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システムとして卓球を考える

ここ半年ばかり、忙しくて自分のためだけに文章を書く時間がなかったのですが、ようやく時間が出来たので卓球について書いてみようと思います。

と、その前に身の上話を少々。私は今、とある大学院で経営学を学んでいます。経営学では組織や戦略など様々なことを学びます。その中でも組織理論は、刺激に対して組織がどのような解釈・行動を行い、その結果どういった反応が返ってくるかをモデルとして表すという、「システム」モデルが多く存在します。そのため大学院で学んでいると、システムについて考える機会が日常的に存在します。そんなこともあって、システムについてぼんやり考えているうちに「卓球もシステム的に捉えられる部分があるし、システムとして卓球を捉えることで何か気づきが得られるのではないか」と考えるようになりました。今日はシステムとして卓球を捉えたときに自分が気づいたことについて書こうと思います。

経営学には様々なシステムが存在しますが。その中でも機械的システムと有機的システムの2つは様々な理論を説明する上で前提となる、代表的なシステムです。機械的システムとは、対象を機械のように捉え、内部で行われるプロセスが厳密に定められているシステムのことです。反対に有機的モデルとは、対象を生き物(有機体)のように捉え、外部環境の変化に合わせて内部で行われるプロセスを変化させていくシステムのことです。すごく大まかにいうと、機械的システムは「パターン」を重視した、有機的システムは「適応」を重視したモデルだと言えます。

そして、経営学で用いられる機械的システムと有機的システムといった分類は、卓球にも適用しうるものだと言えます。なぜなら卓球も刺激(相手の打球)に対して、対象(プレイヤー)が解釈・行動し、反応(返球)する競技であり、経営学における組織と同じメカニズムで動いている、と言えるからです。ではどうやって卓球(正確にいえば卓球のプレースタイル)を機械的システムと有機的システムで分類すべきか、これから具体的に示していきます。

卓球における機械的システム
①   相手の打球に対して特定のパターンで返球し、得点しようとする。
②   相手のプレースタイルや実力にかかわらず、なるべく同じパターンで得点しようとする。

卓球における機械的システムを採用する人はパターンを重視してプレーします。練習でしばしば採用される「下回転⇒ツッツキ⇒ループドライブで攻撃」みたいなのは、まさしくパターン化された流れであり、これを実際の試合でも行おうとする、重視している人は機械的システムを採用していると言えるでしょう。戦型としては、バック表・ペン表といった速攻系の選手は機械的システムを取っている選手が多いと考えられます。これは「表でチャンスメイク⇒チャンスボールをフォアで強打」というパターンによる得点を、ラバーの性質上行いやすいことが理由に挙げられるでしょう。

卓球における有機的システム
①   相手の打球に合わせて返球し、得点しようとする。
②   相手のプレースタイルや実力に合わせてプレースタイルを変えていく。
③   特定のパターンで得点することを目指さない

卓球における有機的システムを採用する人は適応することを重視してプレーします。練習の中でも「バック対オール」や「レシーブからオール」といった練習は、ランダムに返ってくるボールへの対応力を高める練習であり、有機的システムを取り入れた練習だといえるでしょう。戦型としてはラリー重視の戦型やブロック主戦型、カットマンは有機的システムを取っている選手が多いと考えられます。卓球選手でいえば水谷隼選手はまさしく有機的システムを採用している選手だと言えますね。「懐の深い」プレーと形容される選手はほぼ間違いなく有機的システムを採用しています。

機械的・有機的システムの強みと弱み
システムとして卓球を捉えることで、それぞれのシステムの強みと弱み、自分に向いているシステム、今の自分に足りない技術がより分かりやすくなります。それはすなわち「卓球に対する理解度」を深めることなのです。
それでは機械的システムの強みと弱みについて説明していきます。
機械的システムの強み
①   得意なパターンがはまれば、格上に対しても自分のやりたいプレーが出来る。
②   練習で習得した技術・パターンを試合で活かしやすい
機械的システムの弱み
①   自分の得意パターンが使えない相手や球質が自分と合わない相手に負けがち
②   再戦や部内戦がきつい
パターンがはまる相手には相手のプレースタイルや実力に関わらず力を発揮できるし、大物食いも出来るが、パターンがはまらない相手に対しては脆い部分もあるのが機械的システムの特徴です。機械的システムを採用している選手が安定して勝つには、パターンにはまらない相手専用の戦術、いわゆる「プランB」が必要になるでしょう。私はバックに変化表を貼っているのですが、この戦型・用具は相性による影響をむちゃくちゃ受けます。ナックルに弱いラリー型やオールフォアの選手、守備力が高くない選手はボコボコに出来ますが、スマッシュ主体の選手や守備力が高い選手には逆にボコボコにされます。特にロングサーブから全部スマッシュ!みたいなイカれた頭悪い戦型には実力差関係なく虐殺されます。それでは試合で安定しないので、最近ではそういった戦型の人に対してのみ、ラケット反転を積極的に取り入れて戦うようになりました。反転したら格上に勝てる!みたいな媚薬的効果はないのですが、取りこぼしを少しでも減らすことが出来ます。このように機械的システムを採用する選手は、「プランB」を予め用意することをオススメします。特に団体メンバーに選ばれたい選手は。
有機的システムの強み
①   幅広いプレースタイルの選手に対応できる
②   再戦や部内戦にも強い
有機的システムの弱み
①   自分より強い有機的システムの人に勝つのが難しい
②   勢いに乗った相手を止めるのが難しい
③   そもそも有機的システムで勝てるようになるのが大変
パターン関係なく、幅広い相手に対して自分のプレーが出来る一方、大物食いが難しく、技術的要求度も高いのが有機的システムの特徴です。相性の影響を受けづらく、安定したパフォーマンスが発揮できるのはトーナメント方式の試合では特に魅力的な要素になるでしょう。一方で実力差が反映されやすいシステムなので有機的システムの格上に対して、実力差を覆すのは相当大変です。サービスを鍛えて、ある程度パターンでも得点できるようになるなり、徹底して守備力を磨いて粘り勝つなり、地道な努力が上達には欠かせないでしょう。

