0722_私の課長
目が覚めたのは明け方4時であった。
布団の隣には、誰もいなかった。
外は白んで明るく、窓を閉めていても、チュチー、チュチーと鳥の鳴き声が聞こえる。なるほど爽やかな朝である。月曜日がこう始まってくれるのであれば私は他に言うことはない。きっと、昨夜まで隣にいた彼女もそう思ったことだろう。
いつもより少し早くに職場についた。そこに、彼女がいた。自席にて何やら書き物をしているようだ。
「先に来ていたんだね」
私はまるで驚いたかのように伝え、その実驚いてなどいないという表情を作った。本心は、職場だろうがなんだろうが、いてくれてよかったと安堵した。
誰だって、愛しい人と迎える初めての朝に本当は隣にいて欲しいものだし、一緒に朝を迎えたいのではないか。私も多分に漏れず、である。そうならなかったことがいくらか私の不安を掻き立てていた。
私が始業の準備に取り掛かると、彼女が寄ってきた。ふぁん、と香ったのは私と同じトリートメントの香り。ピオニーだったか。
「課長、今日は外訪がありましたっけ」
「今日はないよ」
そうですか、と私の顔を確認して再び彼女は自席に戻った。そして自席からよく聞こえる声で「一緒にランチをしましょう」と言った。なぜ、私の席に来た時に言わなんだか。
「おはようございます!お二人共早いですね」
入社3年目の関口くんだった。私と彼女が既におり、何かしらを話していることはわかっている模様。
だからといってなにもないのだが。
「おはよう。君もいつも早いよね」
「この部署では一番下っ端なので」
言いつつも、愛されているのだと分かっているのか彼は笑った。
もし、ランチの話が彼にも聞こえていたならば、彼も誘ったほうが流れが自然なのではないか。一瞬、そんなことを思った。そしてもしかしたらそれが正解なのかもしれない。
けれど、私は彼を誘わなかった。
彼女が私をランチに誘った時、彼女の顔は薄ら紅く、横顔から察しても口角が上がっていた。つまりきっと、彼女は嬉しそうにして私を誘ったのだ。
私は、彼女とのそのひとときを大切にしたい。
資料を取りに席を立つ。
彼女の背後を敢えて通ると、彼女はまだ何かを書きつけていた。バレないように覗いてみると、彼女の可愛らしい字で書かれたそれは、やっぱりとても微笑ましいのだった。
『今日、課長とランチした♡』
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