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【特許から見る】波力発電の出願動向は?-太陽光発電や風力発電と並んで注目される再生可能エネルギー

昨日、河野防衛大臣のツイッターを見て、そうだ波力発電についての特許出願動向について調べてみよう、と思い立って記事を作成しました。

もともと大学院時代に熱流体力学を専攻しており、エネルギー分野には興味がありました。新卒で入社した会社でも太陽光発電・太陽電池などをはじめ、再生可能エネルギー分野についての特許調査・分析も行ってきましたが、波力発電について分析するのはこれが初めてです。

さてどのような出願動向になっているのでしょうか?

毎回のことになりますが、特許について詳しくない方もいらっしゃるかもしれませんので、以下の分析結果をご覧いただく前に少し留意点を書いておきます。

・企業や個人の方が出願した特許には、技術的な内容や課題など様々な情報が詰まっています。ここではJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)という日本特許庁が無料で提供しているデータベースを使った分析結果を示しています。どういう条件で分析母集団を形成したか等については末尾の「検索条件」をご覧ください。
・特許は出願されてから公開されるまで1年半(18か月)かかります。よって以下で分析した日本特許の最新分は2018年の年末あたりに出願された内容となります。そのため、直近2年分の出願は減少しているように見えますが、減少しているわけではなく、出願~公開までのタイムラグがあるため減少しているように見えてしまいます。

最古の波力発電の特許出願は?

さて、波力発電関連の日本特許出願動向を見ていこうと思いますが、その前に波力発電関連で最も古い日本特許はどんな内容なんでしょうか?

あくまでも今回設定した検索式の範囲内での最古の出願となりますが、なんと1899年5月17日(明治32年!)の出願が見つかりました。

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特明3869で発明の名称は「波濤原動機」(おそらく原動機だと思うのですが、旧字体が変換できませんでした)。明細書も

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のような感じなのでちょっと内容を理解するのは放棄しました・・・

特許から見た波力発電の動向

"特許から"と書いていますが、特許だけではなく実用新案も含まれている結果になりますのであらかじめご了承ください。

まずは波力発電関連の出願トレンドを見てみます(1989年以降)。

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波力発電関連出願は1989年以降、年30件前後で推移していましたが、2007年以降増加し、2013年以降は減少しています(2019-2020年出願は未確定値)。

ちなみにここではデータを示しませんが、同じ再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電と比べると、波力発電は出願規模が大きいテクノロジーではないことが分かります。

波力発電関連特許出願に積極的な企業は?

続いて、波力発電関連特許出願に積極的な企業についてみていきましょう。

1989年以降で分析していますので、約30年間の特許の出願人・権利者(企業・研究機関)ランキングになります。

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備考①:出願人・権利者名については簡易的に名寄せしています。
備考②:公開というのは出願されてまだ権利化されていない案件、登録というのは出願後、特許庁審査官の審査を経て登録になった案件です。ただし登録となっていても権利存続中のものと権利失効済の案件が混ざっています。

トップは三菱重工業で累積51件、そのうち11件は権利化しています。2012年に以下のようなニュースがありましたが、最近特に注力している様子は伺えません。

2位はオーシャンパワーテクノロジーズインク(Ocean Power Technologies, Inc. )で、ウィキペディアによるとアメリカの公的機関で、

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のような浮遊型の波力発電システムを開発しています。

3位は三井造船、4位は日立造船、そして5位にKYB(旧カヤバ工業)と日本勢が続きますが、上位にはオーシャンパワーテクノロジーズインク(Ocean Power Technologies, Inc. )以外にもシーベイスト、シーイーティーオーアイピー(CETO IP)、インジン(INGINE Inc)などの海外企業もランクインしており、海外でも積極的に研究開発が進んでいることが伺えます。

ちなみに、波力発電なので意匠は関係ないだろうと思っていたのですが、念のために調べてみたら3位の三井造船は意匠登録1536073

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という波力発電システムの意匠を出願・権利化していました(その他にも波力発電関連の意匠出願がありましたが、いずれも海外勢でした)。

累積では上述のようなランキングでしたが、特に最近特許出願に積極的なのはどの企業なのか?を出願ポジショニングマップで見てみましょう。

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こちらは、出願ポジショニングマップと私が呼んでいるマップで、横軸に長期増減率、縦軸に短期増減率を取って、バブルサイズが累積件数です。こちらのマップからは、

第1象限:長期でも短期でも出願が伸びている企業
第2象限:長期でも減少しているが、最近出願が伸びている企業
第3象限:長期でも短期でも出願が減っている企業
第4象限:長期でも増加しているが、最近出願が減っている企業

のように層別化することができます。

このマップから三井造船が近年積極的に波力発電関連特許出願を行っていることが分かります。三井造船(持ち株会社の三井E&Sホールディングス)のウェブサイトには、

のように「海洋における再生可能エネルギー活用の実現化に向けて、沿岸型波力発電の研究に取り組んでいます」と波力発電に注力していることが伺えます。

波力発電関連のテクノロジーの内容は変化したのか?

