![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/43592613/rectangle_large_type_2_4a29213b56a23dcd1c5c205b168b3eed.jpg?width=1200)
ふしん道楽 vol.2 片付いた部屋
私は片付いた部屋が好きだ。
そんなこたー当たり前だろ、と思うかもしれないけどそうだろうか?
散らかった部屋の方が落ち着くという人は結構な割合で存在しているし、かつて私もその1人だった。
ごちゃごちゃたくさん物があると仲間がいるみたいで安心するのだ。
大量の文字や色、多様な質感。
その室内の雑踏に紛れ込みおかしな物体は私だけじゃないよ?と言う顔をして落ち着くのである。
20代、そんな散らかりライフを満喫していたある時。
疲労困憊で帰宅しドアを開けたら足の踏み場も無いことに突然嫌気がさした。
部屋ごとガシっと両手につかんでぐるぐる回りながら遠いお空にぶん投げたい!そのような気分で目をメラメラさせながら入室。
玄関は靴だらけ、雑誌や本が至る所に山積しリビングのソファには洗濯物が家の主のように両手を広げて座っているではないか。
ベッドなどその上で一晩中フォークダンスでも踊ったのかと思うほどの乱れ様だ。
※注 夜の生活を頑張っていたわけではない。
いろいろな物と情報がありすぎてこれじゃ休まらないよ!と、一気呵成に片づけた。それがよほど懲りたのか以来片付けやすい部屋づくりに目覚めた。
散らかった部屋が疲労感を増幅することに気が付いたのである。
では片付いた部屋、とはどんな状態のことを言うのであろうか?
私は「部屋の広さと物量の調和がとれている状態」だと思っている。
物がまったくないのもそれはそれで片付いているというより物がないだけじゃんと思ってしまうし、ある程度物がなきゃ「片付いた」という表現は使えない(出ました屁理屈)。
床やテーブルに余計なものが出ていない状態。
必要なものはそれぞれ所定の場所に収まっていてすぐ取り出せる。
そんな素敵なお部屋のことをずっと考えていたら何がポイントか気が付いた。
それは部屋の中における「色の数」だった。
色数を絞ってその濃淡でグラデーションを作ると納まりが良い、とかそういう上級テクニックの話ではない。
それ以前の話で勝手に室内の色数ゲージを上げてしまうパッケージやラベル、本や雑誌の表紙をどうするか。
調味料や液体のびん、洗剤やシャンプーなどのボトル、歯磨き粉や化粧品にサプリの容器。
これらのほとんどすべては「散らかり感」にひと役買っている。
見た目が騒がしいのだ。高校のころ友達の家で騒いでいたときのその家のお母さんの口調で文句を言いたい。
「あんた達、ホントうるさい!」
インスタのお片づけ系アカウントではこの数年、調味料など全てを同じボトルに詰め替え「美しく統一した見た目の冷蔵庫内」の画像がたくさん出回っている。
最初に知った時は直ちに真似をしようと思ったが、マメさに欠ける私にはボトル詰め替えの際の都度都度消毒が無理だった。
しかし、このおかげで色数が多いことがいかに目にうるさいかを再認識できたのだ。
わさびや和がらしのチューブ、「つぶし梅」と独特のフォントで書かれたビンなど冷蔵庫内は相変わらずうるさいが、外の棚に置く乾物やお茶の葉などは全て同じクリアな容器で統一した。
お水のペットボトルもフタの白いものを買うようにした。
水、というものは無色透明なことで有名な液体のはずなのだか不思議なことに大抵のフタは幼稚園の遊具に使われるような明るい水色かそうでなければ海のような鮮やかな青だ。
その水色ひとつが台所にあるだけで全体的にはなんとなく散らかった印象を生み出す。
そう言った無意識レベルの色の積み重ねが雑然とした景色の基礎をつくるのだ。
たいして物のないはずの浴室が散らかって見えるのは色とりどりのシャンプーやトリートメントのボトルから発生している雑音ならぬ雑色のせいだし、片付けたはずの台所が散らかって見えるのはスポンジが蛍光黄緑でゴムベラがピンクだからである。
それらを1〜2色に統一するだけで片付く。
色が片付けば部屋の景色も片付く。
それに気づいてからは、掃除用品や日常の道具などの選択基準は使いやすさより色になった。
と言うと大袈裟だけど、「すごく使いやすい黄緑」と「普通の白」なら白を選ぶ。
「使いにくい白」ならすみやかに使用をやめて普通以上のものを根気よく探す。
ただ、これは単に私が偏執的に色数統制主義だと言うだけの話。
使いやすさを優先するのは人として当たり前のことで、それ以外を基準にするのはわりとどうかしているからこれ以上進行しないよう気をつけていきたい。
ところで最近気に入っているルームスプレーがふたつある。
ひとつはフランスのキャンドルメーカー、Diptyqueの「FLEUR D'ORANGER」。
ご存知のようにこちらはボトルもクリア、キャップは黒でラベルもシックで美しい。
もうひとつは「sencha」で一躍有名になったAirAroma「Arobalance」のスプレーである。
このふたつを同時にスプレーするとかぐわしい花の香りに新鮮なグリーンの香りがミックスされて、なんともさわやかなお花屋さんの店先のような香りになる。
大好きで日に何回か猫の来ない浴室や洗濯室にスプレーしてうっとりしている。
しかしながらこのArobalanceのボトルがえらい緑色で苦労して絞った色数少なめの室内ではものすごい威力をする。
デザインはシンプルだけどいかんせん緑が眩しいほどに鮮やかなのだ。
香りが大好きだし製品の性質上詰め替えはあまりしたくない。
メンディングテープで巻いてみたり、箱にしまってみたりしたがどれもしっくりこない。
今私は色数を抑えるか香りを取るかで日夜葛藤している。
・・・
ライフスタイル誌「I'm home.」に掲載された、インテリアにまつわる安野モヨコのエッセイ『ふしん道楽 』のバックナンバーをnoteで順次無料で公開しています!
これまでにnoteに掲載したバックナンバーは、下記からお読みいただけます。
『ふしん道楽』は「I'm home.」で現在連載中です。
記事に関する感想はコメント欄からどうぞ!(スタッフ)
安野モヨコのエッセイやインタビューをさらに読みたい方は「ロンパースルーム DX」もご覧ください。(スタッフ)