私の仕事
12月中はまだお客さんが少なかったこともあり、社長が対応していたらしく、私にメールが来ることはなかった。
1月になるとお客さんからの問い合わせがポツポツ来るようになった。
メールが来たらAさんに転送する。
内容は技術的なことで専門用語も多く、よくわからなかった。
お客さんの接続先はMicrosoftのExchangeかIBMのNotesのどちらかで、当時、Exchangeを使っている企業の方が多かった。Notesは金融機関や地方自治体でよく使われていたように思う。
まず、お客さんの用意したサーバにJBOSSを入れ、その上にこちらで開発したモジュールをインストールして、Exchangeや Notesに接続する。
インストールはこちらから技術者が行って作業するのだが、当時は社員がいないから、Aさんか、情報処理を勉強中のアルバイト学生が行っていた。
作業後に動作確認して問題がないことを確認して帰ってくる。
お客さんは携帯に表示されたメニューを開き、メールや予定表を閲覧したり作成したりするのだが、うまく接続できないこともあった。
そういうときにエラーが出たら、エラー番号とエラーメッセージを教えてもらう。
また、サーバのログを取ってメール添付で送ってもらう。
お客さんの送ってきたログをAさんが解析して、障害の原因を書いてくるので、内容は私が読んでもわからないからそっくりコピペして、必要であれば文体や語尾など日本語の部分を手直しして、前後に定型の挨拶文をつけてお客さんに送り返す。
ざっと書くと、こんなふうにやり取りしていた。
ExchangeやNotesは使ったことはないが存在は知っていた。
JBOSS、Apache(アパッチ)、AD(Active Directory)などは名前だけは知っていたが、自分で扱ったことはないし、何なのかよくわからなかった。
時間はたっぷりあったので、少しは勉強しようと、お客さんの問い合わせやAさんの回答に出てくる技術用語をネットで検索すると、説明の中にまた知らない用語が出てくる。
それを調べると、その説明の中にまた別の用語が出てくる。
要点をメモ帳にコピーしてまとめてからもう1度読み返してみるが、やっぱりよくわからない。
プロバイダーでバイトしているときに、システム課のS課長がインターネットに関する技術的な入門書の主なページをコピーしてくれたので、読んでわずかな知識はあった。
接続サポートの仕事には必要なかったが、興味があったので、IPアドレスやサブネットマスクの計算の練習問題もやってみたことがある。
ただ、そんな素人のちょっとした興味で知った知識は、もちろん役には立たない。
それよりも、自分の頭を整理するために、お客さんとAさんのやり取りを、お客さんごとに、また、問い合わせごとに、時間軸に沿ってメモ帳に記録していった。
いつだれから何についての問い合わせがあり、それに対してこちらはどういう回答をしたか。
その続きの問い合わせ、それに対する回答。
事象ごとに、受信と送信の日時、書いている人、内容、といった順序で記録していく。
1件の問い合わせのやり取りが長くなると、Aさんは過去の自分の回答をはっきり覚えていないので、確か伝えたはずだが、お客さんはちゃんと覚えていないのか、理解していないのか、それとも自分がまだ伝えていないのか、どっちだかわからなくなることがあった。
そんなとき、私が自分の記録を探して、いつだれにどう回答したかを教えてあげた。
記録がたまると、その中の質疑応答の部分を拾って、ExchangeのFAQ、 Notesの FAQに分類し、やはりメモ帳に記録していった。
Exchangeなのか Notesなのか、内容を読んで自分で判別できないから、ある程度溜まったところでAさんに見せてチェックしてもらう。
私は自分の頭を整理するためにやっていたのだが、のちにこれは製品の正式なFAQとして、お客さんに利用してもらうことになった。
また、Exchange/Notesではこういうエラーがよく出る、このエラーが表示されたら原因はこれ、という、よく出るエラー集も作った。これももう少し先のことだ。
最初の3か月は試用期間で、本採用になるかどうかはわからなかったから、3カ月後にやっぱりダメでしたと言われないように、頑張って仕事をしていた。
それなのに、とんだ失敗をすることになる。