11月2日書道の日・習字の日
字は、その人の人となりを表すらしい。
ならば美しい字を書いて、美しい人になりたい。
人となりが先か字が先か分からないけれど。
それにはまず、美しい人の字がどのような字なのかを知らなくてはならない。さて誰を見本にするべきだろうかと頭を捻り、私は職場の先輩である工藤さんを思い出す。彼女に手紙を書くことにした。
彼女はとても美しく愛らしい。清潔感があり、いつでも洗い立ての洋服の香りがする。そんな彼女に、私は密かに憧れている。
『工藤 彩花さま
こんにちは。
いつも職場でお会いしているのに、急にお手紙を書いて驚かせてしまうことかと思います。この手紙をポストに投函するのは金曜のお昼休みの時間なので、きっと土曜日か日曜日に読まれていることでしょう。
お休みの日に、失礼いたします。
ふと、工藤さんへ手紙を書いてみたくなったのです。
私はいつも、工藤さんの丁寧な仕事ぶりや、私を含めた後輩への優しい指導、教育に際してとても感謝しています。また同時に憧れと尊敬の念を抱いているのです。
本当にいつもありがとうございます。
突然こんなことをお伝えして困惑されるかもしれませんが、どうしてもお伝えしたく、筆をとりました。
もし叶うならば、お返事をいただけると幸いです。』
手紙の最後に『三好 礼花』と自分の名前を書き、封をした。
工藤さんは読んでくれるだろうか。私の拙い字を見て眉を顰めたりするだろうか。それでもその中の、私の彼女に対する尊敬や憧れをちゃんと見いだしてくれるのではないか。
文字は書いて並べるだけがそれではない。手紙は書いて投函すれば終わりな訳ではないのだ。書いて並べた文字はその言葉や文に意味が出来るし、投函した手紙はその内容がどうであれ、書いた宛先の人物に届く。
そして逆も然りである。
金曜日に私からの投函し、日曜日である今日、彼女から返事が届いた。
『三好 礼花様
こんにちは、工藤です。
先日はお手紙をありがとうございました。
ご想像の通り驚きましたが、それ以上にとても嬉しく思いました。
感謝、憧れ、尊敬と、私の期待をおおよそ大きく上回って想ってくださっていることに恐悦至極にございます。
三好さんが私を想ってくれているそれと同等、もしくは上回るほどに、私はあなたを頼りにしています。
今後の活躍を大いに期待しています。
一緒に頑張りましょうね。
また、手紙を書きます。
それではまた職場で。
工藤 彩花』
毛筆の美しい手紙であった。
達筆がどのようなものなのか私には分からないため、彼女のそれが達筆であると断言できるわけではない。けれどその私でもすぐに分かることは、これは驚くほどに美しい手紙であるということ。美しい人が、美しく筆で書いた手紙だ。
それに加えて、その筆が紡ぐ私への言葉の数々に、私はやはり歓喜した。他には得難い美しいお手本をいただいたのだ。
こういう字を書く、こういう人に私はなりたい。
見ると、手紙の最後に一文が書かれていた。
『美しい字のお手紙、ありがとうございました』
私は彼女を思ってその手紙を書いた。
美しい人を思って書いた字は、もしかしたらそれだけで美しい字になるのかもしれない。
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【今日の記念日】
11月2日 書道の日・習字の日
「正しい美しい愛の習字」を基本理念として、習字文化の向上と、習字教育、書道教育の普及と振興などを目的に活動を行っている公益財団法人日本習字教育財団が制定。多くの人に文字を書くことに親しみを持ってもらい、手書きで文字を書くことの大切さを伝えていきたいとの願いが込められている。日付は11と02を「いい文字」と読む語呂合わせから。2013年3月までは9月1日を記念日としていた。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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