機械的システム・有機的システムの適性
ここからは機械的システムが向いている人、有機的システムが向いている人について説明していきます。試合に勝つうえで大事なのは自分が得意な技術に合わせたシステムを採用すること、そして自分が採用しているシステムに合わせた練習をすることです。これが出来ていないと、なかなか思い通りのパフォーマンスが発揮しづらいでしょう。
機械的システムが向いている人
①   得意な技術、得意なパターンが明確に存在する
②   そしてその技術、パターンは幅広い状況で適応でき、相手がそのパターンを回避し続けることが難しい
まず卓球は点取りゲームなので、得意な技術、パターンでしっかり得点が見込めることが機械的システムを採用する大前提になります。器用貧乏、オールラウンドな選手が機械的システムを取ったり、練習や試合でやたらパターンに拘るのは無駄です。今すぐ対応力を重んじたプレースタイル、練習に移行しましょう。対応力重視のプレースタイルでパターン練習が効果的になるのは、カットマンの3球目練習くらいだと思います。
さらに言えば、得意な技術がバックハンドや台上技術といった台全面をカバーするのが難しい技術である選手の場合も、機械的システムで勝ち切るのは難しいと思います。なぜなら相手側は得意なパターンを回避して試合を進めることが比較的容易に出来るからです。バックハンドが得意な選手にはフォア攻めすれば良いし、台上が得意な選手にはロングサーブを多用すれば良いのです。機械的システムを採用する選手がこうした戦術の変化に対応するためには、自分が得意ではない技術も磨く必要がありますが、そうなるともはやオールラウンドで対応力の高い選手になり、機械的システムモデルを採用しているとは言えなくなります。また台上技術が得意なプレイヤーがロングサーブに対する必殺の展開を習得したところで、実際の試合では短いサーブが来るかロングサーブが来るかの読み合いが発生するわけですから、ロングサーブに対する必殺の展開を習得しても部分的、局所的な解決策にしかならず、全体的な解決策にはなりえないと感じています(それでも相手視点は「待ちを外す」必要が生じるので厄介ではある)。
したがって機械的システムのみで勝てるのは、強い技術が明確にあり、それがフォアハンド、両ハンドブロックなど幅広い領域をカバー出来る技術である場合に限られる、と考えています。私はバックに変化表を貼っていて、バックに関してはかなり自信があるのですが残念ながらフォアに決定力がありません。そのためバックハンドを起点としたパターンで点数を取ろうとしても、相手が戦術を変更してフォアで打つ展開を強要されると、パターンだけではなかなか勝ちきれません。そのためフォアハンドの決定力を高める練習を地道に行いつつ、試合ではパターンだけでなく相手に合わせた有機的システムでもプレーできるように心掛けています。その結果、自分の得意なパターンをさせてくれなくて、かつ相手の方が適応力が高い場合を除いたら、ほとんどの層に対して試合になるようになりました。逆に前述のケースでは本当に勝ち目が無いので、どうやって戦えばいいのかが今の悩みどころとなっています。
有機的システムが向いている人
①   そもそも基礎技術の能力が高く、出来ない技術が少ない、もしくはない
②   守備力が高い、下がってもプレーできる
③   上書き系のツッツキやチキータなど、「回転の判別に迷ったときに、強引に自分の回転にしてコートに収める技術」が一つはある。
④   ほとんどの状況において回転をかけて返球することが出来る
有機的システム、ぶっちゃけむちゃくちゃ難しいし、大変です。初心者や初級者がこれやるのはほぼ不可能でしょう。僕も頑張ってるけど無理です!基本的に卓球はサーブよりもレシーブが、ループドライブよりもループドライブの処理の方が難しい競技なので、相手の回転が分からない状況もある中でそれに対応して勝つのは、簡単なことではありません。カットマンやオールラウンドなドライブマンが最初勝ちづらいのも有機的システムに必要な技術的要求度の高さが大きく関係していると思います。ただし列挙した4つの条件を満たしている人は本当に強い!簡単には負けない強さを持つことが出来るでしょう。
 ここまで機械的システム・有機的システムの適性について書いてきましたが、読んでいて「どっちも当てはまらないんだけど…」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?安心してください、かくいう僕もその一人です!僕は機械的システムを採用するにはフォアが弱く、有機的システムを採用するには守備力がありませんが、試合では機械的システムと有機的システムをハイブリッドして戦っていますし、練習ではフォアの強化と守備力の強化を重点的に行っています。現実の組織において、全てパターンで対応している組織や逆に全て即興的な適応行動で対応している組織もないように、現実の卓球プレイヤーも機械的システムと有機的システムを折衷した混合形態を採用している人ばかりです。しかしながら分析枠組みとして機械的システムと有機的システムを取り入れることで、自分はどちらのシステムに近いプレースタイルなのか、今の自分が何の技術を磨くべきで、どのような練習をすれば良いかがはっきりすると思います。この文章が卓球強くなりたいと思う人や経営学・システムに興味がある人に一人でも多く届くことを願って、終わりにしたいと思います。長い文章になりましたが、読んでいただきありがとうございました。

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