この絵描きに注目!2020
2019年を振り返りつつ、主観で特にすごかった絵描きを独断と偏見でまとめました。特に今年注目したいイラストレーター選です。
記事の最後に総括。 →前回(2019)
サムネイラスト:米山舞
オルタナティブ
ちゅーたな
とにかくアニメがすごい。絵は普通に上手で可愛いが、アウトプットは尖ってます。ミニマムなループが気持ちいい。
𝕳♡𝕷
ゴス、パンク+MOE、的なアプローチはちょいちょいあったけど、圧倒的に上手い。現在のスタイルになったのはここ1年くらいのようだが、表現や絵作りが徹底しており、美意識が高いです。
KICO
主線強め。線を所々で切っているのがオシャレ。ゆるい時間が流れているような世界観がすてきですね。
慧子
とにかく線がすごい。太さや色トレなど非常に繊細に設計されてます。髪の毛の使い方が効果的で、随所で幾何構成のような効果で出ており、画面デザインとして秀逸。女性のライン、美しさがうつくしいです。
秋赤音
ニコ動でのキャリアも有名ですが、オリジナルイラストがやはりすごい。特に画集の発売もあり、最近のイラストは非常に良いです。商業的な路線に迎合しない力強さとが自信に満ちた表現を感じます。
こむぎこ2000
ちょっと前まで高校生だったのですね。とてもお上手。イラストもそうだけどアニメーションがすごい。個々の動きというよりも映像的な大きな目的があって、ちゃんとそれに沿うような構成を作っていて素晴らしい。これからどんなものが出てくるのか非常に楽しみなクリエイター。
Sheya
天才だと思います。普通ではない。どこからこの色を拾ってこれるのか、ここまでの領域に達している方はまず見ない。儚い思い出のようなワンシーンを高度な技術で描く。どれも映像的で空間や重力のかかり方など、いまにも動き出しそうな繊細な世界を実現してます。
spegre
絵も非常に上手いのですが、表現しようとしているドラマや感情がとても強い。どのイラストも本当に素晴らしい。江口寿史氏のイラストを今風にアップグレードしまくった雰囲気で、日本のポップカルチャーをさらにオシャレにした感じ。こういう路線は日本人ではなく、海外の方のほうがもはや強くなってきている気がします。
INHYE
ピンクを堂々と女子モチーフで使うのが最近の流行ではあるが、まさに先端を走っている。技術力は非常に高く、アニメーションが秀逸。宇宙ぽいモチーフもデザイン性が高く、まさに天才的なクリエイターですね。
vinne
80年代日本を感じさせる雰囲気でありながらもモダンな画面。ブラジルのクリエイターということもあり、日本的なモチーフであっても視点が少し異なり、それが新しさを生んでいる。純粋に格好いいと思うものをカッコよく描いてます。直近の4名はすべて外国人ですが、この辺の文化融合が面白いですね。
おーくボ
アニメーションがめっちゃ楽しいし可愛い。絶妙なゆるさを持ちながら、絵とループ設計のレベルがとても高いです。影を付けずに単色で表現するスタイルだが、使える色の幅が広く、シンプルながら完成度高し。
SF
nine
どの絵もかっこよい。女性から男性まで安定して高いデザイン力があり、特に空き面積、空間の作り方が熟達してますね。メカ、SF的なモチーフも得意だが、和、洋、現代風など幅広く描け、最強っぽいです。
NoriZC
PVC(透明素材)のイラストで注目を集めました。SF系では去年特にやばかった勢。衣装デザインもべらぼうに上手いのですが、空間の見せ方も独自の世界観がある。最近のイラストでは珍しく緑が多め。メカ系のイラストレーターは退廃的なグレー、青寄りのタイプが昨今は多いが、植物を同居させることにより牧歌的な雰囲気もあります。
Novelance
3Dを使うイラストレーターが増えてきたが、その中でも特に熟練度が高いです。むしろこの方でブームを牽引したといっても良さそう。モデリングやデザインもそうだが、レンダリングの絵作りがはんぱない。Twitterにあげていたけど、3Dモデルなので動く。異次元の感覚。
ああもんど
暗めの絵から主線薄めのカラフルなタッチまで、群像を描き上げる勢いが強い。SF系の中では彩度高め、ゆるい線が可愛い。技術力の向上が素晴らしいですね。
モグモ
総合力が非常に高く、線表現は非常に巧み。使える色幅やモチーフもバリエーション豊かでまさに絵描きが憧れる絵描きな存在です。
ポップ&キャラ
そゐち
線画が非常に良い。色数が少なくても画面がまとまってます。
さいとうなおき
