素人童貞が私にくれたもの
12月某日
ふいにLINEを開き、
1か月近く
未読のままにしていたメッセージを空け
「ありがとう」と打ち、送信した
3月某日
素人童貞とファンミーティングをした。
前に何度か書いている会社の同僚だ。
彼は私の事を何故かとても好きで
そして3月に会社を辞めた。
その日彼は酷くはしゃぎ、
いつにも増して話が支離滅裂だった。
会話をストップしては「本の話がしたい」と言い
「ナイルパーチの女子会」という本が
面白いのだと言った。
その本は私含め誰も読んでいなかった。
周りが気を遣って
「どこが面白いのか」と聞いても、
「うーん、とにかく面白いんです」とだけ答える。
そしてそのような展開は
その後何度も繰り返された。
別の話で盛り上がっていても、
「本の話がしたい」と割り込み
「本最近読んでないよ、読みかけが5冊」
というと「何の本か」と聞く。
「エッセイが2冊と、」
と私がその5冊の内訳を言い終わる前に
「エッセイつまんない」と彼は言い放ち、
私はプツンときて押し黙った。
その様子を見て、
いつも彼が私に会いたがるがために
今回この会を開催してくれた女の子の後輩が
「人が好きって言ってるものに
そんな事言ったらだめですよ」
と優しく諭し、
素人童貞は何を注意されているのか
分からないという顔をしていた。
苛々する私に気を遣わせてしまうので
私は本気か冗談か
他人が判断がつかないようなテンションで
彼を罵倒した。
「ばかがよ!!!」
いつも彼に苛つきこう言う度に
周りは目を見張り、彼だけが喜ぶ。
その後も会話を無意味に止めたり、
煙草を吸いに行った際に
開けたドアを自分で閉めなかったり
猫を飼っていると言った私の前で
「〇〇さんは、猫でいけるんです!」
と最悪の嘘であり不快な下ネタを言ったり
彼が私を苛つかせる度に私は罵倒した。
何度目かで喜ばせる事が嫌になり罵倒もやめた。
なぜ罵倒されるのが嬉しいのかは謎だが、
別の飲み会で会った時も
私が彼の発言に「キモ!」と言い
「キーモーイ!キーモーイ!」と
キモイコールを繰り広げると
嬉しそうに笑っていた。
そして
「他の女性には『キモイかな』って
気にしてしまうけど
〇〇さん(私)にはそれが気にならない」
と言っていた。
堂々と罵倒しているからという事なんだろうか。
この日も何度も罵倒していたが、
彼の振る舞いがあまりに酷かった事もあり
「私が酷い事を言っている」
という空気には全くならず、なんなら
私の罵倒のおかげで彼の振る舞いに対する
辟易した空気が和らいでいる気さえした。
会社には他にも女性に奥手な男性は多い。
中でも問題児の男の子がいる。
人間性は悪くはないが、あまりにも不器用で
そして就業態度や勤怠に問題があり
上司たちからは呆れられている。
それでも「あの人、悪い人ではないんだよね」
と飲み会で話題に上がった。
彼は社内に憧れの女性社員がおり、
彼女に話しかけたりすることが
全社公認の「推し活」のようになっている。
色んな人に私に会いたいと言って回る
この素人童貞然り、
弊社はこういうところがどこかおかしい。
その問題児は、
4月の憧れの女性社員の誕生日に
何かプレゼントを贈りたいのだと
周囲に何をあげるべきか相談しているらしい。
それは30歳近くなった男性の行いとは思えず、
「かわいいなあ」「いい奴なんだよなあ」
とみんなで話していた。
そしてこのファンミーティングの翌週に
誕生日を控えていた私は素人童貞にこう煽った
「私は来週お誕生日だよ?
なんで何かあげようと思わないの?」
彼から何か
プレゼントされたいという訳ではなく、
彼はいつも「童貞を卒業したい」とか
「彼女が欲しい」と酔って話すくせに、
何も努力をしないので
私はいつもそれを説教していた。
「変わろうとしないんだから、
無理に決まってんじゃん。
30年以上彼女もいないし
女性とデートもしたことないのに
何でそのままの自分で
急に彼女が出来ると思うの?」
と、何度も話し、
時に飲み会終わりに他の女性社員と
化粧水なんかを買わせて
「まずはこれを塗れ」と言ったこともある。
それでも彼は続けもせず、
髪型も眼鏡も服装も
「変えろ」と言ったものを何も変えなかった。
それも含めていつも
「お前に彼女ができるわけがない」と
いつも言っていた。
その説教の一環かのように
「私に散々会いたいと言っておいて、
誕生日に何かしようなんて
考えもしないでしょ?
