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バレットさんが経営している食堂ではありません。バレット氏が最初に報告したことから命名されました。バレット食道とは、食道の重層扁平上皮が胃の円柱上皮に置き換わったものです。バレット上皮ともいいます。食道下部粘膜が、炎症により胃から連続的に円柱上皮に置き換えられた状態で、80%が腸上皮化生を含むことから発癌リスクが高いと考えられています。変化した病変の長さにより次の2つに分けられます。

・ショートバレット食道(short segment Barrett esophagus; SSBE)
・ロングバレット食道(long segment Barrett esophagus; LSBE)

SSBEは、変化した病変が全周性に3cm未満のバレット食道ををいい、一方LSBEは、その病変が全周性に3cm以上のバレット食道をいいます。

発癌リスク因子

近年、食生活の欧米化、肥満の増加、ピロリ菌感染率の低下から、逆流性食道炎を始めとする胃食道逆流症の患者の急増により、バレット食道さらにはバレット食道癌の患者が増えることが懸念されています。LSBEのがん発生率は年間0.5~1.2%程度と考えられています。発癌リスク因子としては次のようなものがあります。

・LSBE
・高齢者
・男性
・肥満
・喫煙
・逆流性食道炎
・GERD症状
・ピロリ菌非感染
・大腸腫瘍
・異形成

バレット食道のうち発癌リスクが明らかとなっているのは、腸上皮化生を伴う長さ3cm以上のLSBEのみです。したがって生命保険とがん保険の引受査定基準としては、LSBEは引受困難と思われます。また腸上皮化生のある患者はない患者に比べ、3倍の腺癌リスクがあり、高度異形成(high grade dysplasia)の患者は腸上皮化生があると有意に癌発生頻度が高くなると報告されています。人間ドックの上部消化管内視鏡検査で、食道所見に留意する必要があります。

逆流性食道炎およびGERD症状があると、バレット食道が延長することが知られています。ピロリ菌感染率の低下が始まって以後、約20年のスパンで逆流性食道炎、バレット食道、さらにバレット食道癌の増加が起こっています。またバレット食道には、大腸癌を含む大腸腫瘍が多いことも判明しています。一方、アスピリン、NSAIDs、PPIは、バレット食道癌の発癌に抑制的に作用するようです。

人間ドック成績表の上部消化管内視鏡検査の所見には、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎とバレット食道が1組の疾患のように記載されることが多くなっている感じがします。ピロリ菌は、胃潰瘍から胃癌の原因と言われていますが、この除菌に成功したとしても、次には逆流性食道炎が起こりやすくなります。胃潰瘍に対するピロリ菌除菌治療が成功裏に終わっても、逆流性食道炎からのバレット食道のリスクが増加しているのですね。

(参考)
天野祐二 他、日本消化器学会雑誌 2015; 112: 219-231







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