男の子との思い出話
①「泣かないで」
私は人生に一度だけ、「泣かないで」と言われたことがあります。一度ではないのかもしれませんが、私には一つの記憶しか残っていません。今日は久しぶりに泣いていたら、10歳ぐらいの昔の私に「泣かないで」と言ってくれた年下の小さな男の子のことを思い出しました。
私は小学1年生から中学3年生までの9年間、近所の公文に通っていました。週4日行って、英語と国語と数学を勉強していました。学校の進度よりも、自分のペースで何段階も早く学習できるので、同級生の一歩どころか、二歩、三歩前にいる感覚でした。だから、少し鼻が高くなっていました。
でも、よくわからなくて間違えまくると、先生に怒られていました。いくらやってもわからなかったときは、嫌になって泣いていた覚えがあります。一度泣き出したら、なかなか泣き止めなくて、奥の方の席に座って、大号泣していました。向かい斜めには私よりずっと小さい男の子が、一人でプリントの問題を解いているところでした。
私は下を向いて泣いていましたが、その男の子にずっと見られていることを感じていました。その子は手を止めてじっと私を見ていました。そして、男の子に「泣かないで」と言われました。「泣かないで」と言われたら、私はもっと泣きました。泣き止むまでどれくらいの時間を要したのかわからないくらい泣いていました。男の子の顔もほとんど見ていないので、覚えていません。
でも、彼が私に言った「泣かないで」だけは未だに覚えています。私はそのときに人生で初めて、「泣かないで」と言われたような気がしたんです。
②「これ何かわかる?」
去年の夏休みにインターンの平日稼働で、三重県のイオンモールに行ったときの話です。イオンモール内にある家電量販店の入り口のところにずっと立っていました。そしたら珍しく、小学生くらいの男の子が一人で私の目の前に来ました。
一人目に来た男の子は、私が持っていたスマホ料金プランの一覧表を見て、「高―い」って言っていました。私が「スマホの値段(iPhone14,128GB)は13万円くらいだよ。」と言ったら、「ええ…じゃあ、スマホはいらないや。お母さんのを使う。」みたいなことを言っていました。
その後に、男の子が「これ何かわかる?」って、後ろを向いて小さいリュックを見せてきました。「これ」が何を指しているのか理解できなくて、私はちょっと戸惑っていました。リュックから長いお菓子が飛び出ていたので、「お菓子?」って言ったら、「ガム。10個入りのガム。」って言っていました。
その後はよくわからない会話をちょっとして、男の子は近くにいたおばあちゃんのところへ戻っていきました。一人で私の目の前に来て、連れの人がしばらく見当たらなかったので、私は若干の不安を感じていました。でも、普通にその男の子が戻っていったから、ああ、あの人が連れの人なのか…って、なんだかほっとしていました。
③ありがとうティッシュ
二人目に来た男の子は、私が突っ立っていたら、急に目の前に来たので、近!!とびっくりしていました。私が手に持っていた「ありがとう」とデザインされているかわいいウェットティッシュが欲しいみたいでした。でも、その子は何も言いませんでした。
子ども・未成年と思われる人にティッシュを渡しても意味がないし、渡さないように注意されているので、なんとも言えず少し気まずい時間が流れていました。私の目の前に立っていたけど、少し遠くからお母さんに呼ばれてその子は去っていきました。
しばらく経った後に、インターンの関係者の男性と隣で話していたら、また同じ男の子が目の前に来たから、私は驚きました。相変わらずティッシュが欲しいみたいだったけど、渡せないので、軽く「ごめんね」って言っておきました。その子は、もう一度お母さんに呼ばれて戻っていきました。
その前もただ立っていただけで、男の子がなぜか目の前まで近寄ってきたことがあります。女の子には一度も話しかけられたことがなかったのに、男の子には話しかけられました。私は、年下の男の子にだけはモテるんでしょうか。ひょっとしたら、子供は好奇心旺盛だから、ただ単に何をしているのか気になっていただけなのかもしれませんが…。そして、私の素っ気ない態度が、子どもにとってはちょうどいい距離感なのかなあ…なんてことを思います。
ショッピングモールとか家電量販店って、家族連ればかりで私は嫌でした。家族という集合体を目の当たりにしていて、私は気分が悪かったんです。子供を見る度に、この子には「こっちだよ」って呼んでくれる親が居て、一緒に帰る家があるんだよなあ…とか、家族って何なんだろう…とぼんやり考えながら働いていました。