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6月6日 プロポーズの日
彼が探していたのは、プレゼントについていたリボンの帯だったらしい。
6月は私の誕生日である。
まだ先ではあるが、当日は平日であるため、今日お祝いをしてくれるということで私は彼と夕方に待ち合わせをした。
「やっぱり夕方は少し肌寒いね」
私がそう言うと、彼はうん、とだけ言って開けていた車の窓を閉めてくれた。ほんの少し緊張感がある。
もしかして、と思ったり、まさかねと思いながら車は目的地へ到着した。どうやら店がリニューアルオープンしており、思っていた場所と違うことに慌てていたらしく、到着したとき、彼は安堵の表情を見せた。ああ、その緊張感だったのねと私も微笑む。
食事はとてもおいしく、単なる誕生日お祝いにこんな素敵な店を予約してもらって良いのだろうかとちょっとドキドキするほどだった。
「あ、そろそろ時間だ」
「え、何の?」
私がぼんやりしていると、彼が手をさしのべてくれる。
「行こう」
私はその手を取り、立ち上がった。
二人で向かった先は大きな船だった。クルージングである。
「えーすごい!」
「乗ろう」
彼と手をつないだまま先導してもらい少し揺れる船に乗り込んだ。
まるで夢かと思った。
出港して、ゆらゆらと揺れる船内はその夢の中に向かう途中のようであったし、しばらくして船外に出て見上げた空は澄んでいて星々は煌めいていた。揺れと大きな夜空に私はまるで空を旅しているように感じていた。
「船に乗って海の上にいるのに、空に浮かんでいるみたい!面白いね、すごいね!」
私は大興奮である。彼はその私にとても優しく微笑んでくれた。そして少しして、どこか真剣な顔で立ち上がった。
「ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うとどこかに歩いて行ってしまった。下船まで15分を切るところだ。どうしたのかと思いつつも、私は夜空を見上げて相変わらず夢見心地であった。そうして、もしかしてと思いつつも、まさかねと打ち消して船は港に着いた。彼はその数分前に戻ってきた。何でもないよと言って。
とても素晴らしい誕生日になったと私は彼に伝え、もうその時には彼が好きで仕方がなかった。もともと大好きだったわけだが、そこにシチュエーションの素敵さが加わるとこうも跳ね上がるのかと思うほど、私は胸が高まっていた。
だから、まさか言われると思っていなかった。
「幸せにするので、結婚してください」
そう言うと、彼は私にダイヤのネックレスをくれた。指輪が苦手だという私の言葉を覚えてくれていたらしい。とても綺麗なネックレスで、私は思わず泣けてきた。
夜の空気はさっきまでと違いどこかほろぬくい。それは私が感じているだけなのだろうけれど、明らかにさっきまでとは違う心地よさだった。
「よろしくお願いします」
私はそう言って、私の当たり前の返事をした。
あとで聞いたことだけれど、船の中でネックレスについていた包装用のリボンの帯を落としたらしい。それに焦って彼は船内を探したのだった。
「ちゃんとリボンをかけたまま渡したかったんだ」
私はそれを聞いて、やっぱり彼と結婚しようと思った。
プロポーズにきちんとリボンまで掛けてくれた彼を、私も幸せにしたいと思うのだ。
こっそりそう決意して、私は目を閉じた。
有り体だけど、と前置きをして。
プロポーズをされた日は一生忘れない。
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【今日の記念日】
6月6日 プロポーズの日
ブライダルファッションの第一人者の桂由美氏が会長を務める一般社団法人全日本ブライダル協会が制定。「ジューンブライド=6月の花嫁は幸せになれる」の故事から、結婚の守り神ジュノーが支配する6月にプロポーズをして、幸せな結婚にゴールインする日とするのが目的。日付は花嫁が幸せになれる6月の最初の日曜日に。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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