一人旅と物語。
2023年、一人旅に行った。
2023年、年の始めからなんとなく
「一人旅に挑戦してみたい」と思っていた。
理由は単純で「した事がないから。」
そして「してみたいとは思っていた。」のだ。
歳を重ねると、
一年いちねんが余りにも早く過ぎ去り
矢のように目の前を通っていく。
毎年11月頃に「この間まで3月だったのに?」
と言っている。
きちんと年月は過ぎているはずなのに、
何故か時間の経過を異様に早く感じる。
その理由が今まで分からなかったけれど
去年、それは
「大人の生活は刺激が少ないから」
という事が起因している事を知った。
子供は日々刺激が多く、
「初めて」の事ばかりだから
時間を長く感じるらしい。
あとは人生の長さから、
一年の長さを相対的に感じているのだと。
この事を知ってから
「初めて」の事を、
なるべく沢山行うようにしている。
例えばファミレスのメニュー。
私はいつも同じものを注文しがちだ。
ハライチのラジオで、
岩井さんが澤部さんにいつも言う。
「お前は食事を一回も損したくないんだろう?
俺はそういうのが、意地汚い感じがして嫌なんだ」
澤部さんも私と同じく、
「絶対に美味しい」と
分かっているものが食べたいらしい。
ハライチは二人とも大好きだが、
私は特に岩井さんが好きなので、
この事に少しショックを受けた。
「岩井さんに意地汚いと思われてしまう」
そう思ってから、
外食の際「食べた事がないもの」
を注文するようにしている。
始めた理由はハライチきっかけであるが
これも、繰り返せば
「時間が早く感じる」という体感が
マシになったりするのかもしれない。
こんな事を気にして、
この数年を過ごしているので
「やった事がないもの、やるかあ」と思い
一つ一つ試したりしている。
そしてついに「一人旅」に辿り着いた。
一人旅は「やった事ないなあ」と思いながら
ずっと後回しにしていた。
「やってみたい、、、でもなあ」と。
興味より躊躇いが勝っていた。
何故なら
「絶対に人と行った方が楽しくないか?」
と思っているからだ。
学生時代にこんな授業があった
「旅のプランを作りましょう」
今聞いても少しワクワクするこの課題は
私の好きな先生の授業で出されたものだ。
そこでも、私は「友達と行くプラン」
を真っ先に思いついた。
今思うと、
一人旅に興味を持ったのは、
この課題が起因しているように思う。
その先生は言っていた
「旅には目的があります。」
「目的に合わせた楽しみ方が必要です。」
なるほど、と思ったのを覚えている。
そしてこんな課題が出された。
「どんな人が、どんな所に、
何をしに行くのか。
それを考えてみてください。
そして、
それを物語にして持ってきてください。」
聞いた時少し教室がザワついた。
も、物語、、、、?
先生曰く、
ちゃんと「旅に行く人物」を考え
その人がどんな人で、どこに行くのか
何故そこに行くのか、
そこに行って何をするのか
それを全て物語にしてほしいとのことだった。
授業が終わってからも、生徒はそれぞれ
ザワザワしていたが、
私は「大変だけど、楽しそうだな」と思い
そのままあっという間に、
1週間が経ってしまった。
授業の日の前日。
私は大変慌てていた。
全てを後回しにする性格が、
ここでもしっかり発揮された。
大学生なんてこんなものだと思うが
前日になってから課題を開始した。
私は当時スナックでアルバイトをしていて
大学の近くにスナックは沢山あった。
そして平日は街自体、
そこまで賑わう事はなく
いつも早く店を閉めていた。
その日、思った通り
夜中の1〜2時には店が閉まったので
しめしめ、と私はファミレスへ行った。
さあ、書こうではないか。
、、、、、、物語を?
ペンとノートを出して、
飲み物を飲みながら考えるが
1文字も出てこない。
も、、、
物語ってどうやって書くんだ、、、、?
学生の頃は本を沢山読んでいた。
娯楽が少なかったせいもあり、
漫画か本を読むことしか家でしていなかった。
週に2〜3冊図書室で借りては
全て読んで次の週にまた借りた。
そんな小中学生時代を過ごした私は
大学生になってからも
「今はそんなに読んでいないけれど、
周りとは読んできた数が違う」と
若干自惚れた自負をしていた。
なのに、全く書き出せない。
最初って、何を書くんだ?
