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0806_真田は

 私のすることの全てが違う気がする。

 真夏のくせに、夕方になると涼やかな風が吹く日だった。私と真田は、最寄り駅にある小さなカフェでなんのこともなく向かい合っては時々話をした。2人で会っているのに、話すのは時々だ。

「やりたいことある?」

 おもむろに真田が聞いてきた。私はすぐに答える。

「あるにはある」
「ほぅ」
「でもそれでどうお金にするの?生活するの?とか需要あるの?とか聞かれると何も、何ひとつもこたえられない」
「でもやりたいことなんでしょ」

 そうだと答える代わりに、私は頷いた。真田は気づかなかったのか、返事はなかった。

「なりたいものある?」

 また、真田が聞く。私はすぐに答えた。

「あるにはある」
「へぇ」
「でもなってどうするの?と聞かれると何も、何ひとつも答えられない」
「でもなりたいものでしょ」

 そうだと答える代わりに、私は頷いた。真田からはやっぱり返事はなかった。

「私のやりたいこともなりたいものも、全てが違う気がする」

 私が言った。真田はそれを知っていたかのように、顔さえ向けなかった。私は続ける。

「やりたいこともなりたいものも、やってみたいと思うことも、やろうかなとふと浮かんだ思いつきも、全部、なんか違っていてダサい気がしてる。こんな事やって意味あるの、とか、こんなの誰だって」
「でも少なくとも君はこれまでそれをやっていないし、君にとっては意味あるし、君にとっては間違ってないんだよね」

 私は静かに頷いた。
 ここで頷く事も出来なければ、それは本当に違っていてダサい気がした。

「じゃあいいじゃん。君以外の誰かだとか、他に気にすることなんて1つもないね」

 私はまた静かに頷き、もう溶けてしまったストロベリーパフェをスプーンで掬って食べた。

「あ、あと、君のやりたいことやなりたいものは少なくとも、君の他では真田にとっても意味のあることだから。自分以外の価値が欲しいなら、真田がいるよ」

 真田も、既に溶けてしまったブルーベリーパフェをスプーンで掬って食べた。

 真田は、自分のことを「真田は」と言うタイプである。

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