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0202_Podcast外交
「いやー、これ、でも結構リアルな話ですよ」
「そうなんだよ、新しいよね」
私の目の前で今、Podcastの配信が行われている。
みたいだな、と。
カメラもレコーダーも何もないし、そもそもカフェの一角でおじさまおばさまから若いカップルまで様々いるこの空間でそんな音源録らんやろ。でも、ほんとにPodcastみたいだ。一人席に二人並んだ彼らは少しずつ内側に向いて話している。その、向かいに座っている私。自然とどうしたって聞き耳が立ってしまう。左の男性はクリスマスみたいなチェックのネルシャツを着ていて短髪のがっしりとした体躯。でもピアスが可愛い。よく見ると左耳だけプランと揺れるゴールドカラーなアリエルのシルエットピアス。アリエルと呼ぶことにする。ちょこちょこ笑って見せる顔も可愛らしい。敬語を使っているから右の男性よりも年下なのかもしれないな。
「だから俺も、いい曲にしようって思っているよ」
そう言った右の男性はすごく長い黒髪をお持ちで。黒いニット帽を被り、その上に黒いサングラスを載せている。彼はサングラスと呼ぼう。細い目が笑うと余計に細くなり、にぃと一本結びに微笑む口元と揃うとなんだか整っていて綺麗。
「いい曲にしよう」とか「あのバンドは」とか「ダンスを分かりやすく」とか、話の端々に出てくるので、音楽に絡んだアーティストの方だろうか。なんだかとても楽しそうである。私は聞き耳を立てながら目を閉じる。手にはLサイズのカフェラテ。
アリエル「この間のコンテストで彼らを見たんですよ。前にも見たことがあるんだけど、もうね、すごい元気なやつらで、僕もすごく楽しくなっちゃった」
サングラス「あの曲で、あのダンスをワンムーヴで出せるのは本当にすごかった。多分あれは自分達もやってて楽しかったと思うわ。気持ちわかる」
アリエル「そうっすよね、あのグルーヴができるのは本当にすごいことだと思う。コータもあのビートでやりたかったって昔から言ってて」
サングラス「そうそう、そう言えばその音源、俺あるよ。ちょっと待って、聞かせるよ」
どうやら共通の知人の話をしているようだが、メインは音楽らしい。サングラスが自分のスマホを手にし、アリエルに画面を向けて動画らしきものを見せているようだ。
サングラス「ここから曲調変わるんだよ。行くよ、聞いてて」
そう、サングラスの彼が言った瞬間、私も聞き耳を余計に立てた。
「あんたぁのぉぉぉ♪そぉの情熱がぁぁぁ♪♪」
聞こえてきたのはビートではなく拳のきいた演歌だった。
彼らのとなりのご年配方のスマホからのようだ。お二人のご年配方は「あらあらどうしましょ。音が・・・・・・」と困り顔を見せた。するとすぐにとなりのサングラスが手を伸ばす。
「ちょっと失礼しますね。ここを押すと音楽の音量下がりますよ」
そう言ってカチカチと何度か押したあと、新しいおてふきを開けて自分の触れた部分を拭きスマホを返した。ご年配の方はどうもありがとうと言って握手を求めた。サングラスは一瞬驚いたようだが、少し照れたように笑ってそれを受け入れた。
なんだかまるで外交の握手だ。
アリエルも微笑み、ご年配のお二人も優しく笑う。
二か国外交の瞬間だろうか。
ああ、良い昼休みだったなぁ。
冷たくなったカフェオレを飲み干し、私は席を立つ。
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