顔出しYouTuberとして絵描きの新しい扉を開きました。プロ絵描きとしては非常に多彩でモンスターからキャラクターまで幅広く網羅する。職人クリエイター、エンターテイナーどちらも一級な希有な存在。
Namie
キャラが生き生きとしていて、とにかく可愛いです。ポップだけど作画スタイルはユニーク。長めの瞳、塗りでの彩度の混ぜ方に特徴がある。レイアウトやポージングが抜群に上手く、集合絵も人物の特徴に拘っており、楽しそうなイラストを描きます。
kannnu
フリー→会社ときて2019年は再びフリーランスに転換しました。卓越したレイアウト能力とデザインセンスを持つ。年末にリリースした『FIGURINE』は160P超のフルカラーでクリエイティブの軌跡を見ることができる。仕事の量や大きさではなく、己の表現を真摯に追求していく感じがso goood。
ワールド・クラシック
ɴᴀʀᴜᴇ
もったりとした重さのある塗り、妙な筆致の残し方に独自性があります。近年のプロ絵描きはいかに商業ラインに載せるかをモチベにする人が多いので、そういった文脈だとレアなタイプ。思い切ったイメージの追求の一方で、突き放すような疎の作り方がとても面白い。
FKEY
この人は凄いですよ。デフォルメは強いが、フォトリアル。これも近年少ないタイプの作風で活動歴が2年も経ってないのにフォロワーは17万以上の人気を持つ。モチーフや塗りはマニアックで派手な表現ではない。さらに二次創作で有名になったわけでもなく、この人気は分析が難しく特殊ケースともいえる。リアル、エモーショナルな少女モチーフは90年代からのアングラながら人気テーマだが最先端を進んでいるのがFKEY氏でしょう。グローバルニッチの一つのあり方だと思います。
なまえ れんらく
ざらついた線や塗り、どことなく死の香りがするイラストで世界観が素晴らしい。90年代アニメーターのイラストを現代風に進化させたような雰囲気もあり、普遍的な良さを持つ。
出水ぽすか
漫画連載、イラスト仕事に加え、年間500枚以上のイラストを公開し続ける怪物の様なポテンシャルを持つ。文字に起こすとやばさがやばい。秋には『約束のネバーランド』の二期がはじまり、常に世界を描き続ける超人。アングラな作風ながら多くのファンを抱え、質実剛健な実力を持つ。
HJL
レイアウトがとにかく良い。モチーフも幅広くデフォルメからリアルクローズまで、描き分けます。空気感を作るのが巧みで絵の中の温度まで伝わってきそう。
ストリート
米山舞
抜群の技術力と執拗な絵作りで多くのクリエイターから絶大な信頼を集めました。年末には初の個展を開催し、国内外から多くのクリエイターが訪れた。アニメーター→イラストレーターというキャリアを歩んできた、今最も人気のイラストレーターといっても問題ないでしょう。特に近年は型破りな作風が増え、キレてるなーーーと感心します。ちょっと怖いくらいの切れ味、それをメジャーシーンで成立させるのが強さですね。
小吃吃
人間がうますぐる。『ドルフロ』のキャラクターC-MSで注目、特にスキンテーマイラストが話題になった。ゆるっとしたタッチながら線の置き方が熟達しており、写真なども組み合わせた絵作りが凄まじく上手い。
まち
かろやかな線と薄く引いた塗りが気持ちいい。少ない要素で素材の質感を上手く表現する、イマドキの描き方。デザインもおっしゃ。
サイバーパンク
HKS
ドイツのクリエイターで恐ろしく上手いです。以前から二次創作が素晴らしいなーと思ってたけど、オリジナルキャラのデザインがめちゃよい。『アークナイツ』イラスト、やや煽り構図でキャラの配置バランスが見事に決まっている。
7nu
キャラクターイラストの中ではかなり絵画チック。『アズレン』イラストどれも素晴らしい。
A:)M
悪そうな顔がいい。ポージングがどれもカッコよく、疎の空間が綺麗。
将
塗りがエモく、雰囲気だけでなく、人物の動きを可愛く描ききっている。どのイラストも良い。
PainDude
イメージが出来た段階でも止めの判断が適切というか、良い意味での形態を追ってなさを感じます。
수줍
もの凄く安定して上手い。厚塗り系クリエイターでリアルもデフォルメも強く、モチーフも多彩で非常に優秀な方。
ШXZ
昔から非常に上手い方ですが、近年は絵柄をアップデートしまくっていて絵が楽しい。モデラーでイラストもキャラデザも上手いのでとても多彩。
URORONG
大きめに余白を作ったキャラクターイラストが見事。密度とポーズのバランスが絶妙なので画面が気持ちよい。
