図面情報を用いたパテントポートフォリオ分析(第2報: クラスタリング結果評価)
1 緒言
前報(1)では、特許の図面情報を用いて同一もしくは類似システム構成図面を利用している特許群をグループ化することでパテントポートフォリオを効果的に可視化できる「図面ポートフォリオ分析手法」を提唱し、パナソニックのドラム式洗濯機関連特許を例に取り本分析手法の有効性を示した。
しかし、図面ポートフォリオ分析によるクラスタリング結果の評価は十分行われていない。従来の特許分類(IPC・FI・Fターム)等の書誌的事項やテキストマイニングを利用したパテントポートフォリオ分析のクラスタリング結果と比較することで、図面ポートフォリオ分析の有意性・有用性を示す必要がある。
本稿では、前報(1)で示したクラスタリング結果および新たに実施した任天堂出願特許の図面ポートフォリオ分析・クラスタリング結果に対して、書誌的事項(特許分類・発明者)および要約・請求項のキーワードから評価した結果について報告する。
2 クラスタリング結果の評価について
評価対象となる特許は以下の検索式にて特許電子図書館より抽出した。パナソニック・ドラム式洗濯機関連特許は前報(1)で既に図面ポートフォリオ分析を実施しており、任天堂出願特許については新たに図面ポートフォリオ分析を実施した。
パナソニック洗濯機関連特許および任天堂出願特許のクラスタリング結果である図面グループ別件数を図1に示す。クラスタリング結果の例としてパナソニックのH-A(横ドラム洗濯機)、T-A(斜めドラム洗濯機)、任天堂のSys01(Wii関連)、Por01(DS関連)を示した。
評価項目は特許分類・発明者・キーワードの3つを採用した。特許分類・発明者による評価はパナソニック・任天堂共通とし、キーワード評価はパナソニックのみとした。
3 クラスタリング評価・検証結果
3-1. パナソニック・斜めドラム式洗濯機
特許分類評価はIPC(D06F23/06 傾斜軸周りの回転または振動)およびFターム(3B155CA02 ドラム式(水平又は傾斜回転ドラム))による斜めドラム式洗濯機各グループ(T-A~T-F)の特許抽出率を評価した。
図2に特許分類評価結果を示す。IPCでは斜めドラム式洗濯機特許群を抽出することは極めて困難であることが分かる。またFタームでは100%近く抽出できることが示されているが、今回利用したFタームの定義は「ドラム式(水平又は傾斜回転ドラム)」であることから、本Fタームによって斜めドラム式洗濯機特許群のみを抽出することは不可能である。なお、IPCによる抽出率よりもFタームによる抽出率が高い理由としては、Fターム付与作業の対象が【特許請求の範囲】のみではなく【発明の詳細な説明】も含まれているためであると考えられる。
キーワード評価はIPC・D06Fが付与されたパナソニック(旧社名・松下電器産業で検索)出願特許の中で【要約】または【特許請求の範囲】に「傾き OR 傾け OR 斜め OR 傾斜 OR 傾動」を含む特許と各グループに含まれる特許を比較することで、キーワードによる抽出率を評価した。
表1にキーワード評価結果を示す。斜めドラム式洗濯機全体ではキーワードによって20%ほどの特許を抽出することが出来ない。特にT-Aからの派生技術であるT-C・T-Dなどについてはキーワードによる抽出が困難であることが分かった。
発明者評価は2つの方法で検証した。1つは斜めドラム式洗濯機特許T-A・141件の個別発明者抽出率による評価、もう1つは発明者相関分析システムICORAS(2)を利用した発明者群による抽出率の評価である。
表2に個別発明者評価の結果を示す。斜めドラム洗濯機T-Aの出願を行っている発明者の中で最も件数の多い発明者でも27件でT-A抽出率は19%に留まる。特許ポートフォリオを構成する特許件数が多くなればなるほど、そのポートフォリオ形成に従事する発明者数(研究開発人員)は増加し、研究開発の中心となる発明者が全ての特許出願に登場するとは限らないため、個別発明者をキーとして特許ポートフォリオ全体を抽出することは困難であると言える。
次に発明者相関分析システムICORAS(2)による評価結果を表3に示す。まずICORASによりパナソニック洗濯機関連特許304件の発明者群を生成し(本件では47発明者グループ)、その層別化された発明者グループのうち10件以上出願している発明者グループの総件数T-A抽出件数・抽出率を調べた。
パナソニックのドラム式洗濯機全体における発明者グループとして最も数多く出願している萩○久○グループは51件中23件が斜めドラム式洗濯機T-A特許であり、T-A抽出率では16%である。その他、寺○謙○グループや皆○裕○グループはグループの全出願がT-A特許であるが、T-A抽出率は10%前後に留まっている。発明者グループを用いても、システム図面でグルーピングしたパナソニック斜めドラム式洗濯機T-A特許全体を抽出することは難しいことが分かる。
3-2. 任天堂・ゲーム(Wii・Nintendo DS)
任天堂のクラスタリング結果の中からNintendo DS関連特許グループであるPor1~Por5、Wii関連特許であるグループSys01~Sys04を用いて、特許分類・発明者の2つの側面から検証を行った。
図3にIPC・A63F13およびG06F3によるグループPor1~Por5およびSys01~Sys04の抽出率を示した。A63F13を検索キーとすれば出願件数の多いSys01などを抽出することができるが、当然のことながら別のグループの特許も含まれてしまうためSys01のみを抽出することは困難である。
表4に個別発明者評価結果を示す。最も多く出願している太○敬○氏は26件(全体の約10%)特許出願しており、出願の中心はWii関連のSys01が中心であるが、Nintendo DS関連Por02やSys02にも関与している。また2位の佐○賢○氏も太○敬○氏と同様の傾向である。Sys01に注目すると、Sys01は73件の特許出願が存在するが、最もSys01に関与している太○敬○氏を検索キーにしても約26%(=19件/73件)しか抽出できない。パナソニック・ドラム式洗濯機の例と同様に、複数の発明者に分散して開発が進んでいるために、発明者ベースでは抽出できないことが分かった。
4 考察および結論
研究開発体制は技術面・製品面の両面を考慮して構築され、1つの発明者グループ(狭義の研究開発体制)で先行開発フェーズから商品・製品化フェーズまで手掛けるケースは、特に大企業では稀である(3)。ゆえに個別発明者や発明者グループでの特許ポートフォリオ抽出が難しいと言える。また、各フェーズにおける研究開発の成果である特許には、技術的観点に基づいて特許分類が付与されるために、特許分類からの特許ポートフォリオ抽出も難しいと考えられる。
以上の分析結果・考察より、図面ポートフォリオ分析により得られたクラスタリング結果に対して特許分類・発明者グループ・キーワードより評価・検証を行った結果、図面ポートフォリオ分析を用いることで、図4に示すように既存の書誌的事項やキーワード検索によるポートフォリオ分析とは異なった側面でクラスタリングできることを示した。
参考文献
野崎篤志、図面情報を用いたパテントポートフォリオ分析、日本知財学会第6回年次学術研究発表会要旨集、2008年
Pat-i-Labo、発明者相関分析システムICORAS http://www.pat-i-labo.com/icorasb/
例えばパナソニック企業情報 > 技術・研究開発 > 研究開発体制 < http://panasonic.co.jp/
company/r-and-d/structure/>