〇〇さん(問題児)の方が
よっぽどちゃんとしてるよ」と言うと
ふざけた顔で
「何が欲しいですか」と聞いてきた
急な質問に何も浮かばず、
唯一最近「欲しいな」と思っていた
シャネルの指輪を答えた
「ココクラッシュ」
すると彼は「わかりました」と言った。
私が「いえーい!」と、喜ぶ振りをすると
女の子の後輩が
「いくらだか分かってますか?!」
と慌てて素人童貞に聞いていた。
彼はきょとんとした顔で
「いくらですか?」と聞き
私は真顔で「50万」と答え、
素人童貞は
隣の後輩の男の子と顔を見合わせ黙った。
私は時々悪魔になってしまうので、
そのまま彼を煽る事にした
「あー買えないか?買えないかーーー
格好よくないし、ダサいし、
喋れないけどお金だけはあるかと思ったのに
買えないかーーーー????
ごめんごめん、自分で買うね???」
すると彼は口を尖らせ
「か、買えます!!!」と言った。
周りの後輩男子が止め、
私は「いえーい」とまた喜んだ。
「いつ買いにいきますか?」
と言うので「振り込んで」と言うと
「一緒に買いに行きたい」と言う。
「それは嫌だ」と断った。
本当に買ってもらうつもりなんて毛頭ない。
その日は私に「チャンスありますか?」
と聞いてくるなどして
私は即「ないよ」と答えてから
「なんの?」と聞いた。
すると口ごもって、
「と、、と、ともだち」と言うので
「え?友達?いいよ」と言うと
「や、やったー!」と後輩男子の方を見た。
後輩男子と後輩女子が
「よかったですね」と小さく拍手をし、その光景に笑ってしまった。
「友達になるなら条件があるよ」
「下心がないこと」と言うと
「な、ないですよ」と慌てたように言っていた。
そして結局みんな終電を逃し、
朝までカラオケにいた。
何度も私に近づいてこようとするのでその度に「こっちくんな」とキレた。
そして何度も
「またみんなで会えますか?」と聞いてきた。
会社を辞めたから
もう会えないと不安になっているらしい。
「別に呼ばれれば行くよ」と答えたのに
「無理ですよね」と言う。
何度もその会話が繰り返され
「行くっていってんじゃん、なんなの?」
と私はまたキレた。
朝方歩きながら
「流石にキレすぎたかもな」と思っていると
前を歩く素人童貞が「幸せだな~」と言った。
「こんなにキレられて罵倒されたのに
幸せなのかこいつ」と驚き
じゃあまあいいか。
本当にウザかったし、
と自分の反省を取り下げた。
帰りにタクシーに乗る私を
みんなが見送ってくれたが
素人童貞は私の事を一度も見なかった。
「そういうところだよ」
と思いながらタクシーに乗った。
4月某日
その時すでに私は
バキ童チャンネルにハマりだしていた。
そしてその頃は
ピーター博士とぐんぴぃの関係性や、
アカデミックな研究内容の動画を好んでいた。
IT業界で女性経験のない男性を
多く見ているからか、
前職の水商売で多くの男性を見ていたからか、
ピーター博士の童貞の研究に非常に興味があった。
ぐんぴぃ達がピーターに質問をするコーナーで
「ぐんぴぃが卒業するために必要な事は?」と聞き
私はなんて答えるのだろうと思っていた。
ぐんぴぃ達は「勇気」や「痩せる」
とボードに書いていたが、
ピーターの答えは「自分を大切にする」だった。
私は思わず、動画を止めた。
なぜならそれは、
私が素人童貞に再三伝えていた事と
同じだったからだ。
つい先日の
ファンミーティング後のカラオケでも
