仮説は重要だが、思い込みには注意-クリスマスに関する特許にはどんなのがあるの?-知財系 Advent Calendar 2022-
「知財情報を組織の力に®」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。
一昨年、昨年に引き続き、今年もパテントサロン大坪さんが企画した「知財系 Advent Calendar 2022」にエントリーさせていただきました。ちなみに一昨年、昨年の投稿は以下になります。
クリスマスに関する特許にはどんなのがあるの?
でにエントリーしましたが、今回のテーマは「仮説は重要だが、思い込みには注意」です。
クリスマスの特許・実用新案について分析すること自体は変わらないのですが、それだけではつまらないので、分析する際のスタンス・考え方も交えてお届けしたいと思います。
1 分析する前に・・・
分析する前に「予備仮説」を持ちましょうという話は聞いたことがあると思います。
「クリスマスについて調べるんだから、まずは特許の検索データベースでクリスマスと調べて。。。あと同義語は。。。」と、いきなり検索するのではなく、まずは仮の答え(予備仮説)をしっかりと持ってからスタートした方が良いでしょう。
現在でも「とりあえずパテントマップ作成してみたんですけど、何が言えるか分からなくて・・・」というご相談をいただくことがありますが、何も事前に考えずにグラフを大量生産しても読み取れることは少ないと思います。
さて、今回はクリスマス。
この分析から何か提言・提案するものではありませんが、なんとなくですが
クリスマスツリーやイルミネーションの特許が多いのかな
正月などと同様に実施例中で「季節・イベント関係」の例として使われているのかな
クリスマスカードってあるから、年賀状のような印刷物系(たしかB42かな。。。)にも出願あるかな
のような仮説(今回は仮説じゃなく、ぼんやりしたイメージ)を持って分析してみました。
2 母集団を作成する-キーワードだけで検索する方が良い場合もある-
次に母集団作成ですが、今回はシンプルに
全文キーワード=クリスマス
以上です。まぁ、サンタクロースとかクリスマスに関連するキーワードを追加しても良いかと思いますが、あまり複雑に考えずにドンピシャのキーワードのみにしました。
ちなみに、クリスマスを含む特許分類を検索すると(ツールは @sanukiya1 さんの特許分類定義検索ツール)、
クリスマスツリー関連の特許分類が数多くヒットしますが、今回は使っていません。
なぜか?
特許分類を入れてしまうと「クリスマス」というキーワードを用いていないクリスマス関連特許があれば含まれるわけですが、これをやってしまうと特許分類がある分野に偏りが生じてしまうからです。
このキーワードだけで母集団を形成する方法は、普段あまり使っていませんが、以前日本弁理士会のパテント誌に「日本における高齢者関連特許・意匠出願 トレンド」投稿した際は
全文キーワード=高齢者+高齢化社会+高齢社会+少子高齢+老人
だけで母集団を作成しました。もちろん高齢者に関連する特許分類を抽出しようと思えばできるのですが、そうすると特許分類が存在する分野に偏りが生じてしまいます(例:老人の方で足腰弱い時に使う車いすの特許分類を含めると、老人用ではない車いすも含まれてしまう)。
というわけで、今回はPatentSQUAREを用いて
全文キーワード=クリスマス
で日本特許・実用新案を検索したところ、2002年以降で10,242件ヒットしました。
3 可視化してみる
さっそくマップ化していきます。まずは件数推移。
ふむふむ、キーワード「クリスマス」を含む特許って最近増加しているんだ。それにしても年間1,000件超えるってなかなかの規模だな。。。
といきなり件数推移マップから頭の中に「??」が浮かびます。
この謎は次の出願人ランキングを作成して氷解しました。
なるほどね、パチンコ・パチスロ系で「クリスマス」が使われているのね。
ちなみにぶっちぎりでトップの大一商会の特許出願例を見てみると
実施例では、
としてクリスマスが登場します。このような出願が5,000件近くありました。
大一商会以外にもユニバーサルエンターテインメント、三洋物産など上位はパチンコ・パチスロメーカーだったのですが、これは予想外でしたね。
私はパチンコ・パチスロはやりませんが、ひょっとするとパチンコ・パチスロが好きな方であれば、「パチンコ・パチスロ系の出願でもクリスマスについて言及している特許がありそうだな。。。」という仮説(ぼんやりしたイメージ)を持てていたんでしょうか。
実はこれが今日のタイトルにもある「仮説は重要だが、思い込みには注意」になります。
少なくとも私は
クリスマス と パチンコ・パチスロ
の間につながりがあるとは当初想定していませんでした。もちろんこれはアドベントカレンダー用のテーマではありますが、実際の分析プロジェクトのときも当初想定していた仮説と異なる分析結果が出てくることはまぁまぁあります。
仮説と異なる分析結果が出てきた際は、分析方法に問題がないか?確認することも重要ですが、自らの仮説が誤っていたのではないかと仮説を見直すことが重要です。
確証バイアスという言葉があり、以前にも以下のような投稿で触れています。
分析開始前の仮説は、ある意味自分のこれまで知識や経験などをベースとした思い込みに近いものがあります。
ただ、何回も繰り返しているように仮説は仮説ですし、自分の知識・経験の範囲や深さには限界があるので、分析結果に真摯に向き合って、仮説=自分の当初の思い込みを見直すことが重要だと考えます。
4 ちなみに当初の仮説はどうなった?
と、タイトルについて回収したところで、筆頭のIPC(国際特許分類)を使って、当初の仮説
クリスマスツリーやイルミネーションの特許が多いのかな
正月などと同様に実施例中で「季節・イベント関係」の例として使われているのかな
クリスマスカードってあるから、年賀状のような印刷物系(たしかB42かな。。。)にも出願あるかな
について確認してみましょう。ちなみにIPCメイングループの定義は私の方で意訳しています。
パチンコ・パチスロ系が多いので、除外すると
なるほどなるほど。印刷物や照明、あと宗教・祭礼用具(クリスマスツリーかな?)などがありますが、なんでブレードや遺伝子工学とクリスマスが関係するんだろう??とまた疑問が。
ブレードに関する特許を見てみると
うーむ、思いっきりブレード・翼だ。。。全文を見てみると
なるほどね。。。こうきましたか。ちなみに遺伝子の方は、
うーむ、まったく分かりません。。。が
ほぉ、血友病Bはクリスマス病ともいうんですね。だから遺伝子や医薬系の特許分類があったんですね。
これも当初分かっていなかったこと、新たな発見です(今回の分析から何か提案・提言につながるものではありませんが)。
5 おわりに
というわけで、最初は単純にクリスマス関連の特許分析だけをやっておしまいにしようと考えていましたが、それだけではつまらないので分析する際のスタンス・考え方も交えてまとめてみました。
実は昨年はイーパテントYouTubeチャンネルの年末特番の前日に投稿したので、番宣できたのですが。。。
今年は2022年12月20日に配信してしまいました(スナックのざきはライブ配信のみなのでアーカイブはありません)。
来年のアドベントカレンダーに登録する際は、スナックのざきの番宣も考えた上で日付登録しようと反省したところで。。。。
また来年!
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