あの日の猫背 | 珈琲&文学note
あの頃、あの街で、あの曲を聴いていた…。 音楽×街をテーマにしたエッセイのまとめ。
10代の頃から書き溜めてきた詩を放出しています。 たまに新作もあり。
珈琲×読書のご案内。 本の紹介文と、お供におすすめの珈琲を載せています。
創作大賞2024 お仕事小説部門 応募作品。全12話。 教育を通して生きる意味を見つめた物語。
学生時代のある12月の夜。 西宮北口の駅前広場で、友人と待ち合わせしていた時のこと。 約束の時間より少し早く着いた僕は、広場のベンチに腰掛けて、イヤホンでradikoを聴きながらスマホをいじっていた。 その時、不意に「すみません」という、か細い声が聞こえてきた。 顔を上げると、眼鏡をかけた中年の女性が立っていて、僕を見下ろしていた。 「………ですか?」 イヤホンをしていたのでよく聞こえなかったが、おそらく道か何かを尋ねようとして、「ちょっとよろしいですか?」などと言っ
開いた目に 汚れた夢の塊が こびりついてた 水で洗っても しつこくって 私の朝はいつもこうよ 腹の足しにもならない ココアの甘み パンを焼いて 薄く笑う風に ムカつく君の顔を思い出す 傘を忘れた空に オレンジの憂鬱 とめどなく日々を流した 道路を踏みしめて 萎れた花の前で立ち止まる 黙らない予感に嫌気がさして 髪をかきむしる さよならばかりの映画も嫌い 上っ面ばかりの挨拶も嫌い 少し催した電車の中は すべての人間が憎たらしい 傘を忘れた空は エメラルドの匂い くたびれた
トマトの裏側に夢を描いて ヨーロッパの家具の上に置いた 昔の映画のような日々を 送りたかったと思う 銀色の自転車で川沿いを走りながら 時々海を思う 今日も頭痛がしてる 同じ猫を見つけた気がして 尻尾についていった午後 呼び鈴のような鳴き声と 空色の空が竜巻に消える瞬間 ステンドグラスのカケラと 真昼に見える惑星の液体を 冷えた指で混ぜ合わせたら 海が見える、と思った 誰にもわからない言葉を 葉桜に乗せて、家路へ流す 予定が消えたから少しだけ 川沿いに座り込む この先のこ
本日の文学案内は ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』 です。 あらすじ 解説19世紀のフランスにて発表された、 フランス文学の金字塔的作品。 修道院で育った若く美しいエンマは、田舎の平凡な医者シャルル・ボヴァリーの元に嫁ぐ。 が、シャルルとの結婚生活はあまりにも刺激が少なく、少女時代から小説に読み耽り、ロマンスに憧れてきたエンマは退屈に倦んでいた。 やがてエンマは、自由で刺激的な恋を求め、不倫と借金の沼に堕落し、破滅へと突き進んでゆく…。 内容でい
本日の文学案内は、 江國香織「きらきらひかる」 です。 あらすじ 解説LGBTやアルコール中毒を題材にした、江國香織の長編小説。 他人の目から見たら異常で複雑に見える、でも本人たちにとってはかけがえのない美しい日常を通して、それぞれの幸せを求める物語です。 主人公はアル中の笑子と、 医者であり、同性愛者の睦月。 そして睦月の恋人・紺くん。 睦月と笑子は親の勧めたお見合いで出会い、お互いの秘密を打ち明け合う。 アル中であること、自分には男の恋人がいること。 すべてを認め
くぐもった声を地面に打ち付けた 奇妙な天気が足を浮かせる ブラックコーヒーの甘みが心臓を破いたら 暗い生活に軽いリズムを宿す 枯れ葉の重なる音が聞こえるよ ドミノのような理屈で鳴っている 案外普通の風邪を引いたりした午後に 街の空 二日酔いの鳥を 追いかけてたぶん 僕は、どこまでもゆけるだろう 目の前を走る宇宙船に 星のカスが付いていた 一口つまんで深く味わった いつか苦しい時にはその光景を 枕の上に置いておけば大丈夫だと思う
妻と海外放浪旅の日記、第二弾。 ※第一弾はこちら↓ 8/11、タイ滞在11日目。 早朝からバスでトーンブリ駅へ向かう。 この日は鉄道旅。 バンコクからカーンチャナブリーという街へ、鉄道で行くことに。 カーンチャナブリーは、「エラワンの滝」という全長1500mに及ぶ七段の滝が有名な街。 タイで最も美しい滝と言われるエラワン。 これは是非とも見たい。 バンコクから行くにはずいぶん距離があり、ミニバンやタクシーを旅行会社で手配してもらって行くのがベター。 ただし。
