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0215_お守り

 わりに暖かい日中であった。それなのに夕方になると途端に冷たい風が吹き、私はちょっと混乱する。

 『お守り』をもらった。

 正確には作ってもらった。その人は、友人でも知人でもない、ただその時に駅にいた露天商の老人。

「ちょっと君」

 僕は駅の改札を抜けてすぐ側の柱に立ち、人を待っていた。向かいの柱にいたのがその老人だった。シワシワの顔はただの幸福が為にできたわけではなさそうで、哀愁を感じさせる。だから僕は返事をせず、気付かないフリをした。

「ちょっと君よ」

 大声でも無いその声は、僕らの間を抜ける人々にかき消される。それに乗じて、やっぱり僕は気付かないフリをした。

「おいでなさいな」

 急に昔話みたいな口調になるので、どんな表情をしているのかと気になってしまい、思わず老人を見てしまった。ら、目があった。僕ですか、みたいにわざとらしく目を見開き、仕方がないので言われるまま彼のもとに歩いた。

「誰かを待っているのだろうけれども」

 そりゃ、見れば分かるよなぁと、老人の目をじっと見た。

「それは来ない」

 とてもキッパリと言うのだった。まるで、苺を目の前にして『苺です』と断言するようにハッキリ言った。僕は、どうしてそう言い切れるのか聞こうと思ったが、どうしても、なぜか分からないけれど、声にならなかった。自分でも来ないかもしれないなと思っていたからだろう。
 また彼が口を開いた。手に何かを握っている。

「だからこれをやろう」

 差し出されたので、ふいに手が出てしまった。高さ3cmほどの木の枝の一部ようだ。直径は1.5cmくらいだろうか、側面の一部には小指の爪ほど大きさで皮が削ってあり、そこに赤色で目と口が描かれている。笑っても怒ってもいない。

−_−

こんな感じの顔。

「君を見ている間に、今作った、君だけのお守りだ」

 胡散臭いセリフなのに、それを少しも感じさせず、ただ、老人は誠実そうに僕を見る。なんとなく、もらわないわけにはいかないと思い、お代はいくらかと聞くと、不要だという。

「知らん人に救われるといいよ」

 ニコリと笑う老人の歯はところどころ隙間があった。キッチリしていなくて良かったなと思う。ありがとうと言うと、老人は節操なく他の誰かに声を掛けていた。

 約束の時間は過ぎていた。あと5分待って来なければ今日こそはもう帰ろう。
 僕は、老人がくれたお守りを握り、自分を救うことにした。

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