【フェチ小説】片思いの彼女(おまけ2)

 朝、目が覚めた瞬間、昨日の出来事が頭の中にじわじわと蘇ってきた。

 本当に、今日、美容院に行くんだ。

 ぼんやりと天井を見つめながら、昨夜の記憶を辿る。

 拓人の腕の中で、約束をしてしまった。

 「次はもっと短く、もっと明るくしよう」

 あの時、熱に流されるままに、私は「うん」と答えてしまった。

 でも、一晩経って冷静になってみると、それがどれほど大胆なことだったのか、改めて実感してしまう。

 ベッドから起き上がり、スマホを開くと、拓人から画像が送られてきていた。

 指で画面をスクロールする。

 ある程度想像はしていたが、画像で見ると本当にこんな髪型にしてしまうのかと不安になる。

 サイドとバックは高い位置まで刈り上げられ、トップの被せている髪も耳上までしかなく、短くカットされている。
 色はほとんど白に近いホワイトブロンド。

 想像以上に個性的で、目立つ髪型だった。

 画面に映るスタイルと、自分の顔を重ねてみても、全く想像がつかない。

 でも、私は昨夜、「約束」してしまった。

 「……ずるい」

 思わず、小さく呟いた。

 昨夜の拓人は、私が断れないのを分かっていた。

 抱かれながら、何度も耳元で「由里なら絶対似合うよ」と囁かれた。

 その温もりと声に、私は逆らえなかった。

 「今日、美容院いくんだよね?」

 そんなメッセージが、今朝届いている。

 私は、もう逃げられない。

 予約は今日の午後。

 終わったら、拓人とカフェで待ち合わせることになっている。

 彼の前に行くときには、もう私はこの髪型になっている。

 本当に、変わってしまうんだ。

 冷たい水で顔を洗い、心を落ち着かせる。

 ゆっくり服を選ぶ。

 いつもの服じゃ、もう似合わないかもしれない。

 でも、まだこの髪のままでいる最後の時間だから、今日はいつも通りのブラウスとスカートを選んだ。

 美容院に行くまでの道のりが、長く感じた。

 街のショーウィンドウに映る自分を何度も見る。

 今はまだ、黒髪のショートボブ。

 でも、次にここを通る時、私はもう「違う私」になっている。

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

 本当に大丈夫かな。

 そんな不安を押し殺しながら、私は美容院のドアをくぐった。


 美容室の鏡の前で、私は自分の姿を見ていた。

 これが、「黒髪」でいる最後の時間になる。

 美容師が席の後ろにつき、カウンセリングが始まった。

 ある程度は予約の画面で入力はしたがここで、改めてあんな髪型にすると美容師さんに伝えるのは、勇気が必要だった。
 
 私は、不安になりながらスマホの画面を開いた。

 拓人が「これがいい」と送ってきた画像。

 美容師の前にそっと差し出す。

 「これに……してください」

 美容師は、入力画面の言葉では知っていたはずなのに、一瞬驚いたように目を見開いた

 「……えっ?」

 画像をじっと見つめた後、もう一度確認するように由里子の顔を見た。

 「……本当に、これでいいんですか?」

 当然の反応だった。

 そこに映っていたのは、言葉からは想像される以上にかなり大胆なツーブロックのベリーショート。

 サイドとバックの内側は、高い位置まで刈り上げられていて、上から被せるトップの髪も極端に短く、耳上までバッサリとカットされている。

 女性がするにしては、かなり攻めた髪型だった。

 「……これ、なかなか勇気いりますよ?」

 美容師が少し困惑したように言う。

 「女性でここまで短くする人は、ほとんどいないですし……似合うとは思いますが、本当に大丈夫ですか?」

 由里子は、無意識に膝の上で手をぎゅっと握った。

 本当に、ここまでやるの?

 ただのベリーショートじゃない。

 サイドもバックも思い切り刈り上げられ、全体のフォルムもかなりシャープになる。

 今までの自分とは完全に違う姿になる。

 「……すごく思い切った髪型ですね」

 美容師は、まだ心配そうに言う。

 「本当にこのスタイルにしていいんですよね……?」

 由里子は、ぐっと息を飲み込んだ。

 拓人が「似合う」って言ってくれたから…

 拓人のために、ここまでやるなんて、きっと普通じゃない。

 でも、それだけ彼を大切に思う気持ちが強かった。

 「……お願いします」

 少し震えた声で答えると、美容師は感心したように笑った。

 「すごいですね。彼氏さんのために、こんな挑戦するなんて……覚悟が違いますね」

 私は何も言えずに、ただ小さく頷いた。



 「じゃあ、まずはブリーチからいきますね」

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