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0811_ビー玉と願い

 時間がない。
 
 朝起きると、もう朝になっていて、朝に行うことをしなくてはならない。昼になれば昼にすること、あっという間に夜が来て、私は夜の行動をせざるを得ない。

 朝昼晩以外の私はどこに存在したら良いのだろうか。

 そんなことを小学生来の友人に話したところ、ひとつのビー玉をもらった。

「なんこれ」
「魔法玉」

 それは私たちが学生の頃に放送していた幼児向けの戦隊アニメのアイテムやないかい、と思いつつも受け取り、親指と人差し指でつまみ何となく定番の上に向けて翳してみることをした。が、喫茶店において、太陽の光があるわけではないので、くすんだ透明はくすんだままである。ラムネの瓶にあるような、そこで一生を終えることを定めとしている色のビー玉。

「これをどうしろと」
「念じてみて。時間増えますようにって」

 真剣な顔でも冗談めいた顔でもなく、ただの真顔で言うものだから、そちらの方が断然怖い。私はビー玉を両手の平で挟み、目を閉じた。

『もう少し、私がやりたいと思うことができる時間がほしいです。家族のための時間を減らすことなく、私の時間を増やしてほしい。お願いします!』

 心のなかで叫ぶようにして唱える。友人が向かい側から「できるだけ願い事は細かくね」というので、付け足した。

『私のやりたいこととは、もっと本を読みたい、勉強したい、時には優雅にお茶でもしたい、やらなきゃいけないことをする時間をへらしたい、自由でありたい、ああ、以前にハマっていた刺繍もまたやりたいなぁ、それにお菓子作りにも挑戦したい、それと』

 言って、息を漏らした。私にはやりたいことが多すぎる。

「願えた?」
「うん」

 友人は手元のクリームソーダのストローを口にした。ズゾゾと言う溶けてへしゃりと固まったクリームの泡を吸っている。私は言葉を待った。

「じゃあ、それを時間見つけてやればいいんだよ」
「え」

 私は思わず友人とビー玉を交互に見る。
 願い玉とは?

「願う玉だよ。叶える玉ではない。願いを明確にするためのもの。それを実行するのはあなた次第!」

 急に指先を突きつけられた。
 なんとまあ!

「子供だましか」
「あなた、子供でもないし、騙したわけではなく言ってないだけ」
「子供言ってないか、てこと?」
「全然うまくない」

 騙された上に、ダメ出しも食らった。

 まぁ、確かに、時間は平等だから、願い玉で増やしてくれるはずもない。そらそうだ。

「ビー玉は?」

 友人が手を出してきたので、丁寧に返却した。

「自分の?」
「うん、来ないだのお祭りで買ったラムネについてきた」

 ラムネのビー玉もいろんな生き方があるようだ。
 私も見習うことにして、願った片っ端からやってみることにする。

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