見出し画像

5月23日 不眠の日

 ここ一週間ほどうまく眠れなかった。

 一応『眠っている』と言う時間はあるのだが、細切れだったり体力を回復させるような熟睡などではなかったりと、つまり疲れなどとれない程度だ。

 そもそも寝ようと布団に入ってからが長い。

 何とか眠れても夜中や朝方にかけて何度も起きてしまう。

 よく寝たと思って起きると、就寝から一時間ほどしか経っていないことも多い(もしかしたらこの一時間だけが熟睡出来ていて、その時間だけで私の体は保っているのかも知れない)。

 そしてその後は必ず眠れないでいるのだった。


 なぜ眠れなくなったのだろう。

 おそらく原因の一つは『不安』だ。


『このまま夢が叶わないのではないか』


 薄々と心と頭の中に潜んでいたこの不安が見事に起立したのが不眠初日のことだった。

 こんな不安、昔から分かっていることだったし、現実的に考えて夢は叶わない可能性の高いものであることも知っているつもりだ。それがなぜ、このタイミングでまるで何かの啓示のように頭の中に立ち上がったのかは分からない。分からないけれど、その言葉が頭の中で鮮明になり、妙に不安になったのだった。

 私の夢は絵本作家になることである。

 中学生あたりから描き始めた夢だった。けれどそれは夢である。夢は夢のまま私は成長し、その夢はなかなか現実に向かわなかった。だからそのまま大学に進み、就職し、一般企業に勤め、結婚し、出産し、子供を授かった。

 そしていつしか、夢が現実に対峙していることに気づいた。

 夢は夢でなく現実にしなくては叶わないのだと成長するにつれ認識したのかも知れない。もしくは単純に年齢を経て、現実が押し迫り、夢が現実となるリミットがようやく見えるようになったのかも知れない。

 そしてそのリミットは段々と迫っているのだった。

 私は日常に忙殺されながらも、時間をひねり出し絵本を描き始めた。随分と遅いスタートダッシュに泣きそうである。

 そして私は37歳になった。

 このまま夢は夢のままで叶わないかも知れない。

 そんなことは分かっているのに、不安が膨らみ、気づくと朝になっていた。

 そうして不眠に陥ったのだった。

 夫に相談すると、病院に行くように言われたがどうにも気が進まず、それを拒否した。すると、だったら自分で治しなさいと言って、薬局で薬を買ってきてくれた。それは睡眠改善薬だった。

 睡眠薬など飲まないと言ったのだが、彼は睡眠薬ではなく、改善薬であると言う。この薬を飲んだとて、私の不安は改善されないのだから意味などないでしょうと半ば八つ当たりのように私は彼に言った。

「寝りゃ治る」

 四の五の言わずに飲めと言い、丁寧に水まで用意してくれたので、仕方なしに私は渋々従った。


 眠れた。

「おはよう!何これ、めっちゃ元気なんだけど!」

 日曜朝の7時に子供ではなく母である私がハイテンションで起きる様を見て、夫はあきれながら言う。

「元気な作家が描く絵本じゃないと楽しくないだろう」

 言ってから、笑った。

 おっしゃるとおりである。不眠作家の描く絵本はどれほどネガティブなものになるだろうか。体が資本とはよく言ったものだ。

 不安を解消するより先に、眠って元気になろう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】

5月23日 不眠の日

日本人の半数以上がなんらかの不眠症状を持っているといわれる。しかし、その中の多くの人が対処方法や改善手段の正しい知識を有していないことから、睡眠改善薬などを手がけるエスエス製薬株式会社が制定。不眠の改善について適切な情報発信を行う。日付は2と3で「不眠」と読む語呂合わせから2月3日に。また、不眠の症状は一年中起こるので毎月23日も2と3で「不眠の日」とした。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



いいなと思ったら応援しよう!