0711_しょうもないことをする
何か、しょうもないことで世界をひっくり返してみたい。
そんなことをふと思った。
仕事の繁忙期が終わり、ほんの少しだけ、ぼんやりする時間が出来たのだった。こんな時、いつも大体後ろ向きなことを考えるのが私の常であるが、今日は少し違うようである。
何か、しょうもないことで世界をひっくり返してみたい、だなんて思ったのだから随分と心に余裕があるのだろうなと自分で思う。
例えばどんなことがあるだろうか。
例えば、全世界の1人ひとりが折り紙でツルを折る。それを繋げれば、多分世界は平和になるだろう(恐らく、全世界の1人ひとりがツルを折ってくれる世界であれば既に平和なのだろう)。
例えば、回覧制で全世界1人ひとりが1日にいちページの朗読を配信したならば、きっと世界は温かな眠りにつくことが出来るのではないか。
例えば、職業として「頭を優しく撫でる」仕事があるならば、きっとそれは全世界に広がり優しい人が増えるのだろう。
例えば、毎日誰かが誰かに一輪の花を贈るという決まりがあったとして、全世界は花に溢れた世界になる。
例えば、目の前人には必ず笑顔を向けること、という決まりがあったらば、誰かといることがきっと幸せだと思える世界が広がることだろう。
「お疲れ様」
私が無になったままでパソコンを眺めていると、同僚の山下さんが机に小さなチョコレートを置いた。
「今日もお疲れ様、また明日ね」
そう言って鞄を持って部署を出ていった。私は彼女の背中に向かってお疲れ様と伝える。まったく遅い。
例えば、毎日誰かにチョコレートを1つあげることが出来たら、きっと世界の疲労は軽減されるだろう。
私は小さな包を開き、それを口にする。カカオ何%だろう。苦くて甘い。甘くて苦い。チョコレートの入っていた真四角の包み紙で、私はツルを折る。
全世界をひっくり返す、は無理かもしれないなと真面目に思う。でも、きっと全世界のうちの何人かは何かはできる。
綺麗に折れたツルを山下さんの机に置いた。
しょうもないけれど、今の私の気持ちは幸せだった。
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