目線は?「私は」から書き始める?
なんかそれっておかしいんじゃないのか?
「彼女は」とか?
いやそれ誰目線?
ずっとストーリーテラーがいるのか?
じゃあ本人の心理なら誰がどう表現する?
「わからない」事が大の苦手な私は
iPhoneで調査を始めた。
インターネットで
「物語、書き方」
「物語、書き始め」と調べると
私と同じような疑問を持った人が
沢山現れた。
皆同じような事を聞いている。
もしかして全員同じ授業の生徒なのか?
今頃皆、私みたいに悩んでいるのだろうか。
私はその授業を一人で受けていたため、
友達に相談も悩みの共有も出来ない。
そして、インターネットからは
有益な情報を得る事が出来なかった。
「本によって違います」
「どんな書き出しでもあなたの自由です」
そんな回答ばかりだ。
困ってしまった。
私はぐぬぬと、
ペンで紙に意味のない文字を
ひたすら書いていた。
そしてふと気が付いた
夜中に、ファミレスで
紅茶を飲みながら本の書き出しが浮かばず
頭を掻きむしって悩んでいる。
なんてことだ、1文字も書けていないのに
この様だけはまるで立派な物書きではないか。
飲んでいるものが紅茶でなくコーヒーなら
もっと様になるかもしれない。
誰にも伝わらないこのユニークな状況に
クスクスと笑ってからは
また悩みに向き合う事にした。
とりあえず設定を決めた。
登場人物は女の子。
行き場所は岩手の花巻だ。
何故そこにしたのか、理由は簡単である。
私が人生で1番行っている旅先だからだ。
花巻は母の地元である。
私は幼い頃から毎年訪れているので
あらゆる観光地に行き尽くしているのだ。
なので迷わず花巻を選んだ。
単純に花巻の魅力も伝えたいし。
旅のプランを作るなら、
やっぱり知っている所の方がやりやすい。
目的は何にするか、
花巻ならやはり、宮沢賢治だろう。
私は花巻出身の母の影響で
宮沢賢治を小さい頃から読み、好んでいた。
「宮沢賢治はすごいんだから」
と言われて育った。
花巻で、宮沢賢治の縁の地をメインの
観光が良いだろう。
では登場人物は誰と行くのか?
友達とにしよう。
お互い宮沢賢治が好きという事に。
では、旅先で何をする?
観光地巡り、、、あとは友達との会話?
お互い宮沢賢治が好き同士で
より仲を深める、とか?
なんとなくそんな設定にした。
でも全然書き出せない。
そして気付けば時間は3時半になっていた。
大変だ。もう朝になる。
まもなく夜が終わろうとしている。
私の中での「夜」はAM3:30までで
朝はAM4:00なのだ。
そんな時に思いついた。
「たぶん、
自分に少し似せた方が書きやすいな」
全く知らない人物を想像するより、
自分に似せた人物にしたほうが、
明日、いや正しくは今日提出する課題に
間に合う早さで書けると踏んだ。
そこからは早かった。
主人公の名前は、確か夏帆にした。
季節は夏で、
大学1年生の夏休みという設定だ。
その子が一人で新花巻駅に到着するところから
物語を描き始めた。
まずは新幹線で着いて、
新花巻駅の様子を書く。
新花巻は、
着いた瞬間から宮沢賢治で溢れているから
それを知っている私は書きやすい。
そしてそれは
観光スポットとしても描写に適している。
新花巻駅を見てからは、
夏帆はレンタカー屋に行き車を借りる。
そのレンタカー屋を
少し不思議な雰囲気の描写にした。
物語に、引き込まれる要素を作るには
主人公が不思議な空間に入り込む事が
効果的ではないかと考えた。
レンタカー屋の主人が妙な格好をしており
訝しがりながらも
夏帆はそこでレンタカーを借り
まずは宮沢賢治の童話村へ行く。
童話村は私と姉の大好きな場所で
大人になった今も
毎年岩手に行くたび行く場所だ。
ここも良い観光スポットだ。
そして、夏帆はそこで河童に出会う。
自分にしか見えない河童が現れるのだ。
