記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【ネタバレ】プレイ中に思い出した映画と「探偵もの」ゆえの問題性『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』レビュー

紙袋を被った謎の男のティーザー映像が話題となり、様々な憶測が飛び交う中で公開されたのが『ファミコン探偵倶楽部 笑み男 』だ。シリーズの続編としてはサテラビュー向けに配信された『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』(1997)から27年ぶりの新作となる。純粋に「ファミコン探偵倶楽部」の続編としては『ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女』(1989)35年ぶりだ。

「うしろに立つ少女」は1998年にスーパーファミコン向けにリメイクされているし、2021年にはシリーズ1作目の『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』(1988)と合わせてNintendo Switch向けにMAGES.開発でリメイクされた。そういったコンテンツの供給はあったとはいえ、昔の作品といった感は否めない(なにせ「ファミコン」とタイトルについてしまっている)。だからこそ、リメイク版同様にMAGES.開発で発表された新作の出来には注目が集まっていたが、発売されてみると肯定派と極端な否定派とで分かれた賛否両論状態となった。では、何が問題だったのか?

以下、ネタバレを含みます!
終盤含めて言及するため、クリア後にご覧ください!!





コマンド入力式アドベンチャーの是非

本作の問題点の一つとして挙げられるのがシステムの古臭さだ。

「笑み男」のシステムはコマンド選択式アドベンチャーに分類されるものだ。アドベンチャーゲームと言えばビデオゲームの黎明期から存在するジャンルではあるが、初期はプレイヤーが行動するためのコマンドを直接キーボードで入力して進行する仕様だった。

例えば、コマンド「拾う」→画面表示「何を?」→コマンド「石」といった具合。ただ、ビジュアル的な情報も乏しい当時のパソコンでノーヒントに近い状態での攻略は至難の技である。そういった事情もあって、より簡易にコマンドは用意されたものから選択する方式になり、毎回コマンドを成立させるのも面倒となったら選択肢を選ぶだけのより簡易な仕様へと変化していった。

「ファミコン探偵倶楽部」シリーズが始まった時期はコマンド選択式が主流だったが、システムを踏襲して制作された新作「笑み男」が現代のプレイヤーにとって古臭く見えてしまうのは致し方ないだろう。

開発側も古典的なシステムであることを理解しているようで、「笑み男」ではなるべく冗長なゲームプレイとならないように工夫されている点は評価するべきだ。基本的に進行に要するコマンドは限定されているし、迷ったらとりあえず「考える」コマンドを選んでおけば取るべき行動は示される。会話シーンに関しても一回の会話で長々と語ってしまうのではなく、適度に短い。コマンド入力でキャラクターと対話していくような感覚が自然に体験できるようにしているので、近年のノベルゲームに慣れている人も比較的プレイしやすいとは思う。

コマンド選択式にしているからこそ面白くなっている箇所もあり、基本的に証拠品を提示する際に選択する「見せる」コマンドが「ライバル心」や「探偵魂」といった概念的なものを見せることにも使わるのは言葉の妙も感じた。

これも選択式の妙

挑戦的かもしれないが「探偵もの」としての問題を抱えた構成

「笑み男」で発売後に特に話題になったのはストーリーに関するものだと思われる。「任天堂がここまでやるとは!」といった驚きとともに称賛する声もあれば、ストーリーがイマイチ・・・という声も聞かれた。

本作は都市伝説である「笑み男」について調査していく物語となっており、終盤では殺した少年少女たちに紙袋を被せていく恐怖の存在「笑み男」がなぜ殺人者となってしまったのかを解き明かす種明かしが30分程度のアニメーション映像(アニメパートの監督は「オカルティック・ナイン」でMAGES.作品も手掛けているイシグロ・キョウヘイ氏)で描かれる。都市伝説の起源に哀しい過去の事件があったことを描くこの映像の存在に否定的な意見を持つ人も多いようだ。

意味深な警告

個人的にはアニメーション映像や物語自体は問題を感じていない。「任天堂」が陰湿で凄惨な出来事を描いていても特に違和感はないし、「任天堂」に善性や清廉さを期待しすぎるのもユーザーの傲慢だ。ただ、本作は「探偵もの」の作品としては大いに問題があると思っている。

ゲーム終盤は探偵魂で聞き込みを行い、笑み男のアジトに向かっていく直接対決が期待される展開となる。茂みの中を一歩ずつ進んでいくのは期待を高めてはくれるわけだが、一抹の不安もあった。