さて次に波力発電に関する特許・実用新案出願の内容は変化しているのか?について、特許の技術分類であるFI(ファイルインデックス)サブクラスの出願ポジショニングマップを使ってみていきたいと思います。

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F03B(液体用機械または機関)は波力発電そのものの技術になりますので、F03B以外で見ていきます。

波力発電の特許分類は、より詳細には以下のようになっています。今回は波力発電と並ぶ海洋エネルギー発電である潮力発電は含めていませんが、潮力発電についてはF03B13/26が該当します。

F03B 液体用機械または機関
F03B13/00 特殊用途のための機械または機関の適用;駆動するかまたは駆動される装置と機械または機関の組み合わせ
F03B13/12 ・波または潮のエネルギを使うことを特徴とするもの
F03B13/14 ・・波のエネルギーを使うもの[4]
F03B13/16 ・・・波で操作される部材と別の部材との間の相対運動を使うもの[4]
F03B13/18 ・・・・他方の部材が少なくとも1点で海底または海岸に対して固定されているもの[4]
F03B13/20 ・・・・両部材が海底または海岸に対して可動なもの[4]
F03B13/22 ・・・波動に起因する水の流れを使うもの,例.液圧モータまたは液圧タービンを駆動するもの[4]
F03B13/24 ・・・空気の流れを起こすもの,例.空気タービンを駆動するもの[4]

F03B13/26 ・・潮のエネルギを使うもの[4]

そうすると、直近で伸びている(=Y軸付近にポジション)のは

F01D 非容積形機械または機関,例.蒸気タービン
B09B 固体廃棄物の処理
F03D 風力原動機

などが見つかりました。

F01D(非容積形機械または機関,例.蒸気タービン)で最近積極的に特許出願しているのが東京大学で、

特許6422014 波力発電装置
特許6399581 波力発電装置
特許6357668 波力発電タービン
特許6354051 波力発電タービン
特許6524397 波力発電タービン
特許6524396 波力発電タービン

のような特許を権利化しています。特許6422014の図面を示すと、

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のようにタービンを用いており公報には「ウエルズタービンで構成される波力発電用タービンを用いて波力発電を行う波力発電装置」とあります。

次のB09B(固体廃棄物の処理)は海洋プラスチック汚染対策について波力発電でもケアしているのだろうか?と思ったのですが、ちょっと思った出願とは異なったので省略します。

最後のF03D(風力原動機)ですが、波力発電なのに風力発電?波力発電と風力発電のハイブリッド発電か?と思ったのですが、ハイブリッド型の発電システムではなく、以下のようなウィンドファーム(風力発電)にも波力発電にも適用できるような出願(日立パワーソリューションズ、特開2013-219941)などでした。

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まとめ

たまたま、河野防衛大臣のツイートを見て「よし、波力発電のとっきょを調べてみよう」と思い立ち記事を書いてきましたが、思ったよりも波力発電の研究開発・特許出願に積極的な日本企業が少ないことに驚きました。むしろ海外企業の方が積極的に特許出願・権利化を図っているという印象を持ちました。

日本は日照時間や風が強い地域が限定される関係で、欧米ほど太陽光発電や風力発電の導入が積極的に進んでいませんが、周囲を海で囲まれた地形を生かした波力発電というのは次世代エネルギー源の1つとしてもう少し注目を浴びても良いかと思います。また波力発電以外にも、火山が多い日本ですので地熱発電という再生可能エネルギーもありますので、また機会をあらためて地熱発電の出願動向についてもまとめてみたいと思います。

検索条件

検索実行日:2020年7月27日
データベース:J-PlatPat
文献種別:国内文献(特許(特開・特表(A)、再公表(A1)、特公・特許(B))、特許発明明細書(C)、実用新案(実開・実表・登実(U)、実全(U1)、再公表(A1)、実公・実登(Y))、登録実用新案明細書(Z)))
検索式(論理式):[F03B13/14/FI]+[B63/FI+E02B9/00/FI+F03B/FI+H01M/FI+H02/FI]*[波力発電/TI+波力発電/AB+波力発電/CL+波発電/TI+波発電/AB+波発電/CL+波エネルギ,1C,変換/TI+波エネルギ,1C,変換/AB+波エネルギ,1C,変換/CL+波浪エネルギ,1C,変換/TI+波浪エネルギ,1C,変換/AB+波浪エネルギ,1C,変換/CL]+[3H074AA02/FT+3H074AA03/FT+3H074AA04/FT]
検索ヒット件数:1,101件

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