河童の名はリゲル。
遠野には本当に河童がいるの?と驚きながら
「案内してやるよ」とリゲルに言われるまま、
夏帆は岩手での観光をリゲルと共に行う。
夏帆とリゲルは色んなところへ行った。
浄土ヶ浜、龍泉洞。
小岩井農場、平泉。
もちろん宮沢賢治の観光名所も。
夏帆もリゲルに心を開き
二人はいつしか
本当の友達のようになっていた。
最後の夜、
星空を見に連れてきてくれたリゲルに
夏帆は今までしなかった自分の話を始める。
本当はこの旅には、
元々友達と来る予定だった事。
その友達とは大学で出会い、
お互い本が好きで、
その子は宮沢賢治が好きだった事。
運命の人のように
あっという間に仲良くなった事。
その友達が、大学の1学期の途中から
突然学校に来なくなったこと。
何度何度連絡をしても何も返ってこない事。
そしてその理由も分からない事。
夏帆はそれ以降友達を作っていなかった。
何も分からないまま、
一人で岩手に来たとリゲルに話す。
リゲルが
「本当は、岩手に来て何がしたかったのか」
と聞くと
「その子と話がしたかった」
「今までの自分達のことを話して
もっとよくお互いを知りたかった」
「だけど二人で来られないから、
彼女の好きな、宮沢賢治の事を知りたかった」
「そして彼女の見る世界を、
少しでも理解したいと思った」
星空の下で夏帆はリゲルにそう話した。
すると、リゲルが夏帆に話し出す。
「友達に会いに行け」と。
「時間が少しかかってもいい。
でも必ず、会いに行け。」と。
リゲルにも昔、大の親友がいたと言う。
よく川で石を拾って、星空を見上げ
二人で沢山の時間を過ごしたと。
かけがえのない友達だったから、
今でも会う事が出来るのなら、
また一度でも会えるなら、
すぐに会いに行くと。
リゲルはその友達の名前は
「宮沢賢治」と言った。
夏帆はずっとリゲルの言葉を聴いていた。
そしてリゲルは
「もうお別れだ」と夏帆に告げる。
別れが来るのは分かっていたけれど、
夏帆は泣き出してしまう。
もう、東京に帰っても一人だと。
友達に会うのも、
新しく学校で仲間を作る勇気もないと。
リゲルは涙を流す夏帆にこう言う
「寂しくなったら、あの星を見ろ」
一番光ってる星をリゲルが指差した。
「肉眼で見える、一番明るい星だ。」
「賢治が俺に、同じ名前を付けたんだよ」
「なんだか分かるか?」
その星の名前は「リゲル」だった。
リゲルは、姿を消してしまった。
夏帆は次の日東京に帰った。
リゲルとの思い出と、
宮沢賢治の生まれ故郷の景色を胸に。
うろ覚えだけれど、
ストーリーはあらかたこんな感じ。
これを朝の6時くらいまで
ノンストップで書き上げた。
これは大学1年生の頃の
自分の実話が少し混じっていた。
(私はその5年後に、
連絡の途絶えた友達とは再開し
仲間を作ることにも怯えていましたが
大学4年間で沢山の仲間に出会い、
沢山支えられました。)
この物語を、iPhoneに打ち込みながら書いて
朝メールで送って、大学で即印刷して
課題を提出する授業に
間に合わす事が出来た。
現代文明に感動した。
そして、迎えた授業。
そわそわしながら
印刷したA4用紙を抱えて行った。
授業の子達は、みんな余裕の表情だった。
みんな物語描いたんだ、、、?
私だけがギリギリだったのか、と反省した。
そして課題を
端から発表するように先生が言った。
その順で行くと私は最後のようだった。
一人、二人と発表していく。
、、、、、、、ん?
「主人公は〜、○○な子です」
「そして、〜〜に行きます」
「で、その後は〜に行って〜」
、、、せ、説明、、、?
なんか、旅のプランを説明している、、、?
う、、そ、、、、、
なんと。
私はどうやら課題を間違えたらしい。
旅のプランを、、、
考えるやつだったんだ、、、、?
物語じゃなくて、
設定、、、、?
