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0621_ライスで振られる
なんでかなぁって、考えたんよね。
確かに色々障害はあったけれども、それなりに、と言うか相応にと言うか、愛し合っていたとは思うんだよ。
え、なに。
ああ、はい、カシスグレープでいいの?
すいませーん!これ、このカシスオレンジ、あ、ちがうわ、カシスグレープをもう一つ。
あ、うーん、私はまだいいです、はい。
でね、うん。そうそう、ちゃんとお互いに愛し合っていたと思うのよ。
なに?障害?ああ、まぁ、障害と言うか、仕方ないと言うか。彼がね、婚約中だったわけだよね、うん。あ、あと社内恋愛ね。私は派遣で彼はそこの社員さんで、結構バレたら良くないと思うんだよね。うん、これは障害だったかも。
とはいえね、もう一度言うけども、ちゃんと愛し合っていたのよ。彼が結婚式場の下見に行くとき、メールをしていたのは私だし、彼が会社に向かう時の電車の中でメールをしていたのも私。帰りにタイミングを合わせて帰ったこともある。夜中にふと、会いたいと思っては私が会いに行ったりもした。
そんな風に、私たちはちゃんと好きになって愛し合っていたのよ。
でも、なんで私は今、一人なんだろうって考えるわけ。
あ、はい、カシスグレープはこの人です。ありがとうございます。
なんで私は一人で、彼は結婚したのだろうかと。ほんと、なんでかな。彼の好きな芸能人とか聞いてみてもどっちかと言うと私のほうが彼女より、あ、奥さんね。奥さんよりも私のほうがその芸能人寄りの顔してるのよ。年齢も私のほうが下だし、一緒に過ごす時間も私のほうが多かったはずなのに。
なんでかなぁって。
あ、やっぱり私もカシスグレープください!
それでね、思い返してみたの。彼が私とさよならした理由。
私、大概のことは彼の言うことを叶えてきたつもりなんだけど、一つだけ思い当たったんだよね。
私、ステーキハウスでライスを半分残したの。
あとにも先にもない、彼と過ごしたホワイトデーの日に近くのステーキハウスに連れていってくれてね。私、胸がいっぱいでライスが食べられなかったのよ。頑張ったんだけど、私にしては珍しく、食べられなくて。本当に心苦しかったのだけど、残すことにしたの。そしたら、彼、とても悲しそうな顔でね、「最初に言ってくれれば良かったのに」って言ったのよ。
多分、彼が私から離れた瞬間があるとしたらここだったと思う。思い返すと、彼、食べ物を残すことは絶対にしなかったの。苦しくても食べきっていた。
それを、私はきっと壊したのね。
それで、彼との何かの線が途切れたのだと思う。
だから、私はそれからライスだけは残さずに生きているのよ。
え、なに、ちょっとそんな憐れんで見ないでよ。いいのよ、こんなの。え、はいはい、カンパーイ!はい、ありがとう。
え?なに?枝豆?
いらないわ、私苦手なのよ。
それは残すわ。
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