私はずっと素人童貞に言っていた。
「まずは自分を大切にするんだよ、
ちゃんとご飯を食べて、
ちゃんとした部屋に住むの」
「肌をケアしたり、歯を大切にするの」
「じゃないと人のことなんて大切にできないよ」
と、何度も何度も言っていた。
「聞いてんのかよ」と肩を殴ると
「わかりました」
「変わりたいとは思ってたんです」と彼は言った。
その時ぶりに、彼に連絡をした。
このバキ童チャンネルの動画を送ったのだ。
普段連絡なんて取らないが返事はすぐに来た
「なんですか」
「あ、この人知ってます。尊敬してます」
と返事が来た。
「私と同じことピーター博士が言ってるよ、見ろ」
と言うと
「身に染みすぎて見れない」
と言ってきた。
ピーターの言葉があまりに重いらしい。
それでも
「ほら、私と同じこと言ってるじゃん」
と私は続けた。
そこから何かの流れで
「自分はダメだ」と言い出したので
「そうだね、
私にシャネルの指輪も変えないもんね」
と冗談で言うと
「それ、本当に悩んでます」と言ってきた。
予想していない答えに私は驚いた。
どういう事なのか聞いてみると、
ファンミーティングで言っていた
シャネルの50万の指輪を
本当に私に買おうかと悩んでいたらしい。
今後会う予定さえもないのに?と慄いた。
少し驚き
「いや、いらないよありがとう。」とだけ言うと
「いやでも」と食い下がってくる。
「なんなの?私に指輪を買いたいの?」と聞くと
「自分の人生でこの先何もないなら、だったら今」 と言ってきた。
この先の人生で
女性に指輪を買う事なんてないから
という事だろうか
これ以上明白にしたら切なくなってしまう
と思い、聞くのをやめ少しふざけて返した。
「ありがとう。
じゃあもし今お前に何かあったら
私に50万の指輪を買うって遺言に残してよ」
と言うと
「そうじゃなくて」と言う。
なんでなのか分からず。
「なんなの?買って何になるの?」と言うと
「この先何もないなら、それなら」
としか言わない。
彼は素人童貞と呼ばれるくらいなので、
風俗が好きだ。
社会人なってから初めて行った時は、
ボーナスやら貯金を
酷く使い込むほどにハマったらしい。
弊社を辞める前も、
飲み会で酔っ払ってはよく風俗の話をしていた。
それでもどうやら、
指名もしたことがないらしい。
「気持ち悪がられるから」と。
風俗経験はないが水商売出身の私は、
驚きのあまり吹き出しそうになった。
「いやいやいやいや、
指名くらいでなんとも思わないから」
そう言っても
「いや、できないんです」と言っていた。
行為の最中は目さえ見られないらしい。
バキ童チャンネルにハマりだしていた私は、
素人童貞の中に
ぐんぴぃの要素を感じるようになっていた。
もちろん、
コミュニケーション能力は
ぐんぴぃの方がはるかに高く、
トークや面白さも
抜群にぐんぴぃが高く保有している。
ぐんぴぃには友達だっている。
でも素人童貞にはいない。
ぐんぴぃも
女性を食事に誘う事さえしないと言ってた。
好意があると思われたら嫌だからと。
そして
「大好きですと告白したら、
大嫌いですと言われた」
と過去の失恋の話をしていた。
そこから女性に接するのも
好きになるのも怖いと言ってた。
私はメッセージを少し止めて考えていた。
ここで私は
50万の指輪を受け取るべきなんだろうか?
「自分の稼いだお金で
指輪を買ったら喜んでくれた」
という彼の成功体験になるのか?
