4月28日 四つ葉の日
幼稚園の頃だったか、私は絵本で四つ葉のクローバーの存在を知った。得意げになって母にそれを伝えた記憶がある。
「お母さん、四つ葉のクローバーって知っている?これがあると幸せになれるんだって」
「そうなんだ!じゃあ探しに行こう」
そう言うと、畳んでいる途中の洗濯物を放って公園に出かけてくれるような母だった。
けれど四つ葉のクローバーはなかなか見つからない。
公園の中のシロツメクサの付近を探して見るも三つ葉しかないのだ。
「なかなか見つからないね。また今度探しにこよう」
母がそう言い、私は悔しいながらもうなずいてその日は帰宅した。時刻はすでに18時に近い。母は洗濯物も夕飯の準備も終えていないのだった。自分も子供を持つようになって分かったけれど、この時間帯、一分でも貴重なのである。朝時間のそれと同様、やることが山積みなのに、時間は限られているのだ。母の大変さはこのときは全くわからなかった。
父は、この日の帰宅が随分遅かった。次の日も、その次の日も。いつもは19時過ぎには帰宅するのに、20時を過ぎて帰ってくることが続いた。仕事が遅くなっているのだろうとそこまで不思議に思わなかったのだが、それが4日ほど続いた日の夜。
「玲子!四つ葉のクローバー見つけたよー!!」
玄関の扉があいたかと思うと、同時に父の声が聞こえた。私は何だ何だと玄関に向かうと、土で汚れた指の先にはちんまりとした四つ葉のクローバーがあるのだった。
「お父さん!探してくれたの?」
「そうだよ、やっと見つけたんだ」
そう言って四つ葉のクローバーを私にくれたのだ。
母と探しに行ったあの日の夜、父にもそれを話し、彼は翌日から仕事帰りに探してくれていたらしい。
私の、初めての四つ葉のクローバーは確かに幸せだった。
「ママ!これは?」
娘に呼ばれ、私は駆け寄った。小さな手で示されたのは植え込みの中のクローバーである。
「うーん、残念、三つ葉だねぇ」
「そっかぁ」
娘はしょんぼりとしてそのまま私の手を握った。
「全然見つからないねぇ」
「そうねぇ、見つかるとラッキーなものだからそんなにすぐには見つからないかな。また明日探そう」
私はそう言うと、彼女の手を優しく握り返す。
夕飯の準備をして、お風呂に入って明日の保育園の準備をしなくてはならない。どうしたって時間が足らないのだ。
洗い物をしながら考える。
私は娘にクローバーを探してあげていない。家事の手を止め、食事の支度を止めて、彼女の欲しがる幸せを与えていないのではないか。でも、私は私なりに頑張って彼女に幸せを。
「ママ!」
呼ばれて顔をあげると隣に娘がいた。その手に紙を持っている。
「四つ葉のクローバー見つけたよ」
そこにはクレヨンで描かれた可愛らしい四つ葉のクローバーがあった。ピンクと緑と黄色と青。全部の葉の色が違い、とても鮮やかである。
彼女は、描いたよとは言わず、見つけたよと言った。私は無性に愛しくなり、その手を止めて彼女を抱きしめた。
「ほんとだね、幸せのクローバー見付けた」
ぎゅっと抱きしめると、それは確かに幸せだった。
愛も希望も幸福も健康もその全て、私の中にちゃんとある。
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【今日の記念日】
4月28日 四つ葉の日
大阪府大阪市に本社を置き、「幸せあふれる未来を創る」を企業理念に掲げ、電力コスト削減に取り組む四つ葉電力株式会社が制定。愛、希望、幸福、健康の意味を持つとされる四つ葉のクローバー。多くの人に日々の生活の中でこの四つ葉のクローバーのような幸せを見つけてもらうのが目的。日付は4と28で「四(4)つ(2)葉(8)」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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