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0609_アメシスト
久々にお気に入りのネックレスを手に取った。
お気に入りのくせに久々と言うのは、普段それを着ける機会がないからである。今日はそれこそ久々に1人きりの休日で、ちょっと宛もなく電車に乗ろうと思いたったのだ。
やらなくてはならないことは山のようにあるのに、どうにも今だと言う気がしてならない。きっとそうするのが良いのだろうなと、私は思い切り、夫と子供を見送ってから私はゆっくりと着替え始めた。
それは丸いアメシストの石がトップにある好きなブランドのネックレス。が、久々に手にとって驚いた。濃淡はあれ本来紫色がベースであるアメシストだが、私のそれは透明に白いモヤの混ざった色をしている。色、とも言えない、そんな色をしている。
私の心のなかに、急に艶のない黒い何かズンととてつもない悲しみのようなものが落ちてきた。落ちてきたそれに当たったような痛みも胸にある。私はネックレスを手のひらに乗せたまま数分、体が固まってしまった。私の預かり知らない脳内のどこかで何かの処理が終了したのか、ハッと我に返り、スマホで検索する。アメシスト 色がなくなる。
『アメシストは紫外線によって石の中の成分に変化が起きて色が退色することがあります。そして、その色が戻ることはありません』
その下に、保険のようにして『※諸説あります』ともあった。どこのどの部分に諸説あるのかわからないけれど、色が戻らなそうだということは多分そうなのだろうと思った。
私のアメシストは、色が戻らないのか。
そう分かると、悲しくなった。悲しくなったのは、色がなくなったという事実もそうだが、紫外線が当たらない暗い場所に置いていたのにそうなったというところも多分にある。紫外線の有無など関係なく、退色することが定めだったのではないかとさえ思う。
そして、私はそのネックレスを首に着けた。久々に、着けたそれは首に少し重い。アメシストを人差し指と親指で摘み、部屋の明かりに照らしてみる。
やっぱり曇った白と透明である。
私の知るアメシストでは無さそう。
鏡を見る。
もう40歳になる私の顔が映る。胸元に曇った白があるけれど、私のアイシャドウは薄めのパープルにした。なんとなく、ネックレスと私の表情とでアメシストになるのではないかと思って、自然と口角が上がった。
宛もなく外へ出る。
空は私のアメシストのような曇り空であり、けれど私はどこか軽やかである。
宛もなく出かけて、その先で何色かに見えるかもしれない。
私はそう思ってちょっとスキップした。
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★著者:あにぃ