転んだときだけ柔らかくなる床「ころやわ」を手掛けるMagic Shieldsの特許出願
「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。
SNSを見ていると、ベンチャー・スタートアップの資金調達などの情報を目にすることがあります。
たまたま、Magic Shieldsが1.4億円の資金調達を実施したというニュースが目に入ってきました。
手掛けている製品が
転んだときだけ柔らかくなる床「ころやわ」
とIT関係ではなくモノだったので、どんな特許出願しているのか気になったので調べてみました。
まずMagic Shields社ですが、
Magic Shieldsは2019年に設立された、自動車工学と医学をベースに新素材と構造「メカニカル・メタマテリアル」の研究開発、および製造・販売を行うスタートアップです。世界で増加している高齢者の転倒による骨折を減らすため、Magic Shieldsは転んだときだけ柔らかい「可変剛性構造体」を使った「ころやわ」を開発し、床やマットとして病院や高齢者向け施設へ提供しています。
という会社です。Google Patentsで調べてみると、
1件特許出願が見つかりました。
WO2021107157A1
床材システム
衝撃を吸収する床材システムであって、地面と略平行な面を持つ上部層と下部層と、前記上部層と前記下部層とを連結し、複数の衝撃緩衝能を持つ脚部を有する基礎材と、前記基礎材は、平面方向に沿って配列され、前記基礎材に掛かる力を分散する分散材と、を備えることを特徴とする、床材システムを提供する。
ちなみに特許請求の範囲は
1.衝撃を吸収する床材システムであって、
地面と略平行な面を持つ上部層と下部層と、前記上部層と前記下部層とを連結し、複数の衝撃緩衝能を持つ脚部を有する基礎材と、
前記基礎材は、平面方向に沿って配列され、
前記基礎材に掛かる力を分散する分散材と、
を備えることを特徴とする、床材システム。
2.前記脚部は、前記基礎材の四隅に配置されること、
を特徴とする、請求項1に記載の床材システム。
3.前記脚部は、平面方向に対して略垂直方向に一定以上の力が加わると座屈する座屈部を備えること、
を特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の床材システム。
4.前記脚部の少なくとも1つの側面において、平面方向に対して略水平に沿った溝を備えること、
を特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の床材システム。
5.前記分散材は、隣接する二つの前記基礎材を跨いで設置される第1の分散材と、
互いに隣接する4つの基礎材を跨いで配置する第2の分散材と、
を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の床材システム。
となっており、かなりシンプルです。
こちらの特許出願は国際出願(PCT出願)となっており、日本だけではなく海外含めて特許出願する際の手続きをまとめて行うものです。
どの国に移行しているか確認する際はWIPO Patentscopeを用います(Simpleサーチメニューで公報番号を入力)。
上のタブの中で[National Phase]で確認するのですが、現在はグレイアウトしているので、まだ各国移行していない/各国移行情報は収録されていない状況です。
ちなみに、この特許は今年6月に国際公開されており、まだ日本では特許公報が発行されていません。日本特許情報を収録しているJ-PlatPatに収録されるのは、国際出願後に日本特許庁へ移行してからとなります(再公表特許)。そのため、上記出願はJ-PlatPatで調べても見つかりません。
なお、細かい情報になりますが、現在日本特許庁では公報発行システムの改革を行っており、国際出願(PCT出願)が日本へ移行した際に発行されていた再公表特許を廃止すると発表しました。
おそらく上記の国際出願が日本特許庁へ移行しても、再公表特許という形では発行されず、審査を経て登録になった後に特許公報(登録公報)として初めて補足できます。ベンチャー・スタートアップが必ずしも日本特許庁を第1国として特許出願するわけではないので、今後はGoogle PatentsやWIPO Patentscopeなども併用して国際出願(PCT出願)も補足するようにすると良いでしょう。
何気なく調べてみたMagic Shieldsの特許出願ですが、クレーム(特許請求の範囲)のシンプルさにも驚きましたが、国際出願(PCT出願)を行っていたことで、ちょうど再公表特許廃止について解説するための良いテーマとなりました。
今後は日本語PCT出願の日本特許庁へ移行した後に発行されていた再公表特許が発行されなくなるという点は覚えておくと良いでしょう。
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