2月17日千切り大根の日
「痛いーっ!!」
急に叫ぶような声が聞こえ、私はあわててその声の場所に向かう。洗面所を出ると、台所でその声の主が泣いている。2歳娘、瑠衣である。
「どうしたの!?」
まず彼女を抱きしめ、目だけを動かして状況を確認する。台所を離れる際に刃物や下ろし金など危険と思われる物はしまっておいた。大丈夫、それらは出ていない。
「ママ痛いよぅ」
「どこが痛いの」
痛い痛いと泣くばかりでどこが、とか何がと答えてはくれない。すんすん、と泣く娘は指をくわえていた。
指、中指だ。
「指痛いの?」
私が聞くと彼女は小さく頷いてくれた。その小さな口から、小さな指を抜き唾液で濡れた指先を見せる。赤く滲んでいた。
「指、ぶつけたの?挟んじゃったの?」
「ガブしちゃったのよ」
その時を思い出したのか、またも涙を溢れさせた。
指を噛んでしまったのか。もう一度彼女の周りを見るとそれがこぼれていることに気づいた。
千切り大根の煮物だ。
彼女の好物であり、今日も今日とてリクエストによりさっき作って冷ましているのだった。それが、皿からはみ出てこぼれている。
「瑠衣、これ食べたの?」
私が聞くと、またも小さく頷いた。
千切り大根を食べて、指を噛んだ?
私が状況を頭で整理していると、彼女がぽつりとつぶやいた。
「大根さんと間違えて指噛んじゃったのよ」
「ええ!」
思わず声に出た。大根を指で摘んでついでにその指も噛んじゃったってこと?
「大根さん、食べたかったのよ」
「そっか、そっか。瑠衣、大好きだもんね」
うんうん、と同調するように頷きながら、彼女を抱き抱えた。指先を水で洗い、タオルで拭く。押し入れから救急セットを取り出すと、消毒し、小さな絆創膏を小さな指に貼る。彼女はどこか嬉しそうに笑った。
「一口食べますか?」
私は台所に戻り箸で千切り大根を少しとる。
今度は元気にうん!と頷く彼女の口に運んでやる。
「玲ー!あなたも一口味見する?」
リビングでテレビを見ている長男に聞くが、首を横に振って、ついでに1言言い放った。
「煮物嫌だ!」
もぉ!と分かりやすく言ってみる。そうなのだ、彼は煮物が苦手。
既に千切り大根を一口箸でとっていたので、その行き場が無くなり仕方なしに私の口へとお招きした。
あぁ、やっぱりいつ食べても懐かしい。実家のある広島には随分と帰れていないのだ。昔よく母が作ってくれた千切り大根。今住んでいる関東では切り干し大根と言うから驚いたけど、同じものだった。
そうか、と少しひらめいた。
長男は煮物が嫌い。長女の瑠衣はこの煮物が好き。私は千切り大根を小鉢に取り、カニカマを加えてマヨネーズで和えてみた。アクセントには柚子胡椒。
「さぁ、食べよう」
メインディッシュも完成し、私は食卓に運んだ。瑠衣はすっかり笑っており、指はひとまず大丈夫そう。玲は煮物嫌だなぁと顔に出ていたので、彼の前にだけ小鉢を出してみた。
「サラダです」
またも、えー、と言う顔をしたが、いただきますも言わずにそれを口に入れた。
少し驚くように笑い、もう一口。
千切り大根は何にでもなるのだとどこか嬉しくなった。
長女も長男も、つまみ食いして指を噛んでしまわないよう、注意してまた作ろう。
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【今日の記念日】
2月17日 千切り大根の日
広島県福山市に総本部を置く、乾燥野菜食品メーカーの「こだま食品株式会社」が制定。同社は千切り大根の普及に努めており、日本の伝統食である千切り大根の良さを広く知ってもらうのが目的。日付は千切り大根の生産が2月に最盛期を迎えることと、「千」の字を「二」と「1」に見立て、「切」の字の「七」とを合わせて2月17日としたもの。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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