ふしん道楽 vol.24 高級仕様
最近ハマって観ているユーチューブのチャンネルがある。
Enes Yilmazer という人の動画で、アメリカ西海岸の超高額物件やハリウッドスターが移動に使う何億円もするようなトレーラー、超豪華大型クルーザーなど、ありとあらゆるジャンルの超高級物件をひたすら紹介しているものだ。
そもそも最初は芸人さんの旅動画を観ていただけだった。
ハイエースを車内泊ができるよう改装して、RVパークやキャンプ場に行くというだけのシンプルな動画を気に入ってしばらく観ているうちに、自分もハイエースみたいな車が欲しくなってしまった。
でも、あんなに大きいのを運転する自信がない。
もう少し小さめのやつはないかな、と探してフィアット社製のデュカトという車にたどり着き、関連動画をいくつも観るうちに気が付けばなぜかラグジュアリーなキャンピングカーの世界に足を踏み入れていた。
最初に観たのはフォルクナ―モービル社製の大型バスで、
そういったものはモーターホームと呼ぶらしい。
何とバスの中央下部にガレージがありポルシェ911が格納されている。
移動した先で小回りの利く車に乗り換えることができてしまうのだ。
居室の方もスタイリッシュな内装で素晴らしく設備が整っている。
バスタブこそないけれどレインシャワーのあるシャワーブース、洗面所もしっかりと広いものでシャワーブースとおそろいのシェルホワイトのタイルが貼ってあってとても美しい。
キッチンには食洗機も完備されベッドルームも広々としたホテルのような仕上がりである。
私は衝撃を受けてしまった。
車だから、という言い訳が一切必要ないほどの居住性。
もちろん非常に高額の予算で製作されているから、というのもある。
だがそれだけではない。
日本国内で同じように高級バスをキャンピングカーに改装したものもあり、
こちらもすべてにおいてかなりお金がかかっているのだが、家具屋の一番高いもので統一した、全体的に豪華な社長室みたいな仕上がりになってしまっていた。
悪くないけど違う。
もちろんセンスもかける金額も違うのだが、それ以外にも海外の住宅を見たときにいつも感じる圧倒的な敗北感の原因は何なのだろうか。
それを解析したくてEnesさんの動画をいくつも観ていった。
多くはアメリカ西海岸にある超豪華な邸宅だが山間部や海外のお城も含まれる。
どの邸宅も素晴らしくてとにかく細部へのこだわりがすごい。
ニューヨークのフォーシーズンズホテルの上にあるペントハウスでは
今までに見たことのない、黒地に筆で書いたような白く太いラインが入った
非常にスタイリッシュな大理石でできたアイランドキッチンがあった。
私は石にまったく詳しくないのだけれど、それでもこれが貴重ですごく良いものであるのが分かる。
それを惜しげなくカウンターの天板にたっぷりと使用。
照明も凝ったデザインのものをそれに合う場所に見事に配置。
床も壁も一ヵ所の例外もなく最高の素材を使っている。
もう良い、分かった!
素晴らしいのは分かった、
と叫び出しそうになる。
ここら辺でやっと「いつも感じる敗北感」の正体が朧げながらつかめてきた。
今までいくつものリノベーションを行ってきて毎回感じていたことだが、
日本は島国なんだな……という当たり前すぎる事実だ。
海外産の石材などの建材はいつだって手の届かない遠い存在だ。
家具などもすべてそうだがウェブで見てこれだ!と思うものがあっても
半分以上が購入できない。
搬送するのにものすごくお金がかかってしまうからだ。
うちんち周りがずーっと海だからね!
大抵の場合、実物よりも送料の方が高くなるのも無理はない。
どうしても欲しいのならコンテナを一つ頼んでそれに入るだけ買うと良い
と教えてくれた人がいたが、そんなことをしたら一体いくらかかるのか。
一度ドイツのキッチンを入れたときにカウンターをつくってもらった。
それ自体はそんなに高いものではなくて、合板でできたカウンターに木にそっくりなプリントのシートを貼ったものだった。
しかしさすが森の国。
そのシートが非常に良くできていて木目に沿った筋までが立体的にプリントしてある。
よく見れば筋の立体とプリントがずれている箇所もあるのだが、
本当によく見なければプリントだと気が付かないレベルの仕上がりだった。
しかも日本ではなかなか見かけないグレーがかった薄茶色の木目が大変に美しい。
アクセントウォールにも貼りたいと思い付いてメーカーさんに頼んでシートだけを別に売ってもらえないか交渉した。
するとどうだろう。
権利の問題もあったのかもしれないけれどメートル売りはしていない
(これは予想していた)。
ロールで買ってもらうことになるが送料などもかかるとのことで法外な値段を提示されて腰を抜かした。
国産車の割と良いやつを買えてしまうじゃないかー!
というような金額であった。
さすがに壁紙に払える金額ではなかったので諦めたが、そのときも本当に欲しいものが「日本国内にない」ということに打ちのめされた。
高級物件の話から少し外れてしまったように見えるかもしれないけれど
素晴らしい海外の邸宅を見るたびに、
こういう床材はどこで売っているんだろう、そしてこういう建材はどこに。
こんなにたくさん手に入れられることがもうすごい。
こんな色のこんなタイルがあったんだ、こんな扉が作れるんだ!
と、毎回思ってしまう。
日本の方が仕事が細やかで仕上げも丁寧、安定してレベルが高いのに、
普通レベルの一軒家においてどの家も同じ印象なのは、いかなるパーツもバリエーションが少ないからだ。
それが高級物件となるとより一層、如実になる。
高いものを買う層は限られておりロット数が少ないので種類も少ない。
日本のお金持ちハウスも皆同じような印象なのは上品で控えめな人が多いからだろうか。
皆落ち着いた内装を求めているから?
いや、分かっている。
そうではなくて最高の建材は日本に入ってこないのである。
圧倒的な敗北感。
それは海外の潤沢な素材の膨大なバリエーション。
選べる種類の多さ。
そして常に手に入る量の多さである。
少ないのは極東の島国の宿命なので仕方ない。
その代わり与えられた材料で工夫して何かをつくることにかけては
かなり鍛え上げられている。
これからもそれで何とかやっていくしかない。
だけど言わせてほしい。
悔しい!
初出:「I'm home.」No.124(2023年5月16日発行)