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2月7日生パスタの日

 お気に入りの店で生パスタを食べたのは1ヶ月ほど前だった。やっぱりおいしいねと主人がとても良く笑ったので、もっと頻繁に食べてその顔を見せて欲しいなぁとただただ純粋に思ったのだった。

「と、言うことで作ることにしました」

 私がエプロン紐をきゅっと背中で締めたのは日曜日の昼前だった。

「え、生パスタから作るってこと?」

 驚く彼に私は胸を張って答える。

「意外と簡単!」

 言ったあとで、「らしいよ」と付け加えておく。
 らしい、と言うのは昨日インターネットで検索してヒットしたレシピに書いてあったからだ。私は自慢じゃないが料理は得意ではない。作れる料理のレパートリーは少ないし、それだって大体はレシピを見ながらでないと作れない。でも、探したレシピはそれでも簡単そうなのだ。

「いいから、あなたはテレビでも見ていて」

 どこか心配そうな顔をした彼をよそに私は作り始める。強力粉と薄力粉、卵と塩、砂糖、ぬるま湯に打ち粉用の強力粉を少し。混ぜて、こねて、冷蔵庫で1時間ほど寝かせる。寝かせるまでで僅か15分ほどだった。

「へぇ、本当だ。意外と簡単に作れるんだね」

 いつの間にかのぞき込んでいる彼が感心したように言う。

「ふふん、いいレシピ見つけたのよ」

 私がそう言うと、彼はまたソファに戻って行った。

「食べてみないと分からないなぁ」

 にやりと笑いながら挑発された。しかも、私ときたらレシピに頼り切っていることを自慢げに言ってしまった。

 絶対おいしいパスタを作ってやる!どこからか出てきた闘志を燃やしながら寝かせた生地を伸ばし、畳む。また伸ばして畳むを繰り返す。きっとこの行程がコシを作るのだと思いながら力を込めて繰り返す。

 幾度か繰り返し、伸ばし終えた後に今度は切る作業に移る。せっかくだから家ではなかなか食べないフィットチーネのような太い麺にしよう。我ながら見た目はなかなか良い出来だ。切り終えて打ち粉をして乾燥させる。

「見て、このテレビ面白いよ」

「なになにー?」

 思わずうきうきと彼の元へ向かう。

 20分ほどテレビを楽しみ・・・・・・もとい、乾燥を終えて彼に見せる。

「おお、本格的な感じだね」

「ね、絶対おいしいよね、このパスタ」

 パスタ、と言った瞬間にあることに気づいた。私の表情を見て彼はどうしたのかと聞く。

「パスタ、パスタソース忘れてた」

 生パスタを作るのに夢中ですっかり忘れていた。パスタは手作りするからソースは市販でいいでしょと思いつつ、その市販を買うことも忘れていたのだ。私が眉根を寄せて言うと、彼は声を上げて笑った。

「いいね、君のそう言うところが大好きだよ」

「なにそれー」

 私が怒ってみせると、彼はキッチンの中に入って腕をまくった。

「よし、僕がなんちゃってナポリタンを作ろう」

 冷蔵庫を開けて何かを確認して頷く。

 私はどこかがっかりだった。これでは私がギャフンと言う方だ。がくりと肩を落としていると、彼はねえ、と私に声を掛けた。

「なんか楽しいね」

 そう言って笑うので生パスタって楽しいのかと錯覚してしまった。

 なんちゃって生パスタナポリタン、美味しく楽しくいただきました。

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【今日の記念日】
2月7日 生パスタの日

生めん類の製造業者の団体である全国製麺協同組合連合会が制定。素材の風味、味、コシなど、生パスタの魅力を多くの人に知ってもらうのが目的。日付は7と8で「生=な(7)ま・パ(8)スタ」と読む語呂合わせから毎月7日と8日に。また、同連合会では別に7月8日も「生パスタの日」に制定している。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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