見出し画像

IPC・FI同士のAND演算は邪道なのか?特許分類同士のAND演算について考える

割引あり

「知財情報を組織のチカラに®︎」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

あまり最近は聞かなくなりましたが、IPC・FI同士のAND演算は邪道、という説があります。

今回は「IPC・FI同士のAND演算は邪道なのか?」について考えていきたいと思います。


1 Fターム同士のAND演算はなぜ良いのか?

そもそも、IPCやFI(CPCも同じですがここでは省略)同士のAND演算はタブー視されているのに、FタームのAND演算はなぜ良いのでしょうか?

実はFタームのAND演算といっても、すべてのFタームのAND演算が良いわけではなく、AND演算に適したFタームとそうではないFタームが存在します。

実はAND演算に適していないFタームというのはIPC・FI同士のAND演算を行うとほぼ同じような意味になってしまうので注意が必要です。

1-1 なぜFタームが開発されたのか?

そもそも、特許分類には国際特許分類IPCの他に、日本独自にFI(ファイルインデックス)があるのに、なぜFタームが必要だったのでしょうか?

Fタームとは技術的な観点だけではなく、発明の主題、課題・目的や用途、構造、組成、パラメータなど様々な観点で付与されており、かつ特許出願の主たる技術的な特徴だけではなく、全文明細書を対象に付与されています(一部異なるものもあります)。

Fタームが開発されたのは今から40年近く前で、当時は現在のようにデータベース技術も発達しておらず、キーワードの全文検索などはできませんでした。ただ、日本はバブル真っ盛りで、景気が良く、特許出願もうなぎ登りに増加していました。そんな中で日本独自の特許分類であるFIだけでは審査が追い付かないので、より効率的に先行技術調査ができるような分類を構築しようと考えられたのがFタームです。

日本国特許庁の審査官は、明治時代以来、紙に印刷され冊子になった特許文献を手でめくりながら斜め読みし、出願された発明と類似する技術を探していた。しかし、出願件数の増加により、紙に印刷された厖大な特許文献の維持管理がますます困難となり、また、審査請求件数の増加により、特許文献を手でめくりながら斜め読みするよりも効率的な検索手段が求められるようになった。そこで、1983年、日本国特許庁は米国特許商標庁を手本とし、コンピュータを利用した特許文献の検索システムの構築に着手した。

https://ja.wikipedia.org/wiki/F%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%A0

Fタームは全文明細書を対象に付与されますが、これは当日技術的に実現が難しかった全文キーワード検索の代わりに、Fタームという分類付与することで、Fターム同志のAND演算をすると、あたかも全文キーワード検索できているかのようなシステムを実現しようという試みに基づいていると考えています。

FIはIPCを細分化することを目的に設定されていますので、CPC(欧州共同特許分類)および前身のECLA(欧州特許分類)とも似ていますが、FタームはFIともCPC・ECLAとも全く似ていない。その理由は上述のようなFターム開発の背景にあります。

ちなみにCPCに吸収されてしまったUSC(米国特許分類)は、IPCとも全く違うフォーマットでしたが、これはアメリカが独立した当初から特許制度があったので、かなり独特の分類体系を持っていたためだと考えています。

1-2 Fタームの種類

さて、Fターム開発の経緯を知ったところで、次にFタームには3つのタイプがあることをご存じですか?

まずFm型。

次にFs型。

最後にFI型。

最後のFI型はテーマコードだけしか存在せずに、観点やFタームとして細分化されていないので、これをFタームと呼んで良いのか?というのは若干の疑問が残るところではありますが、

このFm・Fsはどういう意味かというと・・・

FM(F-term for preparing files that is subdivided with Multiple view point):Fタームの1つ。単一のFI記号の中で複数の観点からのサーチが必要な分野又は複数のFIで横断的サーチの必要な分野において現状の観点以外に別の観点を加えて絞り込まれた文献ファイルを作成するためのもの。

https://www.jpo.go.jp/toppage/dictionary/alphabet_f.html

FS(F-term for preparing files that is subdivided with Single view point):Fタームの1つ。FIによる細展開では十分に分けられていない分野に対して、分冊を細展開したファイルを作成するためのもの。

https://www.jpo.go.jp/toppage/dictionary/alphabet_f.html

実はFターム同志のAND演算をしても良い、というのはFタームの中でもFm型に対してであって、Fs型については実はあまり推奨されていません。

もう一度Fm型・Fs型を見てみると、Fm型は

特定のFIカバー範囲に対して、様々な観点で分割されています。要はこのFIカバー範囲であれば、異なる観点同士でAND演算すれば、FIよりも細かく検索することができるのです。

一方のFs型。

これはテーマコードでカバーされているFIの範囲が、観点ごとに分断されています。要は特定のFIカバー範囲内では観点・Fタームで細分化されているのですが、Fm型のように観点をまたがって細分化されているわけではないのです。

要はFs型のFタームで異なる観点同士のAND演算をするということは、IPC・FI同士のAND演算をするのと同じような意味合いになってしまいます。

上記の例でいえば、

Fターム 2B005AA01 AND 2B005BA01

FI (A23K50/40-50/48;A23K50/60) AND (A23K50/10;A23K50/60)

と同じような意味合いになります。

1-3 FタームのAND演算に関するまとめ

というわけで、ここで小まとめ。

Fタームは全文キーワード検索ができない時代に開発された、疑似的な全文キーワード検索システム

であり、

FタームであってもAND演算に適しているのはFm型

である。この2点についてまずはしっかりと把握しておきましょう。

ちなみに「FタームであってもAND演算に適しているのはFm型」と書きましたが、Fs型で異なる観点同士のAND演算が邪道なのか?」という点については、この後に解説する「IPC・FI同士のAND演算が邪道なのか?」と同じ回答になります。

2 IPC・FI同士のAND演算のデメリット

さて、まずはIPC・FI同士(そしてFタームのFs型の観点同士)のAND演算が邪道だと思われている最たるものが、

IPC・FI同士でAND演算すると絞り込み過ぎてしまい(適合率が高いが)、モレを生じてしまう(再現率が低い)

というデメリットだと思います。

この指摘に関しては全くもってその通りですが、この指摘をされる方にいつも問いたいと思うのは、

ここから先は

3,048字 / 2画像
この記事のみ ¥ 0〜
期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

よろしければサポートお願いいたします!いただいたサポートは情報収集費用として有効活用させていただきます!