ガールズトーン
LOWRISE
画力の伸びがすごい。アウトラインのとりかたがどんどん手練れて来ていて、不思議なデフォルメで成立している。
12stairs
髪の表現がすごすぎますねえ。お手軽ブラシでは表現できない、一本一本非常に丁寧に描かれた、人形細工のような筆づかい。日本画のようなアウトラインの作り方や、逆に肌はあえてディティールを追わない塗りに緻密に計画された絵作りを感じます。
なで肩
うううううっまい、上に、完成度高い。尖ったモチーフ構成ですが、絵としてすごく仕上がってきている。
ぼうえん
是非、最近の絵を見て欲しいです。ヌードなので掲載控えましたが、天才の仕事。伝統工芸的な線表現の追求を感じる。長くゆったりとした悠久の時間で描かれたおなか。
천량금
顔、体型、ポーズなどがどれも素敵なバランスで成立してます。パーツバランスもそうだが、塗りも独特で、人物に対するパッションがありますね。90年代のデジタル塗り黎明期の手法をメチャクチャレベル上げるとこういう感じになる雰囲気。
魚見
めっちゃ上手い。目や口の表現とか一番上手いんじゃないか。
ファンタジー
トリダモノ
2019年は『ライザのアトリエ』キャラデザで一世風靡しました。厚塗りの系譜を強く受け継いだタッチで、技術力、展開力ともに非常に高い水準で作画になってる。まさに本年注目ド本命クリエイター。
村山竜大
動物、自然、ファンタジーなど高難度のモチーフを美しく描く力量、とにかく抜群に上手い方。重厚な厚塗りも持ち味だがTwitterにあげているようなサラッとしたイラストも素晴らしい世界観。文句なくトップクラスの実力。こんな絵が描けたら楽しいでしょうね〜。
メカ・ミュータント
ガス壱
メカデザイン、造形自体も非常に上手いがアクションシーンも描ける逸材。金属の質感が素晴らしいです。
えすてぃお
ベテランの風格漂う硬派で安定的な技術。ミュータント感のあるメカイラストとても好き。
Abata
めっちゃかっこいい〜〜〜。女の子のイラストも普通に上手ですが、異形系イラストのポテンシャルが非常に高いのでこまま追求してほしい。人物画以外のイラストは近年減りつつあるので。
CLT
どのキャラクターも非常に完成度が高く、一級のデザイン。異形頭というか、この手のデザインは00年代に出尽くされた感があったけど、大きくアップデートされましたなあ。シルエットが美しく、イラストも非常に上手い。
PANAPANA
こわかわいい。可愛らしいんだけど相容れない感というか、異常な雰囲気がデザインに落とし混まれている。ワールドワイドに人気。
ピクチャー・ブック
ア・メリカ
『ドラクエビルダーズ2』ゲーム内イラストなどで注目される。絵本のようなかわいらしいタッチですが、レイアウトのロジックは立体的。ライティングや空間演出を意識したテクニカルな作風。
ヒョーゴノスケ
『ドラえもん』シリーズや東京オリンピックのキャラクターアニメ、Eテレなど有名作品を多く手がける。安定した画力と流行をキャッチアップする仕方など、とにかく強いクリエイターです。
パワー・アラウンド
鵜飼沙樹
もうベテランの領域に入ってきているけど、常に作風を刷新続け、イラストの完成度が高い。プロは一定キャリアを積むと「低コスト・量産型」になるが、そことは逆の方向に進んでおり、絵描きとしてのすごみを感じます。描き込みやモチーフが高密度で詰まっており、妥協ない。
Atha
デフォルメ感、筆致が独特でラグジュアリーな世界観を持つ。大きめにレイアウトされた人物と細かい背景が特徴。どのイラストも力強く完成度が高い。レイアウトや人物に個性が出ている一方でモチーフや色数はバリエーションが広く、徹底的に完成度を上げていくパワーに感動します。
美少女
rurudo
ラノベ的な美少女イラストの最先端だと思ってます。切れ長の目に少しダウナーな雰囲気、絶妙な淡さの色味。このジャンルはレッドオーシャン化して久しいので存在感を出すのは難しくなってきました。
九酱子
むっちゃ上手い。特に人体デッサンは鉄壁の画力。布や肉体に対する熱量が凄まじく、線と塗りどちらも徹底的に追求している様が伺える。ルネサンス期の超精密描写の画家が現代で美少女イラスト描いているくらいのスゴイ存在。リンク先にヌードイラスト多数あるので是非見て欲しいです。
とくの
可愛くて上手い。特にこのイラストの右の子の後ろ髪表現すごすぎませんか(クリック推奨)。硬軟の作り方と線の入り抜きが技巧的。繊細な筆致ながら構図はダイナミックだったり、玄人が唸る絵を描く。
