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0217_虹の大きさ

「いつもよりも大きな虹に見えるね」

 床を見て、私が嬉々としてそう言うと、娘は、うーんと考えるような表情を見せた。2月の土曜日、なんのこともない日。

「いつもこれくらいだよ。いつもと一緒」

 そうかなぁ、そうだよと軽く応酬し、習い事の時間が近づいていたので慌ててその先に向かった。

 駅の改札を抜けたそこに、虹が出ている。

 となりの駅の天井の一部が窓になっていて、そこの日差しが床に虹を写し出す。雨の日や曇りの日、夜になると見れない。限られた日の限られた時間だけの虹。天然のそれと変わりない。
 私はこの虹が好きだった。
 そもそも虹が好き。いままでの雨がまるでなかったことのように空に大成功の姿を映し出す。それもドーンと広い範囲で。7色なのかどうかは分からないけれど、そのいろんな色は、色の数だけなにかを『認めて』くれるように思える。虹は優しい。だがしかし、空に見られる機会はとても少ない。だからこの駅で見られるそれが、私は好きだった。

「ママ、久々に見たから忘れちゃったのかなぁ」

 私は少し残念に思いながら言った。
 
 娘は今年小学校4年生になる。土曜日の習い事は1年生から続けていて、送り迎えは私と夫でずっとしていた。けれど今年に入ってすぐ、一人で行ってみたいと彼女が言い出したので、夫と相談し、スマホを持たせることで良しとした。何度か練習の後、1月半ばから1人で行っている。たまたま今日、私は同じ駅に予定があり、久々に一緒に向かったのだ。
 そして、私には虹が小さく見えた。

「じゃあ、行ってくるね」

 娘が習い事の会場に着く。私は終わったら連絡してねと伝える。コクンと頷き、会場の中に入った。ドアは開いていて、私は彼女の後ろ姿をずっと見ていた。靴を脱ぎ、靴箱に入れ、他の人たちとすれ違いながら少しずつ遠くに行った。
 娘は、1度も振り返らないのだった。
 私はしばらくその場所を見つめていた。そりゃ振り返らないだろう、もう私は送り迎えをしばらくしていないのだから。彼女にとってはあくまで『いつも通り』である。いつも通りにたまたま私がいるだけ。それだけ。
 けれど私にとっては、久々の娘の送り迎えであり、久々の彼女の後ろ姿だった。そしてこの『久々』でさえ、近いうちに無くなってしまうのだろうと思うとなかなかどうして動けなくなってしまった。彼女はもう1人で進み、私を振り返ることも無くなった。いろんな物が、段々と私の手から無くなっていくように思えて少しだけ切ない。
 そういえば、振り返らずに進む彼女の背中は少しだけ大きかっ たかもしれない。
 私はまた、大きく感じた虹を思い出す。

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★著者:あにぃ

※子供の成長、ほんとにあっという間。




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