あなたには見えない地獄
「恵まれた環境にいる人間が感じる辛さを、より悲惨な状況にある他者との比較を以て否定する論法が通るのだとしたら、この世界で最も不幸な人にしか発言権はなくなるね」
窓の外に目線を投げたまま、僕はそう言った。
マギーは散らかった机の上で、退屈そうに佇んでいる。
「またいつもの極論ですか。あなたも飽きませんね」
カタカタと音を立て、辟易したようなジェスチャーを取る。もっともこれは僕の想像だ。マグカップの真意は掴めない。
構わず続ける。
「僕は都会の裕福な家庭で育った。生まれてこの方お