それで彼の今後や人生を生きる上で
少し自信がつくのだろうか。
「誕生日プレゼントをあげたい」
とさえ言えない彼に。
酔った勢いでないと
「誕生日来週ですよね、知ってますよ」
と私に言えない彼に。
「自分が何をしてもキモがられる」
と彼が思っているのは
これまでの会話の中で知っていた。
じゃあここで私が
頑なに彼からのプレゼントを拒否することは、
彼自体を拒否する事になるんだろうか。
今まで何も躊躇わず彼に接してきたのに
突然どうしたらいいのかわからなくなった。
水商売の時から
「お客さんからものを貰わない」
と決めていたのに、そして貫いたのに、
ここで曲げる事にも抵抗があった。
じゃあ金額を下げればいいのだろうか。
「1万円のこれ買ってよ」と
そこまで重荷でもないでもちゃんと
「プレゼント」と言える額のアクセサリーでも
リクエストして受け取ればいいんだろうか。
それで彼に自信がつくんだろうか。
「僕のあげたプレゼントで喜んでくれた」と
「気持ち悪がらずに受け取ってくれた」と。
それでもやはり、
受け取ってはいけないような気がした。
私は「友達にならなれるよ」
と言った言葉は本心だったからだ。
友達の男性に
1万円のアクセサリーなんて買ってもらわない。
少し考えてから、
「今から私が言うことちゃんと聞ける?」
と言うと
「はい」と返事が来た。
「その50万、私に使って」と言った。
「私に使った事にして。
んで、そのお金で今の家から引っ越して。」
と送った。
彼は新卒から
マンスリーマンションに住んでると言っていた。
家具も据え付きで、布団しか買っていないと。
布団も洗わず、掃除機さえないと。
「まずは環境から変えなよ」
とずっと言っていたのはそのためだ。
環境を変えることに、
その50万を使うのがいいと思った。
「ちゃんと家具を選んで、
自分の家も選んでそこに住んで。」
「掃除をして、ご飯を食べて、
ちゃんとした生活をして。」
「そうしたら色々、
たぶん変わってくるから」
と送った。
「なんか、ありがとうございます。」と来た。
「ちゃんと出来るのか」と聞いたら、
「出来ます」と言った。
8月某日
例の後輩男性から話しかけられた。
「〇〇さん(素人童貞)が
会いたがってましたよ」と。
飲み会で最近会ったらしい。
私は
「えーまずは引っ越す約束なんだよなあ」と言うと
「引っ越し?してないと思うよ」と言っていた
「なんかインプラント入れるから今は無理らしい」
最悪だ。虫歯が悪化したようだ。
だから歯を大切にしろと言ったのに。
後輩男性のスマホを借りて
「9月末までにお引越しのお約束でしたが、
そちら進捗いかがでしょうか?
ご連絡がありませんので、ご対応お願いします。
それでないとお会いすることはできません」
と、業務連絡の様なボイスメッセージを送った。
「引っ越しします、期限の延期はできますか?」
と返事がきていた。
9月某日
後輩女性から
「◯◯さん(素人童貞)会いたがってましたよ~
みんなでまた飲みましょう」と言われた
10月某日
試験の勉強をしていると、
知人が亡くなったと連絡がきた。
冷える心に動きを止めていると
LINEの通知が入った
素人童貞からだった
「久しぶり★元気☆彡?」
口調も絵文字もすべて、
これは本人ではないと分かった。
誰かに送らされているか、
スマホでも奪われているだろうと分かる。
それか酔って調子に乗って送っている。
本当に腹の立つことをしてくる。
こういうのが1番ウザい。
そもそも自分から連絡できるような奴ではない。
というか私は今、
知人が死んだニュースの直後で
おそらく今年1番元気がない。
全てにおおいてミスっている素人童貞に
少し笑いそうにもなった。
「酔った勢いで送ってくるの
1番ウザいからやめろ」と返事をした。
「流石、見ぬいている」
「だから惚れてるんです」と来た。
完全に酔っていそうで更にイライラした。
「人に言われて送ってくるの
本当にこっちはダメージくらうからやめて」
「普通こういうの中学生までに終えるんだよ」
「お前は終えてこなかったんだから今学べ」
そう送るとLINEは終わった。
でも0時頃に
「飲み会が終わったので電話がしたい」
とまたLINEが来た。
電話なんてしたことがないので、
本気の謝罪か?と思いこっちからかけた。
電話をすると、
明らかに飲み会の最中の声がした。
「え、出たのー?」
「なになに」
「いや、今話してる」
男や女の声がする。
最悪のパターンだな、と第一声からキレた
「誰と飲んでんの」
すると
「いや、飲んでないです、すみません」
と謝ってくる
「いや飲んでんだろ声聞こえてんだよ、誰だよ」
と続けると、新しい会社の人だと言う
そして、
背景が分からないがなぜかずっと謝っている
「すみませんすみませんすみませんすみません」
早口でなぜかずっと私に謝っている
電話したいと言ってきたのに
謝られ続けて意味がわからず
イライラしたまま答える
「謝るのやめて」
そのやり取りを何度しても謝り続け
「やめてって言ってんの」と言うと
「あー怖い!こわい!」と言い出した。
電話したいと言い出したのに
素人童貞のこのありさまに更に腹が立った。
よくわからないが、
誰かに電話をかけさせられたように感じた。
「あーもう最悪ですよ!」と周りに少し怒りながら
「本当にすみません」と私に謝り続けた。
何百回と謝られ、怖いと言われ
知人の死に落ち込んでいた心が更に抉れた。
「あのさ、
お前に関係なかったから言わなかったけど
今日私試験勉強してたの。
んで知り合いが死んだの。
こっちにも事情があるし感情があるんだよ。
それでも電話したいって言われてしてるじゃん。
それでこれは何?
