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【短詩】サボテン

サボテン

「バイバイ。」
それは、終わりを越えた世界の物語。

楽園の鳥かごを抜け出して、僕は一人ゆっくりと、砂塵と蜃気楼の中を歩いている。
「君たちと違ってまだまだ未熟者だからさ、もっと素晴らしい人間になるために、修行の旅に出てくるよ。」
そんな手紙を残して。

与えられたぬるま湯でふやけているだけの自分が嫌いだった。ああなりたい、こうなりたいって夢を描くのに、身体は一歩も動きやしないんだ。

「君たちは本当にすごいな。自分に自信たっぷりで、いつだって視界が澄み切ってるようだ。僕は近視だから、メガネをかけなきゃやっていけないよ。」

旅の途中、おしゃべりをしている水色の鳥たちに出会った。幸せを呼ぶ青い鳥だなんていうけれど、お前たちの翼はなんのためにあるんだい?
ああ、そうか。いつでも飛べるという余裕かな。

「僕には正解なんて分からないし、勝ち誇った気持ちよさなんてもっと分からない。ただ、ただ。亀みたいに淡々と歩むことしかできないんだ。
君たちはやらないんじゃない、ちょっと気が乗らないだけだもんね。
気分が乗れば、ゴールまでウサギのようにひとっ飛びだろ?」

赤く染まったサボテンの花が、砂色の道を彩ってくれる。それは一点を見つめればどうしても愛しいのに、チクチクと嫌らしいんだ。

「それじゃあ、手紙はここらへんで終わりにしようか。またいつか、素敵な舞台で肩を並べようよ。
あ、昼寝のアラームはちゃんとかけたかい?」

これはいつまでも退屈な世界と、過去の自分へのアイロニー。


自己紹介

高帆 按樹(たかほ あんじゅ)と申します。
創作サークル「夜顔のツボミ」にて、小説や音楽、ゲームなどを制作しています。
ホームページや各種SNSにて今後の活動をお伝えしていきますので、ぜひフォローをよろしくお願いします。
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