ジェイムズ・ヒルマン著「魂のコード」
私は職業柄、書物に対する「嗅覚」のようなものが人一倍備わっていて、書店に行くと、そのとき自分に必要な本を匂いで嗅ぎ分ける自信があります。
今から24年ほど前のこと、仕事帰りに、普段あまり馴染みのない街並みを歩いていました。時間に余裕があったので、何の気なしに一軒の書店に入ってみました。どこの商店街にも一軒はありそうな小ぢんまりした書店です。ブックオフが登場して以来、この手の書店には滅多に入らなくなっていました。
お目当ての本があるわけでもなく棚から棚へ眺めていると、新刊本のコーナーだったでしょうか、一冊だけ棚から飛び出して光輝いているように見える背表紙があるではないですか。そんなことは初めてでした。まるで私に「さあ、手に取りなさい」と言わんばかりです。
思わず手に取り、パラパラとめくってみると、ピンときました。
新刊本なので、ブックオフにあることは期待できません。いつもの私なら、ブックオフに下りてくるまで待つのが常ですが、その本だけは今すぐ買うべきだという直観が働きました。
帰りの電車の中で読み始めたら、もうとまらないのです。
結局この初版本は、傍線だらけ、書き込みだらけ、付箋だらけになりました。
読み終えるのがもったいないと感じる本には、滅多にお目にかかれませんが、この本はそれでした。そして、読み終えたとき、私の座右の書になっていました。
ジェイムズ・ヒルマン著「魂のコード」(ヴォイス)
この本は、出版当時全米でベストセラー第一位になるほどの人気だったそうで、こういう本が広く読まれるアメリカも、なかなか捨てたもんじゃないな、と思ったものです。
本の帯にはこうあります。
『人間の魂を「遺伝と環境」という因果の鎖より解き放つラディカルな名著』
もちろん、この謳い文句に恥じない内容です。
実際、おそらく私も、この本を読んで、因果の鎖から自分の魂を解放したのだろうと思います。この本との出会いによって、その後の私の運命が開かれたと言っても過言ではないでしょう。