![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/140871525/rectangle_large_type_2_5efd6b70520b06009c90a7d4860324b7.jpeg?width=1200)
0517_嘘を吐く
「嘘をつくってことは浮気と一緒だから」
宝田さんはそう言っていた。単なる嘘も、浮気もいずれにしても隠し事ということらしかった。ほんに宝田さんらしい。
彼とは先日まで1年付き合っていた。そして、私がついた嘘は酒を飲んだことだった。付き合って半年のこと。
彼は酒を飲むことが嫌いだと言っていた。その時の私は自分でも引くくらい、彼が好きだったので、うんうん分かったとそれを了承して酒を飲まないこととした。
実際、飲んでいない。
いや、訂正する。嘘を吐いたあの時、1度だけ酒を飲んだ。まぁ、嘘は嘘だし、飲んだは飲んだ。私が悪い。ところも、ある。
しばらく、本当に飲まずに誘いも断っていたのだ。けれど、付き合って半年経った頃に会社の歓迎会があり、私は上司に継がれた酒を断ることが出来なかった。たった一杯、されど一杯。それは分かる。でも酒に弱いわけでもない私のその一杯の飲酒が何故わかったのだろうか。
私は反省し、それ以降誰の誘いであっても誰の酌であっても(そんなにないが)、丁寧に断っていた。
丁寧にお断りしていたら、彼が浮気したのだった。
嘘は浮気だと言っていたが、浮気はいったい何だというのだろう。
「さしずめ、殺人?」
私が真剣に聞くと、ごめんなさいと頭を下げられた。彼は真剣に謝っていた。大体にして、私が聞いたわけでもないのに、勝手に自白してくれたのである。私ではなく、相手を選んだことがよくわかってしまった。
浮気をするなら、嘘くらい吐いて欲しかった。
私はそんなことを言って、宝田さんを困らせてみる。表情の一つも変わらないので諦めた。
浮気相手の写真を見せてと言ったら、気まずそうな汗をかいてスマホを見せてくれた。
私はすぐに合点がいった。
浮気相手は私の同僚で、私のかの一杯は彼女によって宝田さんに伝えられたのだった。
とりあえず、「嘘つき!」と有体の文句をぶつけて私は酒を飲む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18時からの純文学
★毎日18時に1000文字程度(2分程度で読了)の掌編純文学(もどき)をアップします。
★著者:あにぃ