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メイドインアビス・感想

メイドインアビスを観た。
凄すぎる。名作を通り越してもはや攻撃だ。
序盤こそ、少年少女が未開の地へ挑む冒険譚だが、話の全容が見えてくるにつれ、その取り返しのつかなさに愕然とする。
アビスは大穴だ。暗く、深く、そして行ったきり戻ってこれない。
これは、創作活動のメタファーだろう。
飛び込んだが最後、引き返すことはできず、己の才能だけを信じて、いや、もはや何を信じていたのかも見失いながら、暗闇の中を進み続ける。いっそ殺してくれと願いながらも、本能がそれを拒否する。
言ってみれば悲鳴と狂気の物語である。


主人公のリコは、狂っている。
産まれがアビスという因果から、アビスの探窟に異様な興味を持つ。潜ったきり帰ってこなかった偉大な探窟家である母親に会いに行く、という名目を掲げてはいるが、本心はアビスに潜りたくて仕方ないのである。もちろん、潜ったが最後、帰ってこれないことは重々承知している。その上で、同じ釜の飯を食った友達、弟分、ボーイフレンド(?)にあっさりと別れを告げて、アビスに潜っていってしまうのだ。12歳の女の子がである。
年端も行かない子供にとって、世界とはすなわち、自分の観測範囲内だけだ。家族、学校、隣人。そんな、生まれてから当たり前に側にあった日常を、不可逆的に手放して、新たな世界に飛び込む決断をできてしまう。
それが覚悟であり、成し遂げる者の条件なのだ。
アビスの淵から覗き込みながら、「俺もいつか底に行ってみたいな〜」などと嘯いている者は、所詮は凡人である。本物は、「じゃ、行ってくる!」と言ってさっさと飛び込んでいく。その対比が明確に描かれており、残酷だ。


ボンドルドという人物が出てくる。
白笛を首から下げる、高名な探窟家だ。
"黎明卿"新しきボンドルドの二つ名を持ち、アビスの探索と技術の開発において多大な業績を残してきた、正真正銘の英雄である。
それでいて、"不動卿"オーゼンからは人でなしと称される。
作中で描写されたボンドルドの行いのうち、最もショッキングなのは、カートリッジの開発及び使用だろう。
アビスの上昇負荷を、手足を切り落として箱に詰めた子供に肩代わりさせるという技術。自分の娘であるプルシュカをカートリッジに加工するシーンは、目を背けたくなる。
しかし、残酷なことをしてはいるが、ボンドルド本人は実直で誠実な性格なのである。
人体実験に使用した子供たち全員の顔と名前、将来の夢を覚えていたり、暴走したレグを止めようとするナナチを心配したり、死に際(死んでないけど)に、主人公の前途を祝福する台詞を口にしたりなど、根底には愛がある。愛があるから厄介とも言える。
ボンドルドは、1000人を救うために1人を犠牲にするという選択を迷わずできてしまう人物だ。そして、主人公がその1人の側だった、というだけにすぎない。立ち位置としては敵キャラで、1期+劇場版のラスボスなわけだが、人類全体にとっては間違いなく益となる逸材なのである。そこを主人公も分かっているからこそ、最後にゾアホリックを破壊しなかったのだろう。


イルミューイとヴエコ。
酷いことするよね!本当に!
リコのいる時代から150年前に遡る。決死隊ガンジャのメンバーだったイルミューイとヴエコ。羅針盤を頼りにたどり着いたアビスに潜り、6層まで到達する。そこで原生生物に侵され、隊は壊滅状態に。メンバーの中で最も幼いイルミューイに揺籃の卵を託し、願いを叶えさせる。その結果があれかい!
イルミューイが望んだのは、子供を産める身体になること。そしたら子供を産むだけの異形になってしまった。長く生きられない赤子は、貴重な食料源となり、隊は全滅を免れた。
ワズキャンは、イルミューイに子供のイメージを植え付けるために、ウサギみたいな小動物の飼育を許可したんだろうか。産まれてくる子供が人型だと食べづらいもんね。
ファプタという最後の子供を産んだ後、イルミューイは人間性を完全に喪失し、村となった。ガンジャのメンバーは皆、異形に姿を変えてそこで暮らす。慣れ果て村の誕生秘話。
そしてイルミューイの擬似的な母親のような存在であったヴエコだけが、人型を保ったまま、村の深部で命を繋いでいた。
そこから150年。ついに価値の化身、慣れ果ての姫君であるファプタが襲来する。その姿はまるで烈日。全てを焼き尽くす怒りの焔。
行き詰まっていた慣れ果て村は、遅かれ早かれ崩壊する運命にはあったのだろう。
誰の思惑でもなく、妥協的に成立していたバランスが崩れた。それだけの話ではある。
村の崩壊に伴って村人は消滅し、ヴエコも上昇負荷を受けて瀕死状態となる。
そんな死に際に、ファプタとヴエコが対話をするシーン。
ヴエコはイルミューイのことを忘れず、イルミューイはヴエコだけはファプタに渡さなかった。閉塞した絶望の中で、寄り添った2人の関係性。あまりに美しい。


メイドインアビスには、悪人が登場しない。
皆、形は違えど、先に進もうとしているだけだ。
なりふり構わない不屈の意志こそが、世界を切り開くのかもしれねえな。んな。

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