0628_ずっと一緒に
雨が降っていた。
傘はさしたつもりだが、頭も肩も濡れそぼっていてまるでさしていないようだ。
さしていないのだった。
「傘をさせばいいのに」
古村くんがそう言って、私を彼の傘に入れてくれた。それでも雫が滴るので頭に触れると、指先にはサラサラとした血がつき、指の腹にはドロリとした血の塊のようなものがついていた。
「これ」
私にはこれが何か分からず、古村くんを見上げると、私の目には傘しか映らない。
「ひっかかってやんの」
古村くんの声だけが聞こえ、私は頭を抑えながらもきょろきょろと見回す。視界が、遠いのだ。
「ほら、僕はこっちだよ」
古村くんが言う。彼の袖だろう布を指でひっぱり、彼の顔だろう方を見上げる。けれど、そのどれも『そこにあってない』のだ。
「古村くん、どこにいるの」
「僕はこっちだってば」
古村くんの声が響き、頭が痛い。頭をおさえ、右手で彼を追い、視界を彷徨わせる。けれどやっぱり彼が、遠い。
「ねぇ、頭が痛いのよ」
「それはそうだろうねぇ」
「お願いよ、助けて。どこにいるの」
「だから、ここにいるってば」
ようやく、彼が私に触れた。
頭痛が腹痛に変わり、頭の血は何故か足を伝って地面に落ちた。落ちたそこに、影があり、ようやくそれが古村くんだと理解する。
「ずっと、いっしょだから、大丈夫だよ」
声の聞こえた方に手を伸ばすと温かい彼に触れた。両手でぎゅっと抱きしめると、じんわりと全身が痺れ、熱くなる。これこそ愛なんだなぁと思って、私は目を閉じる。
ずっと一緒に、目を閉じていて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18時からの純文学
★毎日18時に1000文字程度(2分程度で読了)の掌編純文学(もどき)をアップします。
★著者:あにぃ