怖いって言われて謝り続けられて
不快だよかなり」
と言うと
また謝られた。
電話を切ってから、
私はかなりブルーになった。
素人童貞、新しい会社でいじめられているのか?
元々学生時代にはいじめられていたと聞いた。
殴られ続けたから肩は強いと自慢していた。
私と同じ会社だった時は、
みんな素人童貞を揶揄いながら
それでもただ楽しく見ていただけだ。
こんな風に
「気になる女に電話しろ」
なんて言う人はいない。
というか大人になってそんな事って、
ほとんどありえない。
令和の今、30超えた大人が
そんな事をさせられるのを聞いたことが無い。
私にも電話の向こうの声は聞こえていた。
聞こえているのは
そいつらにも必ずわかるはずだ。
なのに誰も止めないのか。
素人童貞と私の関係が、
壊れるだろうと分かっていても。
「バカにされすぎだろ」と腹さえ立ってきた。
「お前の今の会社の奴らと飲み会組めよ」
と言おうかとさえ思った。
化粧も身なりもバチバチにキメて、
水商売の時の同僚を連れて
「電話の相手こんな女だったのかよ、、」
と圧倒してやろうかと。
いじめられている様子の素人童貞や
その矛先になってしまった自分の事や
受け取められない知人の死や
毎日の試験勉強の疲れで、グッタリした。
悩んだけれど素人童貞にLINEを打った。
「大人になって、
誰かに電話をさせたりするような人から
まずは自分をちゃんと守りなよ。
社会に出てそんな事させる人ありえないでしょう。
そういうものから、まずは自分を守るんだよ。
今回あなたが私に嫌な思いをさせた事は
あなたが、
まず自分を大切にできなかったからだよ。」
こんな事を送った。
既読になったが返信は来なかった。
翌日、仕事で後輩男性に会った。
かなり喰らってしまっていた私は
「今日話したい事がある」と
後輩男性と飲みに行き、他にも複数人いる中で
指輪の話や、電話の話をした。
全てを初めて聞く同僚は
「なんでそんなに優しくするの」
「無視しなよ」と言っていた。
私は前途のぐんぴぃの話をして
「私が今、何かを間違えたら
彼は一生人を好きになれない気がする」
と話した。
それはずっと思っていた私の本心だった。
人を好きになる事は、
自分を好きになることだから
私は彼を好きになれないけれど、
私に「好き」とチラホラ好意をにおわせて
それを私に拒否されない事で、
彼が人生で初めての悦びを得ていると知っていた。
好意や懇意が拒否されず、
受け止めてもらえるという経験だ。
私は沢山人に恋をしてきたから、
その経験の大切さを知っている。
ガクヅケの木田さんは、
大好きだった後輩の男の子が
好意を受け止めてくれたのが
嬉しかったと言っていた。
一番くじを全部買い占めて、
大きな袋で何万もした
全ての景品を渡しても
「ありがとう」と受け取ってくれたのが、
嬉しかったと。
私にはその気持ちが痛いほどわかった。
私だってもしも好きな人に
50万円のプレゼントを買って
「いらない」「受け取れない」と言われたら
消えたいくらい悲しくなると、
自分を嫌いになる可能性さえあると思った。
だから「私に使ったと思って」と彼に言った。
ものは受け取れないけど、
気持ちは受け取ったつもりだった。
それを経て、「自分を好きになる」ことや
「人を好きになる」ことを、
彼ができたらいいとそう思っていた。
その事を簡易的に伝えたけれど
会社の人たちは、
分かったようで分からない顔をしていた。
後輩男子に言われたからか、
その夜に返信が来た。
「何度も迷惑をかけてすみません。
もう相手にしてもらえなくても
仕方ないと思っています」
何も分かっていないな、と腹が立った。
「まずは相手の気持ちを聞いて受け止めるんだよ
何が嫌だったのか、何に傷ついたのか聞くの
それを、申し訳ないと思ったら謝るんだよ
それが人間関係なんだよ」
というと、
「確かに自分勝手でした」と返信が来る
「変わりたいと思いますか?」
と聞くと、変わりたいと言う。
「じゃあ、私と後輩男子からの
本当の説教がちゃんと聞けるなら
ふざけたりせずに聞いて、
それをきちんと受け止められるなら
友達でいることはできます」
と言った。
その席が今後用意される事になった
11月某日
友達の家で鍋の準備をしていると
後輩男子からLINEが来た。
「〇〇さん(素人童貞)が話したいって」
「電話してもいい?」
と言うので、電話をしてもいいと許可をした。
あの時の謝罪でもするのか、と
鍋の準備をしながらスピーカーフォンにした。
もう電話の先にいるはずなのに沈黙が続いた、
「あ、あの」と声がして
「なに?」と聞くと
「あの、気持ちを、、」と素人童貞が言った。
しどろもどろ、ブツブツ言うので
「この間、ちゃんと話が聴けたら
友達でいられるって言わなかった?
