舞台「パンドラの鐘」を見る
先日、渋谷シアターコクーンにて杉原邦生さん演出の「パンドラの鐘」を観劇してきました。この作品、言わずとしれた野田秀樹さんの書いた作品で、この戯曲発表当時に、シアターコクーンと世田谷パブリックシアターの二箇所で渋谷が蜷川幸雄演出、世田谷が野田秀樹演出という企画で上演したもの。当時はセンセーショナルな話題で、蜷川版が勝村政信・大竹しのぶ、野田版が堤真一・天海祐希という素晴らしいキャスティングでの上演でした。幸い両方見ているのですが、実に面白い作品。見た当時は細かい違いなどわかるはずもなく、ただ両方の作品の凄さと、最後の原爆のシーンでの天海祐希さんの凛々しさが強烈に印象に残っています。
この作品は、コロナの時期に熊林弘高さんが池袋シアターイーストで演出されていて、このときの作品も見ています。これ、すごく良かったです。とにかく門脇麦さんが素晴らしい。このときの感想は、noteにまとめています。
この作品のときは門脇麦さんが演じる役が見事にハマっていて、いいキャストと感心したのを覚えています。また舞台演出も見事で、野田さんのナレーションの使い方もうまいなあと思わせるものでした。
今回の杉原邦生さんの演出はどうなるか?でしたが、結果的にはオリジナルと言うか、初期の公演に近い演出構成での上演でした。
配役は成田凌、葵わかなの二人。個人的にはミュージカルで実績を積み上げている葵わかなさんがこういう作品をどう演じるかな?と思って見ていましたが、素晴らしかったです。少女らしさと女王としての気品をうまく見せていたと思います。成田さんは初舞台ということでしたが、台詞回しの力みはしょうがないとしても、華のある役者さんなので、存在感たっぷりのミズヲだったと思います。個人的には若月佑美さんの旦那さんである玉置玲央さんがどうかな?と思ったら素晴らしすぎて文句なし。やはりキャリアが違う。それは近年、舞台が多い前田敦子さんも同様で、見事な天真爛漫さを演じている。野田さんの作品におけるキャラクターって過剰なだけでもダメで、そこに人の業みたいなものがどれだけ見え隠れするかですが、白石加代子さんもそうですが、そういう部分の上手さが役者さんですぐに差が出るので、良いキャストだったなあと思います。
基本、構成や脚本を変えていないということでしたが、最後のミズヲがヒメジョが亡くなったあとのうずくまるシーンで、コクーンのステージ奥の扉が開いて、渋谷の街が見えるラストは考えたなあと。あれはやはり演劇だからできる演出で映像で見てもちょっと違う。近いイメージは「シン・エヴァンゲリオン」のラストでしょうか。宇部駅の光景を見せて最後は実写映像にした感じと少し似ています。舞台の場合、劇場という空間内で二時間弱現実から離れた世界にいるので、そこで渋谷の街が見えて、生活の音が聞こえるという演出は、鐘が原爆であることと重ねて観客への余韻という部分では成功していたと思います。
以前、中屋敷法仁さんが「半神」を演出されました。あれも非常に面白かったです。藤田貴大さんが「小指の想い出」を演出されていました。これは映像で見た。こういう試みがもっといろいろと起きてほしいです。戯曲を変えることはないでしょうが、その演出家によってどういう世界で見せていくのか?中屋敷法仁さんの「半神」は斬新だったなあと思います。二人は一人なのに結局孤独で一人という見せ方をしたと思うので。
他の人が演出して、ピタッとハマるかどうかは、正直正解はないと思う。あえて言うなら、野田さんの書いた戯曲を野田さんが演出する以上の構成はできるはずもない。書いた人の頭の中の世界を書いた人が演出する以上に何ができるのか?と。それでも野田さん以外の人が演出することで、見せる世界が変わっていくことは、演劇の挑戦として続けるべきだと思う。そうでなければ、もうあと何十年と続かない野田秀樹のあとの演劇世界が、味気ないし。でも戯曲は生き残るわけだから。
今後もいろいろな企画が楽しみですが、まずは「Q」を次は楽しもうと思います。