見出し画像

1月7日生パスタの日

 この街に引っ越してきて間もなく7年となる。都内に近いような近くないような、駅前もにぎやかなようなそうでないような、良い意味で曖昧な街だと思うが、私も夫も曖昧なのでそれで良い。

「久々にCOOCAに行こうか」 

 休日の朝、夫が新聞を読みながら言う。時刻はまだ9時で、今さっき朝ごはんを食べたばかりである。

「いいね!ちょうど行きたいと思っていたの」

 私は喜んで答えた。今さっき朝ごはんを食べたばかりだろうと、今口の中にりんごが入っていようと、食べたかったのだからしょうがない。COOCAのパスタ。

 7年前に引っ越して来たとき、美味しいお店やお気に入りのお店を見つけようと、週末に夫と色んな店を巡った。とは言え大きな街ではないので2ヶ月もあれば週末に少し巡るだけで殆どの店に出向くことができた。その中で、二人揃ってお気に入りの店となったのが『COOCA』と言うパスタ屋さん。生パスタを売りにしていて、実際美味しい。

「何にしようかなぁ。やっぱりえびのトマトクリームかな」

 私が思いを馳せるようにつぶやくと、夫は笑う。

「美咲はいつも同じのだよね」 

「だって美味しいんだもん。他のを食べようとなかなか思えないのよね。もちろん美味しいんだけど」

「たまには冒険することも大切だよ」

 知ったようにドヤ顔で言い、新聞を畳んだ。


 かくして昼食時になり、私と夫はたまには散歩にと歩いて駅前のCOOCAまで向かった。

「いらっしゃいませ」

 いつもの明るい店員さんが席に案内してくれる。本日のおすすめを聞き、一通り悩んだ末に私はやっぱりトマトクリームパスタである。久しぶりだからこそ、いつもの生パスタを食べたいのだ。

「俺は冒険する!」

 そう言った彼は店員さんに向かってフィットチーネカルボナーラを注文する。確かに冒険かも知れない。彼がクリームパスタを食べるところを私は見たことがないのだ。

「珍しいね」

「まぁたまには新しい味を食べてみたいし。それにここの生パスタだったらきっと美味しいはず」

 間違いないねと食べてもいないのに2人でどこか確信して笑う。確かにどれも美味しそうだしなぁ。そう思ってメニューを見ていると、彼の頼んだパスタには注意書きがあった。

『※フィットチーネカルボナーラは食感にこだわり、乾燥パスタで作っています』

「あっ」

 思わず声が出る。どうしたのかと彼が聞くので、一瞬考えて答える。

「えっと、スタンプカード忘れてきちゃった」

 何となく言えず、別の話を出す。ちなみにカードはかばんの中にある。

 言おうか言うまいか悩んでいると思ったより早く彼のパスタが到着した。

「伸びちゃうから先にいただくね」

 彼は丁寧に断り、フォークを持って一巻き口にした。

「美味しい!もっちもちだ」

 その一言は『やっぱり生パスタはうまいなぁ』を含んでいるようだった。私は目をつむり、奥歯を軽く噛み、そうして、顔を上げてみせた。

 私のパスタが来たら少し分けてあげようと密かに思うと、唐突に彼が言う。

「あぁ、幸せだなぁ」

 私はもう心底愛しくなってしまった。

 大好きな人と食べればそれはとても美味しい『生パスタ』にもなると言うものである。

 美味しいは幸せだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】
1月7日 生パスタの日

生めん類の製造業者の団体である全国製麺協同組合連合会が制定。素材の風味、味、コシなど、生パスタの魅力を多くの人に知ってもらうのが目的。日付は7と8で「生=な(7)ま・パ(8)スタ」と読む語呂合わせから毎月7日と8日に。また、同連合会では別に7月8日も「生パスタの日」に制定している。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



いいなと思ったら応援しよう!