どんどん人が発表していき、
私の番が迫り来る。
咄嗟にプランを考えた。
物語に登場する観光スポットは
いくつかあるけれど
地名の羅列のようになってしまう。
細かい説明なんて出来やしない。
夏帆とリゲルの会話しか考えていなかった。
わたしは、、、、
も、物語を、、、、、、書いた、、、、
めちゃくちゃ、、、めちゃくちゃ物語、、、、
何をどこで間違えたのか混乱し
他の人の発表が耳に入って来なかった。
絶望していたら
あっという間に私の番になってしまった。
仕方ない。
観光スポットを羅列するしかない。
その前に言い訳をしておこう。
私
「すみません、、、」
先生
「?」
私
「私、あの、課題を勘違いしまして、、、」
先生
「何をですか?」
私
「あの、、、物語を、、、書きました、、、」
先生
「合ってますよ。」
私
「え?」
先生
「合ってます。」
先生がとても笑顔でこう答えた。
あ、、、、、っている、、、?
私
「いや、でも。」
先生
「ぜひ、読んでください。」
私
「え、、?!いや、、あの長いですので、、」
先生
「構いません。」
先生はさっきよりも笑顔になった。
もう断る理由はなかった。
正しい課題と言われ、発表の番だった。
私は、自分の書いた物語を朗読した。
読みながら時々早口になった。
小学校の頃に、教科書の朗読は全国でするから
その経験は私にもあった。
でもこれは訳が違った。
私が、私の書いた物語を
空想の塊を、長々と読み上げる。
少し早口になっても、
A4の用紙は20〜30枚は超えていた。
途中、早口での朗読に疲れ、
そして、
落ち着いて読む方が
恥ずかしさが軽減すると気付いた。
実際の物語は、
先ほど書いたあらすじに、
プラスして沢山のセリフがあった。
素人だった私は、描写から逃げるため
会話を多く取り入れて
ストーリーを進めていたのだ。
夏帆とリゲルの会話。
私は二役を読み上げる必要があった。
喧嘩のようなテンポの速い会話なんて
聞いてた人は、どっちがどっちのセリフか
理解できたのだろうか。
顔から火が出るような思いで読み上げた。
この授業に知り合いはいなかったが、
顔だけ知っているような人は何人もいた。
まあ、
なんと思われてもいいやと最後は開き直った。
読み上げて先生を見ると
笑顔で、大きな拍手をしてくれた。
私はこの先生が大好きだったので
それが心から嬉しかった。
ああ、課題頑張ってよかったと思った。
先生は、生徒の発表の間
他の誰の事も
「間違ってますよ」なんて
責めはしなかったけれど
本当に「物語」を、書いて欲しかったのだと
そこで知った。
生徒の書いた物語を、聞きたかったのだ。
笑顔で私の読んだ物語について
感想を話してくれた。
先生
「最後レンタカーに返すシーンは、もしかして
その人が宮沢賢治だったのか?って
期待しちゃいましたね〜」
私
「うわ、、、!そうなんです。
そうするかすごく悩みました!!」
先生
「はい、それも面白かったと思います。」
私の書いた出だしの引きつけるための描写も
細かく覚えて聴いてくれてたんだと、
嬉しかった。
朝方の苦労が報われた想いになり、
そして感想をもらえる楽しさを知った。
先生はその後こう続けた
「本当に、とても良いと思いました。」
「もう少し手を加えてみて
童話のコンテストに
応募してみるのはどうですか?」
先生は、
ファンタジー文学の研究者で
特にJ・R・R トールキンの研究をしている。
かの有名な「指輪物語」の作者だ。
ハリーポッターが大好きで
ファンタジーを読んで育った私からすると
先生の経歴は憧れそのものだった。
そんな人に、
コンテストを進めてもらえた。
私は本当に
「書いてよかった、、、、」と思い
この時の先生の笑顔が、
今でもずっと忘れられずにいる。
本を書く才能は、無いんじゃないかと思うし
「書きたい」と思う内容も、
浮かんだ事がない。
でも、先生にいつか
「私の書いた物です」と見せるために
エッセイでも、散文でも、日記でも
それこそ願うならば
宮沢賢治のような童話でも、絵本でも。
なんでもいいから、
人生で一つでもいいから、
先生に読んでもらえるような文章を
書きたいと思う。
そして話が相当ズレたのだが
私が一人旅に興味を持ったのは
この授業の課題がきっかけだ。
「人といかないとつまんない」
なんて思っていたけど
一人でしか出来ないこと、見れない物
一人でしか生まれない物語が
あるのではないかと思うようになった。
そんな私が、10年の時を経て
やっと一人旅に行った。
ここまで長い長い前置きになりましたが
そんな私の一人旅での物語を
今後文章にできたらと思います。
ぜひ、読んでくださいね。
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