0511_愛について
私は、愛を考えることにした。
今日の天気は快晴で、公園にいる私の視界には輝くような空が広がっている。緩く吹く風には少しの熱があり、肌に触れると何かベールにでも包まれるような優しさがあるのだ。自然、目を閉じてぎゅっと自分の体を風のベールごと抱きしめてみる。
ああ、愛おしい。
私のこの、たゆっとした腕も、思ったより広い背中やそこに漂う私の香りも含め、私は私を愛しいと思うことにした。何でこんなに愛しいのだろうかと、眉間に皺が寄るほど考えてみるが、わからない。次第に何故かなどどうでも良いと思うようになった。
どうでもいいから、私は自分が愛しい。
これは自分だからそうなのだろうか。
快晴の中、うすらぼんやりと浮かんだ疑問に我慢できなくなったので、公園中を見渡してみる。犬の散歩をしている人がいた。私はゆっくりと近づき、話しかける。
「こんにちは、かわいいですね」
「ありがとうございます、人懐っこいのでどうぞ撫でてあげてください」
朗らかな笑顔は私への薄い熱を感じた。
「抱いてみても?」
「ええ、どうぞ」
そう言ったので、私はその人の背中に腕を回しぎゅっと抱き締めてみた。
「え」
「うん、暖かいですね」
私はそれだけを確認し、手を離した。
「ありがとうございます」
その人は呆気にとられた顔をして、はい、と答えてくれた。
暖かかったし、じんわりとした熱を感じた。それは自分を抱きしめた時と同じであるはずだが、同じように気持ちが高まることはない。同じようなことをしても、愛ではないのである。もはや『愛』が何なのか分からず、本当はそんなものは特別にどこかにあるものではないのかもしれないと思う。
私は、元いたベンチに戻り、目を瞑って私を思ってみる。抱きしめず、思うだけ。
あぁ、愛おしい。
触れずとも自分を想うだけで、ただ愛おしいものだ。胸の内が熱く、大切が湧き上がる。
次いで、さっきの犬を散歩していた人を思う。抱きしめず、思うだけ。
なにも思う熱はなかった。
でも、少しだけ分かる。
『愛』は特別な場所にあるものではなく、すでに特別なものが『愛』なのではないか。
だから私は、私を愛するのではなく、私自身が1つの『愛』なのだと知る。
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