0629_こうふくを知る
曇り空は、そのあとに晴れ間が出ると美しいグレーを見せた。
今日は朝から爽やかであった。
カーテンの隙間から差し込む朝日は厳かで、なんとも神秘的な光であり、私はそれに照らされていた。まるで今日が特別な一日であるように私を輝かせた。実際、私にとって今日は特別な日である。
今日は私にとって「こうふく」の日なのだ。
「こうふく」で忙しく、無駄にできる時間は一つもなかった。
私は健やかに目覚め、窓から外を眺めて緩やかに微笑み、胸の中のわずかな興奮を感じては気を抑えるよう努めていた。朝食はなんのことのない、バタートーストとアイスコーヒー。フルーツはキウイを半分に切ったもの、それをスプーンですくって食べる。ゴールドキウイであるが些か未熟であったのか、口にいれた瞬間、酸味がある。そのあとでじわり甘味がくるので私はやっぱり顔が緩んだ。
支度を終えて、公園に出た。曇りから日の当たるベンチに座り、鞄に手を入れる。鞄のなかには文庫本が2冊、水筒、タオルハンカチ、家の鍵、それだけ。
本をとりだして、折り紙のしおりを外して、足を組んではほどき、ページを開く。もう何度も読んだ短い物語。私は、眩しいなぁと思いながら、今日もまた読み進める。
3時間ほど、読んでいただろうか。途中、もう一冊持参したこれもまた何度も読んでいる物語を読んだりして、結局ざっと二冊読み終えた。
頭上の日はまだ私を見ている。
昼食に、近くのカフェでサンドイッチを食し、また、本を開いた。キリのいいところで食後のケーキを頼んだりして、私はずっと「こうふく」だった。
気づけば15時を回っていた。
果たしていつから時間感覚がなかったのだろう。一瞬、まるで探偵か手品師に騙された観客のように推理を試みるが、どうでもいいなぁと思い、私は会計して店を出た。
私を照らす日は斜めから私を見つめているようだった。
夕方が近づいたせいか、空気が湿っている。湿った空気に、近くの公園と茂みにある草木の臭いが混ざり、どうにも生臭い。私はそれにもまた、「こうふく」を感じていた。
思えば私、今日は特別ななにかはしていないのである。
けれども、今日一日、一秒と欠かさず「こうふく」であった。
こうして、私は特別なまいにちを過ごす。
これが何よりのこうふくであると知る。
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