Independence)=独立統制への服従(軍人気質)
人に頼ってはいけないという統制に服従している。
○NCD(No for Controlled Dependence)=依存統制への反抗(革命家気質)
人に頼らなければ何もできないという統制に反抗している。
◎依存的でなおかつ被統制的
○NCI(No for Controlled Independence)=独立統制への反抗(山師気質)
人に頼ってはいけないという統制に反抗している。
○YCD(Yes for Controlled Dependence)=依存統制への服従(シンデレラ気質)
人に頼らなければ何もできないという統制に服従している。
くり返しますが、誰しもが以上6種類の性向を少しずつ持っているでしょう。問題はどの性向が突出しているかで、その人がどんな気質を主に育ててきたか、あるいはどんな統制に対してどう反応してきたかが、ある程度わかる、ということです。
この傾向を見ることで、その人がどのように社会的に適応しているかがわかるわけです。
■どんな背景がどんな気質を育てたか
では次に、上記6つのタイプの人が、どのような支援ないし統制を受けてきたと考えることができるかをシミュレーションしてみましょう。
ご自身の背景を省みて、思い当たるフシがあるかどうか確認してみてください。
まず、自律性を支援されてきたであろう2つのタイプを見てみます。
●IA(職人・研究者気質)
「何でも自分一人でできるというのは、すばらしいことだね」
「したいことを自由に何でもしていいよ。失敗したらリカバーのやり方を教えてあげるよ」
●DA(商人気質)
「人間は持ちつ持たれつで、互いに支え合うのはすばらしいことだね」
「したいことを自由に何でもしていいよ。失敗したらリカバーを手伝ってあげるよ」
おそらく、このような支援を受けてきた人は、他者に対しても、同じような態度で社会化の促進ができるようになっているはずです。
では、残り4つのタイプの人が、どのような統制に対して服従ないし反抗してきたかをシミュレーションしてみましょう。
こういう人は、「自律性の支援」の仕方を学習していないため、他者(特に目下の者)に対して、やはり統制的な態度で接する傾向があるようです。そこで、その人が他者に対してどのような統制を仕掛ける傾向にあるかも見ていきます。これは、その人が口先で何と言っているかより、現実(他者)に対する態度として示しているもの、ということです。
ついでに、このような統制を受けてきた人を、自律の方向へ支援するには、どのような声掛けが有効かも考えてみます。
●YCI(軍人気質)
○次のような統制に対して服従的
「何事も独力でやれ。人に頼るな。人に頼られる人間になれ。失敗は許さない」
○他者に対する統制の傾向
「すべて私の言う通りにしておけ」「私の言うことに逆らうな」
○自律性の支援への方向性
「責任が重くて大変だね」「何か手伝えることはある?」
●NCD(革命家気質)
○次のような統制に対して反抗的
「そんなことオマエにできるわけがない。やれるものならやってみろ」「ほら、やっぱり失敗しただろ。だからオマエはダメなんだ」
○他者に対する統制の傾向
「私もやっているんだからオマエもやれ」「人に頼るヤツは無能だ」
○自律性の支援への方向性
「キミは立派だね」「誰もキミのように頑張ることはできないよ」
●NCI(山師気質)
○次のような統制に対して反抗的
「何でもやりたいことをやりなさい」と言っておきながら、うまくできないだろうという前提で陰で見張っている。
※本来自立心があるが、自立性を強要され、それに反抗するあまり、他者への依存に中毒する。
○他者に対する統制の傾向
「私は自分ではうまくできないのだから、誰かが私を助けて当然」(平気で人に借金する、など)
○自律性の支援への方向性
「成功よりも失敗から学ぶことの方が大きいよ」
「キミは理想が高く、とても大きなことに挑戦しようとしているのだから、焦らず時間をかけて取り組んだらどう?」
●YCD(シンデレラ気質)
○次のような統制に対して服従的
「オマエは、一人では何もできやしない。オマエの代わりに私がすべてを決めてやる。だからオマエは何でも私の言う通りにしていなさい」
○他者に対する統制の傾向
「そんなこと、私に押しつけないでください」「うまくいかなかったのは、私のせいではありません」
○自律性の支援への方向性
「あなたは、もっと自分でできる人ですよ」「そんなに自分を安売りしなくていいのですよ」
■複合化した統制
さてさて、これでもまだまだ終わりではありません。
異なる気質が複合的に突出している場合というのもあり得ます。
そのパターンを、以下に5種類に分けてシミュレーションしてみましょう。
●YCI&YCD(服従傾向が強い)
独立統制に対しても依存統制に対しても服従的
「私は、人の言いなりになっていないと不安」
矛盾する二つの統制に対して服従してきたため、自己が希薄になっている。
●NCD&NCI(反抗傾向が強い)
独立統制に対しても依存統制に対しても反抗的
「人の言うことなんか、いっさい聞いてやるもんか」
自己防衛心によってエゴが強化されている。そのエゴも本来の心の要請ではない。
●YCI&NCD(独立統制が強い)
独立統制には服従し、依存統制には反抗している。
「何を言われようが、自分で責任を取ればいいんだろ」
いずれにしろ独立へと自分で自分を統制している。
●NCI&YCD(依存統制が強い)
独立統制には反抗し、依存統制には服従している。
「どんなことになろうと、私が悪いんじゃない」
いずれにしろ依存へと自分で自分を統制している。
●すべての統制が複合している
ありとあらゆる種類の統制を受け、それに対して服従したり反抗したりしてきた。
たとえば父親と母親からまったく正反対の統制を受け、すっかり混乱している、など。
自分の味方だと思える人に対しても、攻撃的に振る舞ったりする傾向あり。
さて、こうした複合的な混乱状態にある人は、まず自分が具体的にどのような矛盾した統制に対して心ならずも服従ないし反抗してきたのかを自己認識する必要があります。
そのうえで、実のところ自分の本心が何と言っているのか(「私は自律的に独立的でいたいのか、それとも自律的に依存的でいたいのか、それとも双方のバランスか」)に注意深く耳を傾けてみるとよいでしょう。
いずれにしろ、そうした統制から自分を解放することが自律への第一歩です。
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