ふしん道楽 vol.20 ペットとインテリア
うちにはサリーという7歳の猫がいる。
品種はトンキニーズで、シャムとバーミーズのミックスだ。
一口にトンキニーズといっても全身がブラウンの子やシルバーっぽい色の子など、被毛の色から目の色まで組み合わせるとかなりのカラーがある。
うちのはボディーがクリーム色で手足やしっぽ、耳とお鼻がコーヒーブラウンで見た目はシャムとほぼ同じ。
性質もかなりシャム寄りでわがままな甘えん坊、毛繕いに余念がなくいつもエレガント。
昔のアニメに出てくるようなおしゃまキャットである。
そんなサリーが家に来てから何年か経ち、うちは引っ越しをした。
中古のマンションを買ってフルリノベーションしたのだ。
リノベーション内容を計画しているときには、初めて猫との生活を意識した。
それまで考えていなかったが、各部屋のドアに猫用の小さな出入り口を付けたり、寝室の壁にぐるりとキャットウォークを付けて高い場所で遊べるようにしようとか考えたりした。
今は猫用のベッドやトイレもおしゃれなものがたくさんあるし、壁に取り付けるだけの簡単な猫用階段やハンモックなども見つけてしまって、どれも付けたいような付けたくないような気持ちで迷いに迷った。
そして結局やめてしまった。
それには理由が二つある。
そもそもうちのサリーはそういった猫用のベッドや猫用の何かを買ってもまったく使ってくれないタイプなのだ。
人間用のソファを多分自分の物だと思っているし、
洗濯してアイロンをかけたばかりのカバーを装着した人間用の枕にどっしり乗っかって眠る。
おかげで私たちが寝るころには猫毛だらけの枕が錬成されている。
いくら可愛いとはいえこればかりは勘弁してほしい。
たまりかねて「絶対に枕よりも寝心地が良いものを見つけよう!」と探した素敵な猫用ベッドにも見向きもしなかった。
今まで何度となく投資をしてきて分かったのだが、
彼女のために猫用の何かを買うことは無駄に終わることが多い。
ベッドならリサイクルに出したりできるけれど、
壁やドアに何かをつくり付けてしまったら取り返しがつかない。
キャットウォークと猫用ドアはそんな理由により却下となった。
そしてもう一つの理由はインテリア性を優先したからだ。
猫好きの皆様からしたら大層な自己中飼い主かもしれないけれど、私は昔から猫用のキャットタワーなどが部屋にあるのが好きではなくて
ほとんど買ったことがない。
キャットタワーが猫にとっての娯楽の殿堂であるにもかかわらずだ。
中に隠れることができる毛布のような素材のキューブに、そこから上に伸びた麻縄の巻いてある爪研ぎ兼登り棒。
それを登ればお椀のような形のお昼寝スポットやハンモックなどがあり、楽しいうえにくつろげる。
そんな猫の大好き要素の塊みたいなキャットタワーなのに、ナイロンの毛布みたいな生地や段ボールのような素材がどうにも受け入れられなくて買わなかったのだ。
ほんとすまんね、と飼い猫たちに謝りたい。
さすがに子猫の時分にはおもちゃもいろいろと買ってきたが、それも蛍光色のものやプラスチックのものは選ばない。
シンプルな形で自然素材、色は白かアイボリー。もしくは自然素材の色と決まっていた。
しかしそんなおもちゃですら最近は買わなくなって、パーカーのひもとかラッピングに付いてきたリボンなどで遊ぶようになってきた。
今、サリーのお気に入りおもちゃはユニクロのスウェットのひもとiPadに付いてるペン。
おもちゃっていうかただ単にそこら辺にあったものだ。
それでも楽しそうに遊んでくれるしサリーも気に入っている様子だが、本当はもっと猫が興奮して、見たことないほどに暴れまくる最高に楽しいおもちゃがあるのかもしれない。
しかし私は猫が本当に喜んで遊ぶもの、よりも部屋に置いてあって不快でないもの、を基準に選んでしまっている。
これはもうインテリアの奴隷である。
飼い猫の幸せよりも部屋の完成度の方が大事なのだ。
動物愛護の観点からすると最低点をつけられるような飼い主かもしれない。
実際におしゃれでありながら、猫グッズもそこらにあってうまく調和している部屋もあるのだから、
何とかうちもそんな感じに近付けていきたい。
では、ペットも楽しく暮らせてインテリア的にも素敵な家とはどういったものだろう。
猫が楽しんで登り降りできる環境といえば階段だけれど、都心部のマンションなどではそれが難しい。
難しいからキャットタワーが生まれたともいえる。
ただ、そんな限られた空間の結構な範囲を占領してしまうのも私はどうかと思う。
一緒に暮らす家族ならばどちらかだけの都合ではなくて、全員にとって使い勝手が良く心地良いものであるべきなのだ。
猫もくつろげ、人間も収納として使えるものであれば、お互いにとって同じ空間を共有しつつ、それぞれの欲求が満たされるのではないか。
そこで考えてみたのだが、少しずつ階段状になっている本棚などどうだろうか。
うちの猫もよく本棚に登っているが、上の段と下の段の奥行きが一緒の場合、どうしても上に登れず何度かトライして諦める、というのを繰り返している。
ひな壇のように少しずつ後ろにずれていくスタイルの本棚があったら猫も登れるし、本も収納できる。
ひな壇ほどの一段の奥行きは必要ない。5センチほどずれていれば十分だ。
下の段では手前と奥に2冊収納できるが、一番上の段に行くと一冊分になるくらいの計算だ。
一番下は観音開きの扉が付いており中には猫用トイレが設置できる。
横幅は猫用トイレが一つ入るサイズにして、並べて接続していくスタイルにすれば部屋の広さに合わせて拡大可能である。
仕切りの板は縦横ともにオプションで取り替え可能で、くぐり抜けられる穴が開いているものやハンモックになっているものなどバリエーションがあって、猫用オプションを最大に盛れば壁一面を大きな猫用ラックにすることもできる。
調べてみると、猫用トイレが中に入れられるインテリアラックというものはすでに販売されていて、普通の家具としても申し分ないつくりだった。
上の部分はシンプルなオープンラックになっていたので、そこをもう一声頑張って、キャットタワーとしても使えるひな壇型の棚にしてみてはいかがだろうか。
私は買うと思うけれど、サリーが気に入るかどうかは……祈るばかりである。
初出:「I'm home.」No.120(2022年9月15日発行)