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12時の悪魔
昔から、夜の鏡がこわかった。
映画でお風呂の鏡にオバケが写っていて主人公が悲鳴をあげて逃げ惑うシーンをみてから、
「鏡を覗きこんだまま日付を越えてしまうと、鏡の中から悪魔が出てきて連れ去られてしまう。」という迷信を聞いてから、
0時ぴったりになると、目をそらしたり、身を隠したりして、鏡を見ないようにしていた。
そんな子どもっぽいクセは、大人になった今でも続いている。
家族が寝静まった後に、1人鏡の前に立つと、なんとも言えぬ心細さで、心臓がよじれそうになる。
シンとして、もう誰も起きてこないのではないかという静けさと、薄暗いなかにぼぉっと映る自分がなんだか不気味で、世界から切り離されたようにかんじるのだ。
誰かのイビキや、寝返りをうつ衣擦れの音が聞こえるとほっとした気持ちになる。
それでなくても、夜は魔物だ。
何かをはじめるといつの間にか時間が溶けてなくなり、
考えなくてもいいことをたくさん考えて、無限のループへと落ちていってしまう。
夜は楽しい。
そして深くて、とても寂しいところだ。
「何かが不安になったら、それは夜のせいだから寝てしまえばいいのよ」
と、私の尊敬する人がいっていた。
「あなたは夜と仲良くしすぎ。ちょっと縁をきりなさい。」
はなく寝なさい、と言われなくなってから、夜の時間は自分の自由の象徴だったから、眠たくなるまでずっとずっと起きていた。
本やゲーム、自分の頭のなかで遊び回った。
夜と遊ぶのは習慣になっていて、もしかしたら遊びたくて遊んでる訳じゃないのかもな、と薄々気づいていた。
夜を手放すのは、少し心もとない。
でも、手招きしている悪魔から離れて、目をつむってみるのもきっと悪くないはずだ。
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