gomzi
主線薄くした美少女イラストでは一級の画力。アウトラインを塗りに馴染ませることでしかできない表現など、新しい事にかなりトライしている。人物の表情、絵作り、レイアウト、色幅どれをとっても非常に高度、とにかく上手い。
美和野らぐ
表現がド新しくて格好いい。主線の残し方とアウトラインの作り方が独特。美少女イラストながらそこはかとない違和感をちりばめたり、セオリーをはずした構図など、イケてます。
マンガ
はんぞ
漫画的な筆致が素晴らしく、人物が生き生きしている。
赤井さしみ
女の子が非常に可愛い。そして絵がものすごく高いレベルで安定している。漫画がゆるい。
きくちゆうき
100日後に死ぬワニ。天才的なコンセプトで一気にブレイク。元々はもう少しアバンギャルドな作風だったので、だいぶ可愛くなりました。今年死ぬ。
総括
この一年もすごかった。2019年のイラストを簡単に振り返ります。
①日本は仕事指向。海外は表現指向
②イラストレーターを軸にしたPR増
③個展、画集が増加
④3Dなどマルチスキルのクリエイター増
⑤個人から集団へ
⑥引き続きSF系は人気
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①日本は仕事指向。海外は表現指向
2018年頃から続く傾向ですがより強くなりました。主に中国や韓国はイラストの表現力を高めているクリエイターが多いのに対し、日本はすでにできあがっている市場(ソシャゲやラノベ)での受託仕事、もしくは人気キャラの二次創作で閉じている印象。結果として海外クリエイターの表現力が伸びている。
②イラストレーターを軸にしたPR増
一方でイラストレーター個人の人気に乗っかったビジネスも増えた。わかりやすいのが『アナ雪2』ステマでも有名になったPR広告です。漢検やロッテ、京都仏閣、神社などの昔からあるプロジェクトのアプローチが変わってきました。2年目、3年目と続いているのもあるので成果も出ているのでしょう。
③個展、画集が増加
イラストレーター個人のみにスポットをあてた企画が増えました。それも大規模化、シリーズ化してます。有名どころだとイリヤ・クブシノブ氏の個展、森倉円氏を筆頭にスタートしたpixiv WAEN GALLERYなど。とにかく毎月誰かしらの個展がそれなりの規模で開催されてます。一方で画集も増加。それまでは「画集が出る!」というと超大御所クリエイターでしたが、今や同人誌が数千部売れる時代。出版社は不景気なので下手な本を出すよりも、フォロワーの多い作家の画集を出す方が安定打です。
④3Dなどマルチスキルのクリエイター増
日本人にも増えましたが、中国に多い印象。モデリングはもちろん、レンダリングやマーベラスデザイナーなどの知識を総動員して絵を作り上げてます。翻訳されてないソフトも多いので外国語の知識も必要だったり、教養が求められる分野です。
⑤個人から集団へ
一昔前までは「集団からいかに独立するか」が多くの絵描きのモチベーションのように見えてました。しかし一方で「個人の力だけでは凄いモノが作れない」という壁にぶち当たるのもフリーランスの宿命です。近年はキャリア5年くらいの勢いのあるクリエイターが、さらなる推進力を得るために集団制作に舞い戻るシーンを多く見ました。これは企業側からの需要も大きく、アプリボットのSSSスタジオやTHNKR、一部ゲーム開発会社などは作家の囲い込みを行ってます。企業所属はコンプライアンスの縛りも大きく、受注に制限も生まれるので、リスクはあります。それでも野心的なクリエイターは意識して仕事に臨んでいるタイプが多く、良い意味で若いプロが育つ市場になってきたと感じてます。
⑥引き続きSF系は人気
『ドルフロ』に続き『アークナイツ』も日本上陸。SF系イラストがさらにメジャーになってきました。背景やメカを描く必要があるので技術力が要求されます。かつては「アメリカのコンセプトアートの影響を受けた日本のイラスト」として強いジャンルでしたが今や「日本人から影響を受けた中国のイラスト」というクラスタができつつあります。
以上。
日々、上手い人ばかりでイラストファンにとっては天国のようなインターネットです。2020年もさらに進化していくので、非常に楽しみですね。
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