0427_あの人の血赤珊瑚
小さな赤いビーズがいくつも連なっている。
ところどころにハートやリボンのビーズやモチーフが飾られているが、そのどれも赤い。赤く、艶やかで、光が当たるとキラキラと輝くのだった。近所にできた手芸屋さんのワークショップで、今、その粒を手にのせている。小さくて可愛いそれらは一粒ずつが意思を持っているように見えて、私は思い出していた。
あの人のメガネに、それはつけられていた。
はじめてあの人を見たとき、首に下げていたそれを見て、私はネックレスかなにかなにだろうと思っていた。けれど、次にあの人を見たときに、それはメガネを吊るすストラップであると知った。メガネをかけたあの人の後ろの首と耳元とを赤い小さなビーズ達がゆらんとつないでいたのだった。
あの人がなにか動く度、横顔でそれが揺れる。
陽に当たったのか、それともメガネのレンズに反射したのか、ビーズの赤色が頬に落ち、あの人はいつになく照れているような熟れた顔をしたことがあった。私には、それが、とても綺麗で妖艶で、それでいて妙にいやらしささえ感じるのだった。
「なぁに」
黒淵メガネのフレームを、人差し指と親指で挟み、目元に下げて私と視線を合わせたあの人は、小さく笑って言った。レンズ越しではなく、私に生の視線を合わせたあの人は、私をどう見ていたのだろうか。まだ夏にもなっていない春の終わりに、自分と二人きりでいる汗をかいた妙に落ち着きのない私を見て、どう思っていたろうか。
私は、合わせられる視線なぞ一つもないと思い、けれどおもいきり顔を背ける勇気もないので、ちらとあの人の首に落とす。
そのときも、ゆらん、ゆらんと赤いビーズが揺れていた。
陽の光は、首筋にも赤を写し、ゆらんゆらんした。私はそれをじっと見ているしかできず、ゆらんゆらんが近づいていることになかなか気づけないでいた。
「この中に一粒だけ血赤珊瑚のビーズが混ざっているのよ。どれだと思う」
あの人はそう言って、私の手を取り、広げさせると、そこにビーズの紐を乗せた。どこかしっとりとしたその紐は私の手のひらで熱く燃える。私はたまらず、真ん中にいるさざれのビーズに口付けた。あの人は、私の耳元で小さくささやく。
「正解」
ビーズを紡いで出来たストラップは赤く、可愛らしく出来た。けれどあの人の血赤珊瑚はここにないので、私はその糸をちぎってやる。それは運命の糸ではなかったのだろう、ポツポツとビーズが床に落ちて跳ね、踊っていた。
ああ、会いたい。
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