虫の恩返し
吾輩は虫が苦手である。
特に、羽がついているやつらたち。どんな動きをしてくるか全く読めないから。
私たち人間の方が身体的には圧倒的に大きいから、彼らのことを怖がるのはナンセンスなんだろうし、なんなら巨体(人間)を前にした彼らの方が恐怖を感じるだろうと同情すらしたくなるけれど、あちらは「飛行」というスキル(しかもそれは、人間が持ち合わせていない所業)を持っているから、どこから飛びかかってくるか分からない。そういうところに「怖さ」を感じてしまうんだろうな、とある時ふと思った。
人間を含めて、生き物って自分とは全く異なる性質を持つものに対しては
警戒してしまうんだろう。
.
今朝、玄関のドアを開くと目の前に何かが転がっていた。
カナブンみたいな見た目で、でもそれにしては体格のいいやつ、ペットボトルのキャップくらいの大きさだった。
彼は(勝手に男にしてるけど、もしかしたら女の子だったかもしれない)、どういうわけかひっくり返って足をばたつかせていた。文字通り、ジタバタジタバタ。何をどうしたらそんなふうにひっくり返るんだろう。
先述したように、私は虫が苦手である。できることなら関わりたくはない。
でも私にも慈悲の心はあるみたいで、なんだか助けたい、という気持ちが湧いてきた。
素手で触るのは無理だな…と考えた挙句私は、右手に持っていた折りたたみ日傘を召喚する行動に躍り出た。
傘の中棒をめいっぱい伸ばし、ハンドルの部分で彼を起こすようにやさしくやさしくつついてみた。
と同時に、ブーンブーンッ、って今にも飛びかかってきそうな音を発して怖気付いたものの、そりゃあ虫もいきなり変な棒で突かれたら怖がるか、と思った。
格闘すること30秒ほど。ようやく彼が正しい姿勢に戻ることができた。
よかったね〜、とほんわかした気持ちになり…
なんてこともなく私はいそいそとその場を離れた。
だって、急に飛んでこられたら今度はこっちがジタバタすることになりそうだったから。
.
そんなわけで、私は世界平和(虫が平和に生きるのも世界平和だ)に微力ながらも貢献した。
昔話に「鶴の恩返し」って話があるけれど、あのストーリーでは助けてくれたお爺さんに鶴が見事な織物でお返しをしていた。
「鶴」ならぬ、「虫」の恩返しとかあったりするのかな〜
なんか花とか持ってきてくれたりするんかな〜
そんなメルヘンなことを考えたりもしたけれど
虫さん、できれば恩返しは
「私の前にできる限り現れないこと」
でお願いいたします。