それはどうなった?」
と言うと「あ、そうか、、」
とまた無言になった。
この会話だけで5分くらいかかった。
友達が口パクで「やばくない?」と私に言った。
埒があかないので後輩男子に代わってもらうと
「よくわかんない、ごめんね」となって
電話を切った。
しばらくすると、素人童貞からLINEが来た。
10行くらいで何かが書いてある。
答えが欲しい訳ではないけれど聞いて欲しい
一つだけ伝えたいと。
私の事を「出会った中で1番魅力的な女性」と言い
「頭が良くて刺激になる」と書いてあった。
素人童貞は国公立大学卒で、
私はFラン大学卒なのに
この男は面白いくらいにプライドがなくて
偉いなと思った。
LINEを開いた時は
「え、、、、告白?」と思ったが
よく見ると「好き」という文字は書かれていない
「気持ちを伝えたい」とだけ書かれ
後はさっき書いた通り、
ただ私がべらぼうに褒められていた。
「なんなんだ、、、」と、
友達といるのでLINEを放置し
それでも30分後に
「ありがとー!」と返事をした。
困らせていると受け取らせない時間の間隔で
嬉しいとも、ごめんとも言わず
ただ、「ありがとー!」と送った。
自分のこういう気遣いは好きだと思った。
ちゃんと、「間違えていない」と思った。
友達の家から帰る時に、またLINEがきた。
返信ありがとうございます。という旨と
なぜか
「引くべきとは分かっています、
もうこれで最後にしたい。返信はいらないです。」
などと書かれていて
私は思わず夜空を仰いでしまった。
友達が不思議そうにしているので
「いや実は、、」
とのそのLINEの事を打ち明け
少し話を聞いてもらった
「最後、、、って」
「私会いたいって言われて
呼ばれた飲み会に行ってただけなんだけど、、、」
「私がめっちゃ
振り回したみたいになってない、、、?」
「というか、
この人と二人きりで会ったりもしてないし」
「人がいる飲み会で
6~7回しか会ったことないよ?」
「あとは会社のミーティング」
そう言うと、友達は終始驚いていた。
私は「返信不要」と言葉を奪われ、
突然気持ちをぶつけられたような感覚に
唖然としていた。
友達と解散してから、
色んな気持ちは後回しにして
「、、、、ありがとう」
とだけ夜道で呟いた。
最後のLINEは開かずにいた。
12月某日
「〇〇さん(素人童貞)のこの間の電話ごめんね」
と後輩男子に言われた。
「あの後、、知ってる?」と聞くと、
後輩男子は知らなかった。
また前と同じようなメンバーで飲みに行き、
私はその話をした
「まず、最後って言われても
会いたいって言われて行ってたのに」
「返信不要って自分勝手すぎるよな」
「そもそも、2人で会ったこともないのに、、」
と、友達に話したような事を話した。
みんな辞めていった元同僚の素人童貞を想い
「あの人は今後も恋愛は無理だろうなあ」と言った
私は
「せめて、自分を好きになって
私じゃない他の誰かといつか恋愛をして欲しい
と思ってたんだけどなあ」と言った。
みんな、本気ではないけれど
笑い話にする空気でそのまま話を聞いてくれて
私は少し気が楽になった。
彼からのLINEは未読にしたままだった。
見切れた私を褒める文章を見て
「「好き」と言わない、I love youだ」
と気が付いた。
どう受け止めればいいか分からなくなった。
12月某日
私は不安と闘っていた。
いつもいつもこの不安に陥ってしまう。
もうこれは自分に原因があると分かっていた。
恋愛のような心が動く事があるとすぐにこうだ。
連絡がこないとか、相手の様子で
すぐに不安になって
「またこのパターンか」と脳が考え出す。
いつもいつもそうだ。今回もそうなりそうだ。