本日の文学案内は 宮本輝『春の夢』 です。 あらすじ解説亡き父の借金を抱えた大学生・哲之の、 愛と闘いの一年間の物語。 宮本輝が描く青春小説です。 取り立て屋から身を隠すために、あえて母親と離れて暮らし、必死にアルバイトで金を稼いで生きる哲之。 そんな彼をひたむきに支える、純情で可憐で、しかし強さも併せ持った恋人・陽子。 哲之のバイト先のホテルの上司で、哲之とぶつかり合うが、重い持病があり、常に死と隣り合わせに生きている男・磯貝。 親がオーナーをしている貸ビルに住
園田駅を過ぎた頃に雨足は強まって 蒸した車内にリズムが鳴った 大きな川こえて いつだったか 君に会ったことを懐かしんだ 競馬場はがらんとしてて、 寒気がこっちまで来たようだよ 弱冷車のくせして 鳥肌が立った腕をさすって スマホをいじりながら 人気のアイドルが恋愛してたって知った 興味ないなぁ、ああ、 思い出話のほうが面白いのは 年を食ったせいかしら 汗ばんだジーパンの内腿が気持ち悪いから 銭湯で熱い湯にでも浸かりたい だるい時はだるいままに 優しい時は天邪鬼 あんなに笑った日
真夜中のバンコクを爆走するオンボロバス。 右に左に、前に後ろに、終いには上にも激しく揺れる。 必死に座席の手すりにしがみつきながら、 身体中をあちこちにぶつける。 い、いたい…。 全開にされた窓から入り込む排気ガスとバンコクの熱気。 外に目をやると、無数の車とバイクとトゥクトゥクの群れ。 ひっきりなしに響き渡るクラクションの嵐。 その中をひたすら突き進む、バス。 決死のライドオン。 果たして無事に帰れるのだろうか……。 ミッシェルガンエレファントの『ミッドナイト・クラク
金魚のようなスカート スーパーマーケットを泳ぐ 息継ぎもせずに 僕をわらう たくさんの光が町に溢れる スマホの中で手を繋いで あの子の放ったパントマイムをよく見た 残像に目を凝らせば 気持ち良くなれそうな 眩暈の香りがした ていねいなくらしの中で 雑な自慰をしている それはいわゆる二律背反的なものではなく 正しい音色だと彼女はいう その爆音に気がつく頃には あの子の髪は少し伸びているだろう 裸眼の僕だけが知っている 金魚のようなスカート スーパーマーケットを泳ぐ 向こう
創作大賞に応募する小説を投稿しました。5月から書き始めて、ようやく完成…。〆切超ギリギリになっての一斉投稿でお恥ずかしい限りですが……。読んでくれたら嬉しいです!
出町柳駅から商店街に向かう途中の雑居ビルの2階に、「個別指導塾Open Book」の教室は入っていた。 匡之は物件探しから銀行の融資、設備や備品の用意などをすべて一人で行い、一年以上かかってようやく開校に漕ぎ着けた。 「Open Book」とは直訳すれば開かれた本であるが、英語で「隠しごとをしない」「異なった考えや感覚に寛大である」という意味がある。 真面目に、真っ直ぐに教えること、様々な境遇や性格の子どもたちに集まってほしいという思い、本がたくさん置いてある塾という
冬枯れの鴨川沿いに寝転んで、匡之は高い空を見ていた。 夏にはカップルが等間隔に並ぶ風景が見られる鴨川の河川敷だが、寒い冬にはその数も少なく、間隔もずいぶんと広い。 河原町に近い辺りだと人が多いので、三条辺りまで進んだところで匡之は寝ていた。 首に巻いていたマフラーを外して枕にし、仰向けのまま煙草を咥えた。晴れた冬空に白い煙が上っていくのを見つめながら、匡之は三島からのメールについてずっと考えていた。 しばらく転職活動はする気になれず、頬と顎には再び無精髭が生え始めて
秋の風の流れる爽やかな昼下がり、匡之が向かう先はパチンコ屋だった。 無精髭が伸び、髪の毛も寝起きのままで、服装は上下ジャージという格好で、匡之は人目も気にせずに歩いていた。 平日の昼間から煙草と缶ビールといくらかのお金だけを持って、匡之は毎日のようにパチンコを打っていた。 仕事を辞めた匡之にとって、今はパチンコくらいしかすることがなかった。 石岡から、今回の一件は原の策略だったことを教えられた匡之は、もうこんな会社にはいられない、と退職の決意を固めた。それに、支部長
京都三条教室の視察を終えて、匡之は自分の七条教室へと帰っているところだった。 電車の座席で手帳を開き、今日の内容を振り返った。 三条教室の課題は、講師同士の繋がりが薄いことだ。講師間でコミュニケーションを取り、指導方法を共有し、お互いのいいとこ取りをすれば、もっと授業の質が良くなる。 それぞれがそれぞれのやり方で授業を行っていると、成長もしにくいし、教室全体の統一感も薄れる。 そこで匡之は、三条教室の講師一覧を貰い、ベテランの講師と新人の講師の比率がバランスよくな