
0619_隣の逆井
「私が愛だと言ったらそれはもう愛だよ」
自信満々な物言いで、逆井は言った。彼が言えば、それは愛になるのだろうと何となく納得できた。
夕焼けがやけに明るく、朝日のそれとは違う明るさを持って私に迫ってくる。私は空を見て泣いていた。逆井は前を向いたまま、私を見ることなく、私の頭をポンポンと優しく撫でてくれる。ポン、とされると涙が一粒落ち、ポン、とされるとまた涙がひと粒落ちるのだった。
私は果たして何を生きているのだろうかと、眩しいほどの夕焼けを睨んでは思う。思うだけ、夕焼けの明るさとひと粒の涙に滲んでは消えるのである。
それを、逆井だけは知っていてくれるのだ。私でさえ、その惨めさに目を伏せているのに彼はちゃんと見て、知っていてくれる。
私はとてつもなくそれがありがたく、尊いものなのだ。
彼は何もしてくれない。
何もしてくれないのに、私の何でもを知ってくれている。
「私が愛だと言ったらそれはもう愛だよ」
逆井がまた言うので、私は愛を知る。
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★著者:あにぃ
※あなたにも隣に逆井がいたらいいのに。