私は人の連絡を待ちながら不安と闘っていた。
今年は自分を見つめ直しながら、
恋愛が上手くいかない事は、
だいたいいつも同じパターンで
どうにかしてこのパターンを
乗り越えないといけないのだと分かっていた。
家庭環境も邪魔をして
結局私は自分に自信がない。
友達はいるけれど、対男性に自信がない。
色仕掛けとか、
上っ面の色恋とか
そんな情事は超えてきても
1対1での恋愛に、てんで弱い。
いつも上手くいかない。
水商売の時に「友達営業」をしていたのは、
そこに自信がある事も大きかったけれど、
人の気持ちを受け止める事や、
愛される事にも自信がなかったからだった。
その事にももう気が付いていた。
「自分は男性に愛されない」
「大切にされない」
と思い込んでいる事や
それを当たり前に受け入れすぎていると
今年になって気が付いた。
だからいつも、私を大切にしない人に
私は寄って行ってしまう。
私を好きだと言う人からは逃げて
「好きになる人からは好かれない」
と嘆いていた。
好きな人に好きになってもらった経験は
高校の時だけな気がする。
もうその全てから、解放されたいと思っていた。
今年はずっと思っていたけれど、
特にいま、まさに乗り越えたかった。
2月にデートをしてから
音信不通になった人のLINEを
ふと開いてみた。
当時は付いていなかった既読が付いていた。
ああ、これは知っている。
「ブロックしていない」という意思表示だ。
私も人に同じことをしたからこそわかる、
彼と私はよく似ていた。本当によく似ていた。
たぶん、彼も
私と同じところでグルグルしている。
家庭環境や過去のことを引き摺ったまま
とても似ている私たちが2月に出会った。
私に自ら2回目の約束をしたり
毎朝起きてすぐに連絡をしながらも
何かに引き摺られて、
何かに迷っているのを知っていた。
この既読は、彼の優しさだと思った。
「伝わるかわからないけど」と、
「今好意は受け止められないけど」と
私を気遣ってくれたんだ。
ちゃんと伝わったよ、と思いLINEを閉じた。
不安と闘いながら、人の連絡を待ちながら
「ああ、不安になっているな」
と感情を眺める練習をした。
「大丈夫」と自分に言い聞かせて
時々紙にも書いてみるけれど
その直後に、
「私は愛されないのに」と恐怖心に襲われた。
「私なんて愛されないのに」
「愛されてこなかったのに」
「私に魅力なんてないのに」
そう思い、仕事中に涙目になった。
トイレに行ってぼーっとした。
どうやって乗り越えていくんだろう。
こんなの、自分でどうにか出来ることなのか。
何も分からなかった。
やっぱり泣きそうになった。
自分は一生このままのように思えた。
ふと、素人童貞のLINEを思い出した。
「出会った中で1番魅力的な女性です」
私はトイレを出て仕事に戻った。
涙はもう出なくなった。
ずっと未読にしていた彼のLINEを開いた。
「ありがとー!」と送ってからは
「返信はいらない」と言われていたが
送られてきた後の数日間は
何か送り返そうか悩んでいた。
「人から言葉を奪うな」とか
「相手にも感情があるんだよ」とか
「うんこ投げられて文句も言えないような気分だ」
とか
「こういうのって、恋とまでいかないような
人に見せないような慕情だよな」
とは思った事と
「相手を思いやらずぶつけたら
うんこと変わらねえよ」
と思っていたけれど
さすがにうんことは言えないな
とは思っていて
何かしら返そうかとずっと悩んでいて
ただ返す言葉もないし
それでも自分勝手な「返信不要」を
受理したと受け取らせるのも癪で
困って未読のままにしていた
でも送るべき言葉がやっとわかった。
やっと本心で言えると思った。
「ありがとう」と送った。