「このまま終わってしまったらどうしよう。。。」

その不安は的中してしまう。探偵役であるはずのプレイヤーがゲームの最後に選択するのは「調査をやめる」であり、自ら笑み男と対峙することはなく、事件を自ら諦めることでのみストーリーが進行する。探偵助手とはいえ、それまでプレイヤーとともに調査をしてきた主人公が自ら解決できずに終わってしまう展開はプレイヤーの努力を無視しているとも言えてしまう。

これ以降選択する箇所がないのはちょっと、、、

この納得感のなさの原因は一つにはストーリーに分岐を設けない一本道な構成が影響していると思う。劇中で何度か出てくる選択肢は若干の会話の差分とはなるものの、エンディングには影響しない。個人的にはエンディング分岐を大量に用意するのは好ましくないのだが、適度な分岐はプレイヤーに主体的に物語を選択させる(ような気持ちにさせる)楽しさを提供するものだ。「調査をやめる」ことをゲームを進めるために仕方なくやるのではなく、主体的に選ばせるような分岐のパターンが構築できていれば印象は大きく異なったと思う。例えば、調査を続行した場合は事件は解決するものの、犠牲者が出てしまうとか。このあたりは工夫次第でどうとでもできたはずだ。一本道な進行に拘ったゆえの問題だ。

思い出したのはあの映画

アニメーションパートの導入は本編中でほとんど登場していない空木俊介探偵が不在の間に調査した「笑み男」の真相を語る形となっているが、この流れ自体は「探偵・癸生川凌介事件譚」シリーズを想起させられた。本編でほとんど登場しない探偵というスタイルは「ファミコン探偵倶楽部」の過去作でやっていることでもあるが、全ては探偵が知っていた、という流れと犯人側の哀しい過去も解き明かすエモーショナルさは癸生川的である。

シリーズのシナリオやプロデュースを担当している坂本賀勇が癸生川シリーズを意識しているかはわからないが、同じくコマンド選択式アドベンチャーで展開していた別のシリーズ作品に接近しているのは興味深い。

そういった別のゲームへの近似性も感じつつ、筆者が本作で思い出したのは1974年の映画『砂の器』だった。松本清張の原作を野村芳太郎監督、橋本忍・山田洋次脚本で制作された本作は原作から大幅にアレンジされた部分が最も有名である。

東京で発生した殺人事件について調査するうちに地方の農村にも出向くことになる刑事が調査を進めた結果明らかになる犯人の哀しい過去。犯人が幼少期に父親とともに旅をする中で受けた辛い出来事が美しい音楽とともに描かれるシーンは白眉だ。実は原作では一行で終わっていた部分だが、そこを映画化にあたってクライマックスに設定したことが1974年版『砂の器』の素晴らしさだ。

刑事が調査を元に想像も加えて描く回想シーンというシチュエーションや犯人の持つバックグラウンドの特殊性など「笑み男」は『砂の器』とのリンクが多い作品だ。これもまた偶然の一致だろうが、坂本賀勇が映画好きを公言していることを考えるとひょっとして?と思わずにはいられないのだ。

仮に坂本が『砂の器』的な物語を意図して「笑み男」を制作したとしても、ゲームデザインと描きたい物語との相性が良くないのは変わらない。一方的にプレゼンテーションを行う映画とインタラクティブなメディアであるビデオゲームとでは消費者が納得する基準が異なる。「笑み男」は多くのプレイヤーの納得を得るためのデザインが十分にできていないゲームだった。

魅力もたくさんあるぞ!!

システム面やストーリー構成に問題を抱えた作品であるために全肯定が難しい作品だ。ただ、アドベンチャーゲームとしては非常にリッチなビジュアルを実現しているし、緒方恵美や皆口裕子をはじめとしたボイスキャストは素晴らしい。

皆口さんのあゆみちゃんは最高です

少し大人なあゆみちゃんと婦警さんだけでも上述の良くない部分も飲み込めてしまえるぐらいには魅力があると思っている!!(結局そこかよ!!)

もう何度か警察署に行きたくなった婦警さん


今後、庵野ハルカの記事を見てみたいと思った方はサポートしていただけると励みになります!サポートいただいた資金は酒代やゲーム代などに消えます。つまり、記事の充実に繋がります!